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【第17回 #俺達の少女A 】「フツウとトクベツ」のカイセツ 【水本ゆかり音源】

はじめに

 この記事では、"第17回 俺達の少女A"に投稿した音源「フツウとトクベツ」の解説を行います。普段はあまり詳細な解説など行わないのですが、これから挑戦してみたいという方や、原稿の書き方に悩んでいる方の参考になればと思い、筆をとりました。興味があればお付き合い下さい。

音源はこちら


俺達の少女Aとは?

 「俺達の少女A」とは、アイドルマスターのアイドルを3分間の音源でダイマもしくはアピールするユーザー企画です。

 ニコニコ動画のこちらのコミュニティで不定期に開催されている企画なのですが、シンデレラガール総選挙の時期と重なれば、二日間で3000~4000人もの方がダイマを求めて訪れるという大きな企画となっています。そんな大勢の前で担当のダイマをできる機会はそうそうありませんので、「担当のために何かしたい」という方にとっては有力な選択肢になると思います。過去のアーカイブは先月行われた第16回まで公開されているので、まだ見たことがないという方もお時間があればぜひ。

DAY1「ボイスなし部門」(本編は20分くらいからです)

DAY2「ボイスあり部門」(私の音源は157分あたりです)


第17回の音源解説

 今回の原稿は1070~1080字くらいでしょうか。今回は初稿の段階で1100字以内に納まっており、試し読みでも2分50秒台だったので、それほど推敲する作業は必要ありませんでした。残念。(初稿で大幅にオーバーして、そこから削ったり磨いたりするのが一番楽しいのです)

 さて、それでは解説に入ります。

 「普通」とは何か。ここにいる皆さんなら、誰でも一度くらい「普通って何なんだろう」と考えたことがあるのではないでしょうか。
 それは住んでいる場所によって、また性別によって、年齢によって、時代によって、あらゆる状況で様々に姿を変えます。この捕らえどころのない「普通」という概念――ハッキリしていることは、誰かと何かを比較したときに生まれるものだということです。

 前置きですね。この段落には三つの役割があります。

 ひとつめは、掴み。オタクなら誰でも考えたことがあるであろう「普通とは何か」という、身近でありながら、デリケートな部分も含んだフレーズで聞き手の注意を引きます。

 ふたつめは、主題の提示。この前置きを受けて、聞き手はプレゼンのテーマがなんとなく「普通」に関するものであると分かるはずです。テーマを早めに共有できれば、続く本題もスッと頭に入りやすくなりますね。

 みっつめは、本編への布石。「普通は変化する」「普通は比較によって生じる」というように「普通」の要素をあらかじめ明確にしておくことで、本編中で説明する手間が省け、テンポを落とさずに進められます。

 さて、水本ゆかりの話をしましょうか。

 本編アピール。仕切り直しです。

 みなさんがお嬢様と呼ぶアイドルたちのなかで、水本ゆかりにだけ見られる特徴があります。それは自分のことを「お嬢様ではない」「普通の女の子だ」と言っていることです。Nカードで、ぷちエピソードで、SSRで、彼女は何度も繰り返し「普通であること」に言及してきました。

 この原稿で「事実に基づいている部分」はほぼここだけです。原稿全体の一割に過ぎません。あとは妄想です。正気か?

なぜそんなに普通であることに拘るのでしょうか。

 これが今回の原稿の出発点でした。なぜ普通であると、何度もアピールするのか。そういう風に、自分が疑問を持ったところを起点にすると話を広げやすい気がします。

 さてしかし、疑問の明確な答えがゲーム中に存在しない以上、想像するほかありません。ただ根拠も何もない突飛な妄想では聞き手を納得させられません。根拠となりうる何かが必要でした。

普通が誰かとの比較で生まれるものなら、彼女はいったい何と自分を比較しているのでしょうか。彼女の年齢を考えれば、それはおそらく同級生の女の子たちでしょう。

 前置きで触れた部分なのですが、「普通」というものは何かと比較したときに生まれます。ゆかりは何度も「私も普通の女の子ですから……」と言っていますが、彼女は一体なにと自分と比較していたのか。義務教育時代の子どもの世界というものは往々にして狭く、家庭と学校ですべてが完結していることも珍しくありません。比較対象は同級生と考えるのが自然でしょう。「私も 普通の女の子」という言い方から、当然、同級生も 普通の女の子だったはずです。おそらく通っている学校はお嬢様学校ではなく、一般の公立校だったことでしょう。田舎は公立の方が私立より学力が高い傾向にあるので、頭の良い子は公立に通うのが「普通」です。

 アイドル――それは女の子たちの永遠の憧れ。アイドルマスターの世界では、普通の女の子たちはきっとアイドルのことが大好きで、学校では休み時間のたびにアイドルの話題で盛り上がったに違いありません。人並みにアイドルへの憧れがあったというゆかりは、もしかしたらその話題に入ろうとしたかもしれません。ですが、話しかけたときに返ってきたのはこんな言葉だったのではないでしょうか。「あ、ごめんごめん、ゆかりちゃんはアイドルの話なんて興味ないよね。お嬢様だし」
「お嬢様じゃない」「自分だって普通の女の子なんだ」誰だってそう言いたくなりませんか。

