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【読書感想文】死刑台で笑う署長、その狂気の深淵『毒もみのすきな署長さん』

宮沢賢治の「毒もみのすきな署長さん」は、表層の静謐さの裏に潜む狂気と皮肉を巧みに描いた作品です。この作品を読んだとき、私はまるでプハラの国に足を踏み入れたような気分になりました。四つの川が集まり、静かな大河を形成するこの国は、表面上は平和そのものです。しかし、その裏では、毒もみという禁じられた漁法が横行していました。

物語の中心にいるのは、新しく赴任してきた署長さん。彼は外見上は、町の秩序を守る立派な公務員のように見えます。しかし、彼の真の姿は、法を破り、自ら毒もみを楽しむ狂気じみた人物でした。この署長さんの二面性は、社会の偽善を鋭く描き出しており、読む者に強い印象を与えます。

私が特に心を打たれたのは、署長さんが裁判にかけられ、死刑を宣告されたときのシーンです。彼は笑いながら、「地獄で毒もみをやるかな」と言い放ちます。この一言には、彼の狂気と、それを通じて見える社会の矛盾が凝縮されていると感じました。

賢治は、表面的な平和や秩序の裏に隠された真実を、巧みに描き出しています。この作品を読むことで、私たちは自らの社会に対する見方を問い直すきっかけを得ることができます。それは今日の私たちにも通じる普遍的なテーマであると言えるかもしれません。

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