しほちゃんは、ういている#14
【前回までの話し】https://note.mu/yamaizumi/n/n04ac9ebc8e22
しほちゃんが「TK」に連れられドーム型の建物に入ると、そこは熱帯植物館だった。園内には南国を思わせるような艶やかな植物が生い茂っている。真っ赤に咲いたサンタンカや、黄色く熟したマンゴーからは甘ったるい匂いがする。彼女の大好きな食中植物もたくさんある。
しほちゃんは小学生の頃に学校で、ハエトリソウの中に虫を捕まえて入れたことがある。彼女には大きく刺々しい口をひらいたハエトリソウは獰猛な宇宙人のように見えた。虫を捕食する瞬間が見たくて、しほちゃんは日が暮れるのも忘れて夢中になって眺めていた。図書館で読んだ図鑑ではハエトリソウは捕食しなくても、水や光合成だけでも生きれるとあった。しかし、彼女の脳内では食中植物の体内に虫を入れるとつよい酸が吹き出し、虫を一瞬で溶かすものだと思っていたが実際はそうでもなかった。しばらく見ていても、虫が溶けることはなかった。彼女にとって、食中植物を見るのはそれ以来だった。
あの頃とちがって、しほちゃんは虫を捕まえるようなことはしない。ハエトリソウの棘棘した葉を撫でるように指で愛でた。熱帯植物園の中はむせ返るように、蒸し暑い。このままずっとここで立っていると、世界と自分の境界があやふやになる。何で此処にいるんだろう。意識がぼんやりとする。「TK」がしほちゃんの腰に手を伸ばした。彼女は驚いて振り向くと、唇を塞がれた。彼の舌先が触れるとアイスクリームのように溶けてしまいそうだった。