ユリの話
ユリは、今は懐かしい、スピッツである。
私が中学校の一年だったか二年の頃、突然私の家に入ってきた。
後でわかったが、近所で飼っている犬である。
そのユリに何をやったかよく覚えていないが、自分でもご馳走だと思えるものを、最初に食べさせた記憶がある。
後にも先にも、食べ物をやったのはこの一回だけである。
それから、私が外に出かけると、徒歩の時も自転車の時もあったが、どこからともなく現れて、私に懐いてついてくるようになった。
因みにユリを飼っている家は、私の家から六百メートル位も離れている。
そんな光景を見ていた女の同級生達は「あれ雌犬じゃない?」と話し合ったりしていた。学校へ行く時にもずっとついてきて、とうとう教室の中まで入ってきたこともある。私のそばをなかなか離れない。
そんなことが続いてユリが犬だということも忘れるくらい愛おしくなっていった。
それから間もなくして、ユリが子供を産んだというので見に行った。
飼い主の家の裏にある、昔の防空壕だったと思われる横穴の中で、ユリと四匹くらいの生まれたての子犬がいた。私が入って行って子犬を撫でてやっていると、ユリはおとなしく見ていた。普通スピッツというのは、神経質でかなり激しく啼く犬であると聞いていたが、たぶん私以外だったらそうしていたと思う。
それから数日後いつもの様にユリと私が遊んでいると、突然ユリが走り出して行った。そのすぐ後オートバイのブレーキ音がしたので、私は驚いて現場へ走って行った。ユリはお腹に大きな傷を残し、死んでいた。
ショックだった。でも不思議だった。田舎のこんな交通量の少ない道で、何台も通らないバイクにひかれて死ぬなんて・・・。「犬も自殺するんだ」「自分と私が違う種類の生き物だと覚ったのではないか」とその時思った。
それが私が十三歳位の頃、そして今の妻が十三歳年下、生まれ変わりはあると思う。