完全巫女バイトマニュアル
巫女バイト、それは一部の人の憧れである。
大学生になった私はほぼ毎年の年末年始を巫女バイトに捧げた。
アラサーになって巫女バイトができなくなった記念に、過去5年に渡る巫女バイトの経験をお伝えしようと思う。
長くなるが、巫女バイトを検討している人の助けになれば幸いである。
▼そもそも巫女バイトってどうやって募集しているの?
お正月暇だから巫女バイトやってみようかな〜と思った事がある人には共感してもらえると思うのだが、巫女バイトの求人はとにかく探しづらい。「巫女 バイト」で検索しても「巫女バイトって実際どうなの?」のようなサイトしか出てこない。地元の神社へのコネでもない限り、この段階で諦めて他のバイトを探す人が多いのではないだろうか。
なぜならば、”バイト”ではないからだ。正しくは”助務”あるいは”助勤”である。
神社業界では”バイト”なる外来語は好まれず、専ら”助務”あるいは”助勤”という格式高めな単語が使われる。ちなみに正社員は”本職”と呼ばれる。私がお勤めを経験した2社の神社どちらにおいても、説明会の時に「皆さんは単なるバイトではなく助務つまり本職の務めを助ける立場なので、その自覚を持って本職さんに負けないくらいのお勤めをしてください」と言われた。若干ブラック感があるが、ベテラン助務さんたちへのヒアリングの結果、これが普通の感覚のようだ。逆に「巫女バイト募集!誰でもOKです^^」などと広告を打っている神社に対しては若干の不安を持った方がいい。ただし、この記事内では面倒なので”バイト”で通すことにする。
したがって、「巫女 助務」や「巫女 助勤」で検索すれば種々の神社の求人がヒットするはずだ。各社求人が一覧となっている便利ツールはないので(2020年5月6日時点)、各社のホームページをコツコツ探す必要がある。狙いの神社があるならば、その神社のホームページを定期的にチェックするのも良いだろう。
ちなみに「巫女 募集」で調べると、ヒットするにはするが、コスプレカフェや正社員の求人などのノイズが鬱陶しいのであまりお勧めしない。まずは手堅く上記のワードで検索をかけて欲しい。
▼巫女バイトの採用時期は?どうやって応募するの?
やっと求人を見つけあなたは重大なミスに気づく。あれ、もう募集終わってない?
神社によっても差はあるが、巫女バイトの募集締め切り時期は9月〜11月となっている。私はこれまでに2社経験しているが、1社目は11月末、2社目は10月末に締め切りだった。
意外にもこれが理由で巫女バイトを逃す人が多い。なぜならば、お正月暇だから巫女バイトやってみようかな〜と思い始めるタイミングは11月下旬〜12月上旬だからだ。加えて、多くの神社では履歴書の郵送が必要となる。つまり、思い立ってから応募が完了するまでのリードタイムが長い。ネットで求人を出しているほどの有名どころの神社は、応募人数も多く選べる側の立場となる。したがって、締め切り期限過ぎちゃったけど大丈夫だよね…という淡い期待は持つだけ無駄である。大人しく来年を待とう。
▼巫女バイトの採用条件は?
ここで実際の求人を見てみよう。
今回例に挙げるのは赤坂にある日枝神社の求人である。詳細は引用元で確認してもらうとして、本記事では応募資格のみピックアップする。
「都内近郊在住」とあるが、片道2時間を目安と考えてもらえればいい。2時間以上の通勤時間をかけてでもお勤めしたい神社があるならば、ちょっとくらいごまかしても構わないだろう。ただし朝番はたいてい7時始まりなので、後々自分の首を締めることになる。
さて、年齢に関しては後ほど解説するとして、ここで気になるのは「巫女にふさわしい態度・身なりで奉仕できる方」との文言である。これに関しては「注意事項」に詳細が記載されている。
以下で解説していく。
まず、各社共通で茶髪・ピアス穴・タトゥーはNGである。「神にお仕えする者は体を加工してはいけない」という思想があるからだそうだ。加えて、神社としてのブランドイメージを壊すという大きなデメリットがある。応募時に黒髪、勤務時に茶髪、という作戦で突破しようとする猛者を見た事があるが、無期限出勤停止になっていた。万が一お勤めできたとしても「巫女さんが茶髪だ」というクレームが入ることが多いらしい。腐った伝統をぶっ壊してやる!という気概がある方もいるかもしれないが、これに関しては神社という存在自体が人の信心で成り立っている客商売の側面を持っているので、ある程度仕方ないことと受け入れるしかない。
次に、パーマ・メガネ・短髪はOK寄りのグレーゾーンである。パーマに関しては、上記の神にお仕えするものは〜理論で公にはNGとされているが、癖毛と見分けのつかないレベルの緩めのパーマであればOKとなる可能性も高い。メガネに関してはNGとされているにも関わらず、実際のお勤めでは毎年見かける謎の項目である。おそらく履歴書の写真がメガネなしなら大丈夫だ。短髪に関しては日枝神社の求人内で「一つに結べない長さ」という具体的な記述があるが、「髪が顔にかかってバサバサするのがみっともない」という理由でNGとされている。裏を返せば、ある程度ヘアゴムやヘアピンなどでまとめられればOKとなる。よって、履歴書に添付する写真はまとめ髪のものを選ぶと合格の確率が上がる。ただし、お勤めは可能であっても神楽舞などの特殊な業務はできない。
最後に年齢に関して。たいていの神社では「18歳~22歳(経験者除く)」としているが、実際にお勤めしているのは18〜26歳くらいの方で、時にはアラサー、稀にアラフォーの方もお見かけする。経験者、つまりリピーターの採用率が多いからだ。巫女バイトは専門性が要求される場面もあるので、その際に対応できる人材は神社側としても重宝するというわけだ。ただし、経験なし23歳以上で採用された例も聞くので、受かったらラッキーくらいの気持ちで応募してみてもいいかもしれない。
ところで、処女でないと巫女になれないという都市伝説があるが、少なくとも私は性交渉の経験を口頭確認されることはなかった。あったらセクハラで訴えよう。そもそも口では何とでも言えるのにどうやって確認するんだ?
