しほちゃんは、ういている#11
しほちゃんのiPhoneが震えた。
知らないアドレスからのLINEがきた。TKっすと名乗った男はしほちゃんを病室の待合室でナンパした大学生だった。アイコンが顔写真だったから、すぐにわかった。待合室で嗅いだ「TK」のタバコの匂いを思いだし、彼女は憂鬱になった。日本人のくせに名前をアルファベットにしてんじゃねえ。ふざけんな、しね。くたばれ。小室哲哉きどりかと、しほちゃんは頭の中で何度もディスった。
LINEは、今度遊び行こうとかそんな内容だった。しほちゃんは既読無視した。無視してもどんどんLINEがくる。
焼き肉。カラオケ。映画。ボルダリングのできるラブホ。VRゲームセンター。インスタ映えのするカフェ。ラウンドワン。と誘ってきたが、どれもしほちゃんの興味をひく遊びはなかった。彼女は、こんな軽快な人間の思い通りになるようにはなりたくなかった。
しほちゃんは「TK」からもらった。iTunesカードで、百円のLINEのスタンプを1個買った。しばらくすると再びLINEがきた。
「死体みたくない?」
それを読んだ直後、しほちゃんは血の気がゆっくりと引いていくのを感じた。彼女は指を動かし、無心で文字を打ち続けた。