しほちゃんは、ういている#1
きょうの気温36度。金曜日の教室では女子達がMステの話をしている。
「原宿で玉森くんに遭遇しないかな」
しほちゃんは、教室で誰ともしゃべらない。ずっとスマホをいじっている。わたしはその仕草をそっと見ていた。彼女のTwitterアカウントは、いつも荒れている。しほちゃんはインターネットでからんでくる、見ず知らずのひとに対して華麗にスルーする。いつだったか、土用の丑の日にしほちゃんがうなぎが食べたいと呟いていたら「あなたは鰻を絶滅するまで食べるつもりか?」のクソリプに対して一切反応しない。なにごともなかったかのように、Twitterの更新をつづける。しほちゃんは無敵だ。
今日のしほちゃんは、ネクターのピンク色のジュースを飲んでいる。彼女は、いつも誰も飲まないようなマイナーなジュースを愛用している。わたしもそのジュースをはじめて買ってみた。桃の缶詰の汁をのんでいるような、あまったるい味が口の中に広がった。熱の回った体が急速に冷えていく感じが、たまらない。