▼巫女バイトの倍率は?合格するのはどんな人?
履歴書を出した後、たいていの神社では合格者にのみ連絡が来る。いわゆるサイレントお祈りである。ここで気になるのは倍率だが、もちろん神社側が具体的な数値を公開することはない。そこで、実際に私が計算してみた。
1社目では各応募者を通し番号で管理していた。合格者は次のステップとして説明会に呼ばれ、その座席には通し番号が振られている。もちろん、この番号は飛び飛びになっている。したがって、会場にいる人数と最後の方の通し番号を比べれば大まかな倍率が算出できるのだ。4年間のなかで変動はあるものの、大まかな倍率は4〜5倍だった。ただし、前述の通りリピーターが多い業界なので、経験なしの方に限った場合は値が変動する可能性がある。
ちなみに、合格した人の印象は”地味&真面目”である。黒髪ストレートピアス穴なしタトゥーなしで巫女バイト志望ともなれば、そうなるのは自明の理とも言える。もう一つの印象として、普通〜ちょっと整った顔立ちの子が多かった。神社の顔採用といえば真っ先に福娘が挙げられるが、そこまでではないにしろ、客商売なのである程度の基準はあるのかもしれない。あるいは採用担当が地味で真面目で自分だけが可愛さに気づいている図書委員系をタイプとしていたのかもしれない。というのは冗談だが、神社によってある程度違ってくるポイントなので、初詣に行く際には巫女さんのタイプをこっそり観察してみて欲しい。余談だが、数年前に行った地方の神社では巫女さんが全員ギャル系だった。神様か神主さんのどちらかがギャル好きだったのかもしれない。
▼初出勤までに何をすればいいの?
めでたく採用となって説明会に参加したあなた。後は勤務日を待つだけだ!
そうは問屋が卸さない。まずは、袴の着付けに必要なアイテムを揃える必要がある。
基本的に神社では襦袢と緋袴しか支給されないので、腰紐(浴衣用でOK)・白無地足袋・安全ピンを自腹で揃える必要がある。具体的なアイテムについては各神社の説明会にて説明があると思うので、それに倣って欲しい。大抵の神社では腰紐2本が必須、ところによってはコーリンベルトがあると望ましい…と言われるが、実のところ慣れてしまえば腰紐1本で着付けが可能である。とはいえあれば安心なことは確かなので、どこまで購入するかはお任せする。今のご時世、腰紐も足袋もネットで購入できるが、足袋のサイズ選びは素人には難しいので、靴ずれを避けるためにもプロに見てもらうことをお勧めする。私は新宿のたんす屋というお店でフィッティングしてもらった。振袖用の足袋を持っているので使用したいという方もいると思うが、砂利の上を歩くと結構汚れるので、それなりの覚悟はしておいた方がいい。
次に必要なのは防寒対策アイテムだ。
巫女さんの服装は薄着なので、当然寒い。特に大晦日番はめちゃくちゃ寒い。ストーブなんぞ気休めにしかならない。もちろん多くの巫女さんは防寒対策をする。調査の結果、カイロ派よりもインナー派、特にヒートテック派とウルトラライトダウン派が大多数を占めていた。ちなみにインナーは透けないように白でないといけない上、袖から出してはいけないという暗黙のルールがあるので、どちらであっても袖捲りをしないといけない。つまり袖口はどうあがいても寒い。これはもう我慢してひたすら本体を温めるしかない。
アイテムを揃えても準備は終わらない。勉強をしなければいけない。
神社であるからには当然お祀り申し上げている神様がいる。その神様は単体で存在しているわけではなく、神様がお仕えしている上位の神様や、神様にお仕えしている神様もいる。それらの神様の知識に加え、神社のご由緒、天照大神が何の神様か、神棚へのお札の置き方、等の知識も必要となる。さらに、多種多様あるお守りの効能なども覚える必要がある。なぜならば、全てご参拝の方に聞かれる可能性があるからだ。ご参拝の方に本職と助務の区別はつかないので、全員を神道のプロフェッショナルだと思って質問してくる。もちろん私たちは助務なので神道のプロフェッショナルではないが、助務とはいえ巫女のはしくれなので答えなければいけない。しかも周りは目が回るほど忙しいので助けを求めづらい。そんな状況なので、自分で知識をつけておくのは気まずい思いをしないためにもかなり重要である。とはいえ想定外の事態は起こりうる。困った時にはとにかく適当なことを言わないこと、少し待たせてでも本職の方を捕まえて聞くことが最善策である。
▼巫女バイトの仕事内容は?
