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オタク編集者が、アツギの炎上に全く同情できない理由

女性用ストッキング・タイツのメーカーとして老舗・アツギが燃えている。
発端を纏めている記事はこれだ。

アツギが「性的消費」と炎上。タイツを履いた女性のイラストで商品をPR
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5fa09fdec5b686950031a146

ここ最近、一般企業(オタク系企業と対比してこう呼ぶ)が、オタク系コンテンツを使ってPRをすることが本当に増えた。小学生のころから生粋のオタクで、好きなことを仕事にしている僕にとっては、良い時代が来たなあ、と感慨深い。

感慨深いのだけど、忘れてはいけない。
オタク文化はカルチャーの1つでしかないのだ。
それに対して、どういう目が向けられているのかを考え続けないといけない。
そして、一歩間違えばこういう事態が待っているのである。

・参加絵師たちが大好きな僕の感想

この件について、ネットでは賛否両論だね。
「賛否両論」っていうと、だいたい「否」のほうが多いっていうけど、見た感じ今回のは本当にネット評価は5分5分。

「否」の大半は、フェミニズム系クラスタ、それからオタク趣味ではない一般的な女性消費者、炎上を見てこの事態を知った層。
「賛」は容易に想像つくと思うが、オタク層である。

あまりオタク文化に詳しくない人に解説をすると、今回の企画に参加していたイラストレーターは、現在のイラストレーター界隈のなかでもトップクラスに「現在進行系で人気のある絵師」が大半だ。
Twitterフォロワーでいうと基本的に全員10万フォロワーは超えていると思う。だからこそ、それを愛するオタク層はいるわけで、「賛」の声もそれなりに大きくなるのもわかる。
先に述べておくと、僕もこのイラストレーターたちの絵は大好きである。
何人かとは、以前お仕事もしたことがある。

という前提を前置きしつつ、今回の炎上について僕の意見だけど

この企画はダメ、アウト。却下に決まってんだろ、こんなもん……!

アツギがこの絵師たちに、相応の原稿料で声をかけて纏めたとは考えられないので、きっと代理店が入っているんだろうけど、代理店が大失点ですよ、こんなの。
見た瞬間にわかるよ、これは考えたやつがどうかしている。

理由はたった一つ。

「圧倒的な場違い」

これにつきる。

・人気コンテンツを『場違いなところ』に放り込むリスク

今回、アツギの広報と代理店が考えたのは、こういう感じじゃないかなーと僕は想像する。

「最近、ネットで商品をバズらせるのには『記念日』に、それに関連したフォロワーの多い絵師に描きおろしの絵を投下させることですよ。
リツイートが増えれば、本来の購入層の目に触れることも多いし、そもそもいま男性向けイラスト好む女性も多いので、絶対成功します!」

実際この考え方自体は間違ってない。
一時期、映画業界がステマでマンガ系感想ツイートを仕込んでいたのが問題になったけど、それくらいTwitterを使ったプロモーションは重視されている。今年のコロナ禍で、消費者にリーチできる場所が限られたのも、それに拍車をかけた。

なんだけど! 
これって成功するのは、「正しく、それを好む層に届けられた場合」なんだよね。
で、ご存知の通り「鬼滅の刃」が飛ぶ鳥を落とす勢いで日本に浸透し、声優アイドルが紅白に出場し、バラエティ番組でもオタク向けアニメが取り上げられるから、みんな忘れていると思うんだけど。
オタク文化ってマイナーなのよ。そして、そこで語られたり好まれる文脈って『異常性』にあふれているのよ。
文化を理解していないと、異質なものとして排除されちゃうのよ。

今回のアツギさん。購入している層はオタクばかりじゃないでしょう。
というより、大半は違うでしょう。そんな人たちにとって、萌えイラストは「異質なもの」なのよ。
よくわからない、下手すりゃ不快に感じるものなのよ。
それを自分たちのテリトリー・文化に持ち込まれたら、彼ら・彼女たちの感覚で排除されますよ。

つまりは場違いなんだ。

この「場違い」ってのは、相当な悪ですよ。
あるところでは人気者でも、全然違う文脈にいけば不快感の塊になってしまうものなんだから。
人気アニメの実写映画の主演を務めるジャニーズ俳優、オタク系イベントで突如登場する吉本芸人、千本桜をカバーするAKB。

それに近い批判だよね。他の例を考えてみると……
「ラブライブ」とか「アイカツ」のステージに、いきなりフワちゃん登場して「アタシもアイドルでーす! 虹ヶ咲に入りまーす!」とか言って出てきたようなもんですよ。
(フワちゃん、なんかネット界隈では異常に嫌われているよね、僕は嫌いじゃないけど)

あとは、ホロライブとLDH JAPANが突如コラボして動画出すとか。

あとは、「五等分の花嫁」とJTやパチンコ屋がコラボするとか。
20代を超えた五つ子たちが、突如全員パチンコ打ちながらタバコを吸うポスター作るの。
これは世間の評判、結構見てみたかったりする。

そういうもんなのよ、「場違いが産む悲劇」ってのは。
フワちゃん嫌いな人多いし、LHD JAPANとかゴリゴリの萌え方向のオタクコンテンツ(※)に現れたら反感抱く人も多いだろうし、
パチンコやタバコ嫌いな人もいるけど、それって誰かには愛されてるのよ。
適切な人選で、適切な広告だったら、むしろ大成功だったのよ。

