特有の病
マコは普通の中学生であった。特に目立った特技はなかったが、一人っ子であったから、両親の愛情を一心に受け成長してきた。
そんなマコが自身の身体の異常に気づいたのは、テスト最終日の朝のことだった。
初めの異常は目に現れた。朝起きた瞬間、なにやらいつもより視界が鮮明ではないことに気がついた。なにやら目に白いベールが被さっているようであった。寝ぼけているのかと思ったが、時間をおいても、目をパチパチさせても、視界は変わらなかった。マコは家族が朝食を食べるリビングへと向かった。
「きっとテスト勉強で疲れているのだろう。」
その程度に考えていたが、そうではなかった。白いモヤは、父親の身体から放出されていた。それはまるで花粉の胞子のようであった。
「マコどうした?おはよう。」
そう言いながらコーヒーをすする父親の声は、いつもの声ではなく、マコの頭のなかで反響した。マコは頭痛を覚えた。それは不協和音であり、いつまでも頭から離れず彼女を不機嫌にさせた。
その日から、父親だけにかかるエフェクトはどんどんエスカレートしていった。
初日は白いモヤだったものが、日を追うごとに黄色味を帯びてきて、最近ではもう茶色になってきている。それは悪臭を放ち、今ではもう父親に近づくこともはばかられるようになった。
父親が吐いた茶色の息が、エアコンの風に乗って、母親の紅茶のカップに入るのを見た。マコはもう限界だった。
マコは父親と洗濯物を別にしてもらい、なるべく顔を合わせないように努めた。父親が絡んでくるときは、彼女自身も驚くような汚い言葉で彼を蔑んだ。
父親は何が何だかわからなかった。
サチコは専業主婦だった。夫の稼ぎも申し分なく、可愛い娘もいる幸せな生活を送っていた。
しかしサチコには悩みがあった。それは、夫の姿が日を追うにつれ肥大化し、皮膚の色は緑色に変色し、吹き出物だらけのガマガエルのような姿に変わりつつある点である。
その日から、夫の些細な文句が今まで以上にに腹立たしく感じられるようになった。サチコは夫に対して愛情がなくなったどころか、生理的嫌悪まで覚えるようになった。彼の使用済みの下着は割り箸でつままないといけなくなった。
夫は何が何だかわからなかった。
マコとサチコは病院に行った。医者によると、これらは病名は異なるが、誰しも一度はかかる病なのだという。そしてその病は、時間が解決してくれることがほとんどなんだそうだ。彼女達は安堵した。
帰宅後、マコとサチコの帰りを待ち侘びた父親(夫)がソファーで寝ていた。彼は寝たまま放屁をした。
彼女達の身体に一斉に寒気が襲った。
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