しほちゃんは、ういている#18
空模様が怪しくなってきた。むんむんと湿った空気が充満している。ゲリラ豪雨が振りそうだ。しほちゃんはメルカリを眺めている。
スマホを使って簡単に何でも売り買いができるこのフリマアプリ「メルカリ」では何でも売っている。夏の甲子園では秋田県の高校が100年ぶりに決勝に進出して話題となった。その後日、メルカリを覗くと「甲子園の砂」とついた名前の商品が売られていた。油性マジックで大きく甲子園の砂とラベルの貼られたガラス瓶には、なんの変哲のない砂が詰まっている。現在の価格¥5000円。彼女は歓喜した。甲子園球児たちの青春が売られている。反吐が出そう。それはまがい物かもしれないが、何でも商品になって売買ができる。値段がつけられる。そんな世界があると言うことは大きな発見であった。未知の惑星を見つけたような喜びがしほちゃんにはあった。
メルカリのアプリから「甲子園」で検索すると、新しい商品が次々と表示された。野球ボール。シューズ。タオル。優勝メダル。ジャンパー。リストバンド。需要と供給のバランスでテレビで紹介されたものは、みんなが欲しがるため高い値段がつけられる。まるで株のようだ。彼女は出品者とのやりとりのコメントを見るが好きだった。XXXX円でどうですか?XXXX円にして下さい。それなら要らないです。了解しました。値引きの競争はまるで熾烈な戦いのようだ。ガチの戦いはずっと見ていられる。
翌朝、最近検索した「甲子園の砂」はほとんどが売り切れになっていた。
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