 ここで一旦、アイドルマスターの世界において「普通の女の子」ってどんな子なのかを考える必要が生まれます。

 アイマスにおける普通の女の子の代表と言えば、765プロの天海春香、シンデレラの島村卯月、ミリオンの春日未来あたりになると思います。この三人の共通点といえば、アイドルに憧れていること。そう、アイマスワールドにおいて普通の女の子はアイドルに憧れているんです。だとしたら、プレゼンで語ったとおり、休み時間はアイドルの話題で持ちきりだったのではないでしょうか。自然な流れとして、ゆかりもその話題に入ろうとするでしょう。

 ですが、ここでみんなと楽しくアイドルの話題で盛り上がれていたなら、後に「私も普通の女の子」だなんて何度もアピールする必要ないんですよ。この話題に入りたくても入れなかったに違いないんです。例えばこんなことがあったかもしれません。

「ゆかりちゃんはお嬢様だしアイドルの話なんて興味ないだろうから、話題を変えよ(善意100%)」

 ゆかりがどの程度お嬢様なのかは決まった答えはありません。
「とくにお嬢様というわけでは…。ただ、教育の方はそれなりに、です」という台詞がデレステのNカードに存在しており、これについてはいくつか解釈できます。本当はお嬢様なのに謙遜して言っている――という解釈も可能ですが、マジモンのお嬢様がこれ言ってたら嫌みになりかねないのでは? と思ったので、個人的にはある程度実態に沿った台詞なのではないかと思います。"特別お嬢様というわけではないけど、両親が教育熱心なので高い教養を身につけている"というあたりが落としどころではないでしょうか。

 そう考えると、「普通の女の子である」と何度も言及することにも納得がいきます。実際は特別お嬢様というわけでもないのに、周囲からお嬢様扱いされるのって、実はそこそこストレスになるんですよ。

 それを踏まえた上で、先ほどの同級生の台詞(※俺の妄想)をもう一度見てみましょう。

「ゆかりちゃんはお嬢様だし(※お嬢様扱いされるストレス)アイドルの話なんて興味ないだろう(※本当は興味あるのに!というストレス)から、話題を変よう(※善意100%だから無碍に出来ない葛藤)」

 同級生のこの気遣いで逆にちょっと曇る水本ゆかり、あるのでは!?

 そんな彼女に転機が訪れます。「アイドルに興味はありませんか?」もしかしたらそれは、自分がアイドルに興味のある女の子――つまり普通の女の子であると証明するための千載一遇のチャンスだったのかもしれません。

 ゆかりが「アイドルに興味がある」と口だけで言っても、周りには信じてもらえなかったかもしれません。だから、スカウトを受けることで、行動で以て「アイドルに興味がある」と示したわけです。(生放送でのコメンターの反応をみるに、ここはちょっと聞き手に正しく意図が伝えられてなかったかもしれませんね)

 アイドルになったゆかりは、とても良い友だちに恵まれます。メロウ・イエローの二人はこの九年間、一度もゆかりをお嬢様扱いしたことはありませんし、ノーブルセレブリティの二人はゆかりとは比べものにならないくらいガチのご令嬢なので、ゆかりをことさらお嬢様扱いすることもありません。奇妙に聞こえるかも知れませんが、ゆかりはアイドルになったことで、ようやく周りから普通の女の子として見てもらえるようになったんです。

 有香と法子が、ゆかりのことを一度もお嬢様扱いしたことがないのは事実です。年齢差を感じさせないくらい仲が良く、常に対等の友だちであり仲間であり続けている二人は、とても素敵な存在ですね。

 また、ウィーンに音楽留学の経験があり、逸品のヴァイオリンを持っているという星花さん、言わずと知れた西園寺家の琴歌らと比較すると、ゆかりには際だったお金持ちエピソードはありません。家のことは両親が全部やっている(お手伝いさん等はいない)、家にロボット掃除機(ルンバ?)がある、父親は海外の古典文学が好きらしい、母親が料理上手っぽい……等々、せいぜいそんなレベルのエピソードしかないので、同列のお嬢様として語るのは正直厳しいでしょう。

 そんな感じで、ゆかりを特別お嬢様扱いしない友だちに恵まれて、ようやく彼女は「普通の女の子」になれたわけです。

 と言っても、普通の女の子になるのがゴールというわけではありません。我々が目指すのはトップアイドル。普通を手にいれた女の子が、今度は誰よりも特別な女の子になります。
その瞬間を、どうぞお楽しみに。

 「アイドルになったことで初めて普通になれた」という逆転の発想だけでも、まあ原稿としては成立するはずです。ただ、それだけじゃアリガチというか、及第点止まりかなと思ったので、もう一捻りを加えました。「特別→普通→特別」のツバメ返し。だめ押しの一撃。そんな感じの構成です。

総括

 疑問を起点にして、ひとつの事実から妄想を頼りに本編を構成し、本編が形になったらそれを活かすための前置きを組み上げる、という手順ですね。最後に必殺の一撃を付け加えて、おしまい。

 本稿の冒頭で「参考になれば」なんて言いましたが、あまりにも妄想の成分が多すぎて参考にならないですね……。ですが、こんな妄想主体の内容でも採用に至るという証左でもあります。臆することなく妄想で勝負しましょう。

 以上、17回音源の解説でした。


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