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約束の夏の話

今日から夏休みだ。その当時、小学生だった僕は、毎年この瞬間のために生きていた、と言ってもおかしくないくらいだ。午前の授業が終わり、先生が例によって、海で泳ぐ時の注意事項、次の登校日までにする宿題を伝えて、日直に挨拶を促す。

「きょうつけ、れい」
よし!この瞬間から僕らは自由だ!フリーダムなのだ!!さっき何か先生が言ってたが、とりあえず、海へ行こう。宿題はとりあえずなかったことにしよう。
この日を卒業式にするべきだ、きっともっと盛り上がる。
僕は両手に何を植えたか謎の植木鉢と、全く役にたたない、勢いのまま図工で作ったシュールなオブジェ風の人形を持ち、とにかく家に帰った。

(中略)

昼の海とは全く違うただ、ザザーっと音がするだけの空間、これが夜の海だ。
灯台のある丘を目指していた。灯台といっても今は使われていない誰も来ない場所だ。
昼間泳いだ海岸通りを歩いていく。
と、向こうに懐中電灯がチラチラしている。田舎あるあるだ。誰だろう。こちらに向かってくる。
眩しいので誰かは目の前までわからないのだが、それはお互いさまだ。
「こんばんはー」と言おうとしたその直前に姿が見えた。女の子である。確かお昼、僕らが泳いでいた時に、海岸でバーベキューをしていた家族づれの1人だ。バーベキューをするということは、島の人では無い。その子は今、がっつり道に迷っていた。
「すみません、道に、、」
「あ、うん、多分こっちじゃなくて、向こうだよ、君の泊まってる民宿は。なにせ、この島に民宿は一軒しかない。」
「えー、じゃあ、通り越してきたのかな。」
「どうかな、でも引き返してこのまま海岸をまっすぐいくと、右に見えるはずだから」
(中略)
階段を登って行く。岬になっているので、海岸からの海の音が次第に小さくなる。
木立を抜けていくと、また視界が広がる。広場になっていて、その先に灯台のあったであろう広場がある。
僕は肩に担いでいた望遠鏡をそこにおき、夜の空を見上げた。
無数の星屑に囲まれていた。どれが星座がわからないくらいの数だ。

「ほらね、凄いでしょ」
「、うん、、、、凄い綺麗、、、、」空ってこんなのなんだ」
「日頃はまちのひかりとかで、見えないんだよ、ここは僕の秘密基地なんだ」
「いいわね、私、知っちゃったよ?秘密基地なのに、いいの?」
「秘密基地であることを伝えないとただの広場だから、しかたないんだよ、秘密基地がバレるのも、それはそれでいいんだよ」
「ちょっと何言ってるかわかんないけど、明日もまた来ていい?」
「もちろんだよ!今迷子中だもんね。下まで送って行くよ。てかよくここまで、ついて来たね」
「いいじゃない、人生やりたい事するのよ。ていうか、昼からまた泳いでるんでしょ?多分そこでも会えるんじゃない?」
「そーかもね、でも宿題があるからなー」
「しないタイプだよね」
「バレてましたか、すみません」
「ここでいいわ、ありがとね」
「うん、僕、じゅん」
「わたしは、ハナ、じゃあまた明日ね!しばらくはこの島にいるわ!」
「はーい!気をつけてね」

次の日、彼女とは、会えなかった。というか、彼女の家族ごと、この島にいなかった。

あれから、毎年、僕はこの丘で、星を観察しながら、あの子が来るんじゃないかとどこかで期待していた、そんな夏休みを毎年、過ごしていた。

から始まる妄想ミステリーが不定期で始まります。乞うご期待、しないでください。

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