晴れて巫女として初出勤したあなた。着付けもバッチリだ。さてどんな仕事だろう?
こればかりは当日にならないとわからない。いろいろな配置があるのだ。
1社目は大きな神社だったので特に配置の数が多く、1日目は御神酒所、2日目は御札所、3日目は御祈祷所、4日目は御神籤所、5日目は御朱印所…といったようにガラガラと変えられていた。各種配置の中でかなり当たり外れがあるので、個人的な大変レベルを5段階で表してみた。
御札所はとにかく忙しく、三ヶ日は戦争である。多くの人はこの配置になると思うが、なってしまったら観念しよう。忙しさの大きな原因としては、お分ちする(販売するとは言わない)授与品(品物とは呼ばない)の種類が多い割にレジがないため電卓による手計算に頼っていることが挙げられる。当然ながら手計算は時間がかかるしミスも発生する。なぜレジがないのかは知らないが、おおかた神社でレジを使用されるとなんか嫌だからとかいう理由だろう。確かに、お守りにバーコードがついていたらなんかありがたみが薄れるような気がする。今後のIT技術の導入に期待される。
▼巫女バイトのメリットとデメリットは?
ここまで読んでいただけたなら、巫女バイトのリアルなイメージが湧いたことだろう。巫女バイトをやるべきかやらざるべきか迷っている方のために、私が感じたメリット・デメリットを挙げる。
まず、メリットとしては以下が挙げられる。
多くの巫女バイトが感じているメリットは①ではないだろうか。可愛い服を着て、一生の思い出となる体験をしつつお金も稼げちゃう、なんて楽なんだろう!みたいな感じである。この手のタイプは出勤最終日に友達と巫女姿で記念写真を撮ったっきりリピーターにはならないケースが多い、いわゆる”エンジョイ勢”である。その点、私のような”ベテラン勢”は擦れているので②や③をメリットに挙げる。神社という場所柄、参拝客の方の目がそこまで厳しくないのだ。コンビニだったらいちゃもんをつけられるレベルの辿々しい手つきでも、神社においてはむしろ可愛らしく映る。④に関しては神社の立地にもよるが、特に都心の神社では芸能人が多数目撃されている。運良く御祈祷書に配置されれば多くの芸能人を間近で見ることも可能だ。ミーハーな人は憧れの芸能人の目撃情報を元に神社選びをしてもいいかもしれない。
次に、デメリットとしては以下が挙げられる。
先ほど”エンジョイ勢”について言及したが、大半は販売系バイト未経験者である。バイト経験が一切ないお嬢様も多い。そのため、釣り銭詐欺やクレーム詐欺に容易にひっかかる。そうでなくとも金額計算間違いや釣り銭間違いが多い。本職の方は常に忙しくしていて不在がちなので、事件が起こった時の初動対応は販売系バイト経験者および”ベテラン勢”に任されている。そのうち自然とフロアリーダーのような存在になるが、特別給料が良いわけではない。一般的に巫女バイトは高時給と言われているが、実際の相場は時給1000〜1500円と言われている。お正月であることを考慮すると、お正月手当ての出るイベントバイトとそう変わらない。休憩が少なく(なぜか休憩中に仕事が与えられることもある)常時寒いことを考えると、むしろイベントバイトよりも過酷な条件で働かされているとも言える。⑧に関しては運要素が強いのでなんともいえないが、嫌な人は嫌だろう。以前勤務中に外国からの観光客の方に無許可で動画を撮られていたのだが、SNS全盛期の今、広大なネットのどこかに”Japanese Miko girl”なんてタイトルでアップロードされていると考えると、複雑な気持ちになる。
上記のメリット・デメリットをどう考えるかはあなた次第だ。個人的にはイベントバイトよりのんびりしている点に魅力を感じて、巫女バイトを選択し続けていた。
▼まずは情報収集から
以上が私の巫女経験の全てだ。
もちろん全ての神社を回ったわけではないので、情報にやや偏りがあるかもしれない。他の人の意見も参考にしつつ、マメに情報収集をしつつ、もしやりたいのであれば巫女バイトデビューを果たしてほしい。
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