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しほちゃんは、ういている#19

 きょうは学校の登校日。外に出ると夏の日が激しく照り返している。最寄り駅まで歩いただけで、額が汗で濡れている。しほちゃんはひさしぶりに制服を着た。彼女は制服を着るのがすきだ。じぶんの身分を説明する必要がない。見た目だけで高校生とカテゴリーされる。そのため、彼女は制服をきっちりと着ることに情熱を燃やしている。寝ぐせや、シャツの襟の曲がりがないか。袖のボタン。革靴の艶。鏡の前ですきがないか入念にチェックをする。うつくしく着こなした制服は彼女の脆さを際立たせた。家に帰るとすぐに制服を脱ぎ、いい匂いのする消臭プレーを吹き付けハンガーにかけて皺のならないようにした。一連の流れをこなすと、安心する。

 ひさしぶりの電車には、白いワイシャツを着た色彩のない服装の人達がぎゅうぎゅうに乗っている。電車の隅には部活のジャージを着た日焼け顔の中学生たちが集まっている。友達同士で「ぎゃははは」と笑っていた。耳障りだ。汗くさい。声も会話もすべてが許せなくなっていた。

-うるさい。

 彼女は午前中のホームルームの間、ずっと上の空だった。見慣れた灰色の校舎。それなのに、クラスメイトはどこか違う。蛍光灯のびっしりと埋め尽くされた教室を見渡すと、夏休み中に日焼けしたのか肌の浅黒くなっているものや、家から一切出なかったのか肌の白いものが混在している。しほちゃんはオセロみたいだと思った。ホームルームが終わり、みんなで一斉に下校した。その光景は蟻の行列のように続いていた。彼女はこの行列を指でぴんと弾いてみたかった。目の前の女の子は夏休み中に髪が伸びたのか、後ろで結い上げられるくらいになっている。

まもなく平成最後の夏がおわる。

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