しほちゃんは、ういている#15
真夏の日差しを浴びた、サンタンカのあかい花は優しさに満ちてた。
「TK」としほちゃんは寄り添いながら熱帯植物館を散策した。目にうつる全てが二人を祝福するかのように煌めいてた。きょうは園内にほかの客は見られない。まるで地上最後の楽園のようだった。その考えは彼女を愉快にさせた。たのしそうな、しほちゃんを見て「TK」もわらっている。
彼の携帯が鳴った。電話の相手は社長だった。
「そろそろ帰るか」
その言葉を聞き、つかの間のバカンスも終わりだとしほちゃんは悟った。落胆した彼女を慰めるように「TK」はまた来ようねと囁いた。熱帯植物館をでて、社長の船に乗り込むと雲ひとつない暴力的な青空がどこまでも広がっていた。あまりの空の青さにショックを受けて、このまま死にたい気分だった。そして、そよそよと湿った海風が吹いている。ぬるい。あまりの不快さに彼女は裸になりたかった。船上からは高層ビルのシルエットがみえた。これから、またあの配色センスのない看板のひきめしあっている、排気ガスの匂いのする東京に戻るのだとおもうと憂鬱でたまらなかった。彼女はiPhoneをかざし空を撮り続けた。インスタに空の写真をアップロードした。すると、通信中のぐるぐるマークがずっと回っている。いつもよりも長い。エラーになったらどうしよう。その時、彼女はむかし教科書でよんだ芥川龍之介の一節を思い出した。
「幸福とは幸福を問題にしない時をいう」