黒いストッキングとタトゥーの女。(創業体験記)
独立からこれまでのいろんな出来事を若い起業家の人に話した時に昔の話を聞かれて色々と思い出したことを書いていきます。
今回は、僕が起業して一番最初に雇用した人の話。知ってる人は、「あの人か!」と思っても…知らんぷりして読んでおいてください。
僕がどんな経緯を経て、起業したのかってところは以下のURLからご覧ください。
最初の求人広告
そんなわけで、起業して一番最初の仕事は求人広告の営業代理店でした。朝から外に出て客先を訪問して夜に帰ってきたら原稿を作る。そんな日々が続いていたので、社員教育とかにも時間を裂けません。
それどころか、打ち合わせ中にかかってきた電話にすら出られない…慌てて求人広告を出して(自分の扱ってる媒体には無料で出稿できたのです)6人の応募があったので面接しました。
2人は面接に来なくって、1人の人は全く一緒に働きたいって気持ちになれなかったです。3人面接した中で、それなりに受け答えもちゃんとしている方を1人だけ採用させてもらいました。季節は、梅雨に入る前の初夏…6月だったかなぁ…なぜか、黒いストッキングを履いているのが印象的な女の子でした。
記念すべき最初のスタッフですが、万が一辞めてしまったらまた一からやり直しになってしまうので、当初から2人採用する計画でしたが、次の応募がなかなか来ないのです…
採用したばっかりのスタッフに、「なかなか来ないなぁ…誰か知り合いで良い人いないですか??」って聞いたら、「あっ、私の友達で良い人がいますよー」って。
友達を面接させてもらって、「最初は電話番からだし、まぁ任せても大丈夫かな」って採用。29歳の僕が起業して一番最初に雇用した記念すべきかわいいスタッフ達です。
しかし…
何かおかしいのです。
当たり前の概念
遅刻がやたら多い。
それも、連絡がないままに遅刻してくるのです。最初は、「まぁ、体調が悪いって雇用されてすぐには言いにくいのかも。別に転送電話で受けたら良いのだから多めにみてあげれば良いか…」と、なぁなぁになってました。
しかし、月の半分くらいが遅刻というのは、度が過ぎる。と言うことで、「Aさん(最初に雇用した人)、遅刻するときは、体調悪いとかだったとしても、ちゃんと連絡してもらえないかな」って伝えたんです。
Aさんは、キョトンとして。
「えっ!?なんでですか?」って。
「遅刻するとか、休むときは連絡するのが当たり前でしょ?」と僕。
「そんなの、習ったことないです」Aさん。
「えっ!?今まで遅刻しても何も言われなかったの?」26歳になる女の子です。当たり前のようにそういう一般常識があるものだと思っていました。
そうか!僕がそれまでに働いてきた会社って、直前はジャスダック上場の営業会社。
その前の会社も経営コンサルの会社だったのでそれなりに基礎教育を受けてきている人たちばかり周りにいたので気がつかなかったのです。
社会人の常識って、それまでの教育で培われたものだったんです。
「例えば、Aさんがお花屋さんだったとしますよね!?」
「いや、お花屋さんではないです」Aさん。
「いや、例えばの話ですから…お店が忙しくて銀行にも行けないし、打ち合わせもなかなかできない…じゃあってことで、スタッフを雇ったとします。その子が何も言わないで遅刻してきたらどう感じますか?その時間に銀行に行こうと予定していたら、どうなりますか?」
「なにそれ!怒ります!ムカつく!雇ってあげてるのに」と、Aさんが言います。
「うん、そうだよね。僕が困ってるのは、そこなんだよね。先に連絡くれればまだ準備とかもできるし、予定をずらせるんだよ」と丁寧に説明しました。
その日から、連絡は来るようになりました…でも、遅刻の件数は減らなかったんですよね。
彼氏と婚前旅行
そんなこんなで、半年くらい働いたAさん。突然3日くらい連絡もないままに出勤して来なくなりました。
電話してもつながらない。どうしたものか…もしかして、事件にでも巻き込まれたりしたのではないかな…心配になります。
突然連絡が来たと思ったら、「彼氏と婚前旅行に来ている」というのです。「おめでとう…」と僕。なにか、釈然としません。
結局、その後すぐに結婚するってことで退職することになったんです。
ちょっとホッとして…とは言っても、この頃にはスタッフも7人くらいになっていたので、皆んなで「今までお疲れ様でした」って、お別れ会を開く事になりました。
「いままでありがとうね。最後に一言挨拶をお願いします」と!僕。
「社長はこんな感じの人で、我が強くて付き合いづらい人ですが…」という挨拶。
なんで上から目線!?
いや、社長ってみんな我が強いものではないのか??僕の常識が間違っているのか?
周りのみんなが同じ常識で共感している時に、自分だけ違う常識を持っていると、「自分がおかしいのか!?」って不安になります。
創業当初の僕は、世間の常識とか当たり前って概念がまだちゃんと持ててなかったのでしょう。鬱になる一歩手前くらいまで落ち込みました。
今思えば、真夏になっても黒いストッキングで出社してくるAさんに、「なぜ真夏なのにストッキング!?」って聞く勇気もなくって(セクハラだって言われるのが怖くって)、気になりつつなんとなくやり過ごしていたけど、実は足に格好いいタトゥーが入ってて…
「えっ!?言ってなかったでしたっけ!?」…って。
それだけでは、終わらなかった。
Aさんが退職して半年…
なんとなく、僕の中の「これが当たり前」って概念が落ち着いてきて、スタッフの教育とかに自信を持って取り組めるようになってきた頃…
「ピロン」って、僕のパソコンにメールが届きました。
登録してないアドレス。本文もない。
写真だけが添付されてました。
Aさんと、いま雇用しているスタッフたち。Aさんが辞めた後に入社したスタッフも…みんなピースサインして事務所の前で写真を撮っているのです。
背筋がゾッとしました…
もちろんこの会合の事は僕は知りません…なぜ、この写真を僕に送ってきたのかもわかりません…目の前が真っ暗になりました。
給料を払っているスタッフたちが全員なにを考えているのかがわからなくなりました。
結局…その当時のスタッフは、誰一人として残っていないんですけどね…自分のやり方が未熟だったのもあると思います。いろんな意味でここまでやってきた15年間は、ものすごい経験だったと思います。
だから、若い人に僕の経験してきたことを残していきたいと思っています。少しでも、知ってもらうことで、やらなくても良い遠回りを減らしてもらって、もっと実りの多い経験に時間を割いて欲しいと思うからです。
その後…
あっ、ちなみに…
紹介で入ってきてくれた、スタッフ2人目の女性。仮にBさんとしましょう。Bさんは、病気を理由にAさんと同じように出勤してきてくれない日が多く続き、結局すぐに退職されました。せっかく2人採用したのですが、2人ともこない日があったりしたので思うようにはいかないものですね…
その後入社してくれたスタッフたち(写真でピースしていた人たち)の中から、当時のスタッフの妹さんとか、弟さんとか画像たまたま仕事で繋がったり、街で出会ったり…最近はやめていったスタッフも外注スタッフとして残ってくれるようになりました。
やはり、経営者の能力が低く事業自体が未成熟なときはそれなりの人しか入ってきてくれないし、人が残らないのだと思います。
事業を拡大しようと思う時、スタッフは払った労力に対してどのくらいの見返りを期待しているのか!?
実は、ベンチャーとか地方企業って給料とか待遇なんかよりもたくさん出してあげられる見返りがあるのです。