今回の宣伝は、毛並みがよくて質の良い羊を、血気盛んな狼の群れに放り込んだようなもんですよ。それが問題なのよね。

・性的搾取とか、描いた人の性別とか、今回の炎上に全く関係無し

だからぶっちゃけ、「反対派」の人でも声の大きい人が言ってる、今回のイラストが「性的搾取」かどうかとか、「炎上」という意味においては関係ないんだよね。
それは「反対派の人たちが、当然のように捉えてる感覚」であって、目の前にそんな絵を見せられたら、そう言うんだから。

問題は、「絵を性的搾取だ」って思う人の前に、その絵を大量に出してしまったことだよね。

萌えイラストが「性的搾取」かどうかについては、そりゃあ、萌えイラストを見て「女性の性的搾取」だと考える人もいるでしょう。
世の中にはいろんな人がいるんだから。僕はそうは思わんけどね。

「ああ、あなたたちにとっては、そうなんですね。まあ、だからなんだって話ですが。僕はこの絵がマイナスな影響を及ぼすとは思えませんし、楽しいと思う人たちに向けて社会貢献をしているつもりです。嫌なら見ないでください。以上」

これで終わりなのよ。その人たちにとっては、絵の解釈が「性的搾取」なんだから、それを説得してもしゃーないと思うし、そんなことは無いという信念があるから僕もオタク界隈で仕事を続けているのだ。

「嫌なら見るな」って、10年前からなんかすげえネガティブに捉えられてるけど、あれ本当にそのとおりなんだよね。文化や価値観が違うんだから、見なけりゃいい。お前はお前。俺は俺。で本来は終わるんだ。

それを、見たくないやつに見せちゃったのが問題なんだよね。

ちなみに「賛」側の反論で、「描いてる人の大半は女性だから的外れ!」なんてのもあるけど、それも全くの筋違いだよね。
だって、反対派の人は見たくないところに、その人たちにとって「不快な絵」を見せられたことを問題にしてるんだから。
描いた人が男性か女性かとか関係ないのだよね。
普段使いする下着について「これってエロい目で見られてるの?」っていう想像をさせてしまってることが問題なのだから。

だから、これを「男性の絵」に置き換えて「男性はそう思わない」って言っても仕方ないのよ。男性は、それで不快な気持ちになることなんて、ほとんど無いんだから。

企画者は女性、描いてるのは女性、騒いだのは女性。だから男性が被害者。って言ってる人がいましたけど、それは話が飛びすぎでしょう。
不快なものを見せられた人が確実に被害者ですよ。その人が差し止める権利はないけど、文句言う権利くらいはあってしかるべきでしょう。

さっき場違いの例を挙げたけど、もっと極端な話をするならよ。
今回の絵は「反対派」の人たちにとって、一番近いのは

「ゴキブリを部屋で大量に飼育する様子を、大量にゴールデンタイムのテレビや、ネットでバンバン流れる広告で見せられた」

っていうのに近いんだよね。単純に気持ち悪いのよ、そんな映像。
もちろん、僕は今回の絵は気持ち悪いとは思わないよ? だけど、この絵に反応するオタク層の反応付きで気持ち悪いと思う層は確実にいるわけで。
そんな人が買っている商品のPRに、こんなの出したらそりゃ炎上しますよ。

・今後の懸念

ということで、今回の最大の問題の本質は「場違い」だったことだね。
それ以上でもそれ以下でもない。イラスト自体の是非は、別の問題ですよ。

ただ心配なのは、今回のことで絵師側は相当嫌な思いしたと思うんだよね。クライアントからの依頼に応えてイラスト描いたら、こんなことになるとは想像してないだろうし。
マンガやライトノベルの出版社からの依頼で同じイラスト描いたら、普通に大絶賛で終わりですよ。

だから、これで「場違い感」を嫌って、一般企業の依頼を断る絵師が出てくる可能性が充分にあるよね。
それは、なんというか機会としてもったいないし、こういうことが続いてほしくないと思いますよ。

たとえば、NiziUにでもタイツ履かせて、エモい写真を撮らせておけば。(それも安易か?)
こんなに燃えなかっただろうね。ただ、1点だけその場合は予算が段違いに上がってしまうだろうけどね。
影響力の割に頼みやすい世界なんだ、オタク業界。

それが良いところでもあるけど、一歩間違えばこういうリスクもある。
勉強になった事件だったね。

<余談>

ちなみに、今回のTwitterで今回の広報担当者が「個人的にも嬉しい」的なツイートしてるんだけど、これもきっと代理店の入れ知恵だったんじゃないかなーっていう気がするんだよね。

オタクってニワカを嫌うから、「このイラスト、私も本当に好きなんですよー!」って広報Twitterが言ったほうが親近感も湧くし、安易に手を出したと思われないっていうメリットがあるんだよね。

まあ、完全に裏目に出たよね。「私物化だ!」って騒いでる人もいるけど、そりゃ批判するときに叩きやすい格好の材料にされてしまうよ。
とはいえ、こういう会社だとやっぱり年配の人々はそういう文脈もわかってくれるかどうか微妙なところだし、広報担当者が普通に責任取らされそうで気の毒になってしまうね。

・11月6日補足

(※いろんな人に指摘をもらったから、ここだけは訂正! LDH JAPANは「HIGH&LOW」とかで結構オタク関係絡んでいました。勉強不足。あくまで「180度方向の違う萌えコンテンツ」っていうニュアンスに直しました)・

・11月8日補足

続き。
擁護側も反対側もコメントありがたいですが、どちらの側にもあまりにも行き過ぎな人も多いので、追記しました。



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