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「ポルノグラフィー」と犯罪

1. ポルノグラフィー規制の歴史

ポルノグラフィーの規制が論議されるようになったのは、古くは南北戦争後、1870年代初期からのことです。

アメリカでは、アンソニー・コムストック(Anthony Comstock、1844~1915)という活動家の立法運動・社会「浄化」活動がありました。コムストックは、キリスト教的な考え方から、性風俗の乱れや、飲酒・賭事などのいわゆる「低俗文化」がまん延することを防止しようとしたのです。そこでまず、性風俗関係出版物の取り締まりをターゲットにしました。

1873年、後に「コムストック法」と呼ばれる法律が成立します。わいせつ、みだらな出版物を郵便禁制品と指定して流通過程をシャットアウトする法律です。

たかがわいせつ規制と侮るなかれ。のちに最高裁判事となる憲法学者の伊藤正己先生の教科書には、次のような叙述があります。

「……社会には、わいせつなものを取り締まることに賛同する人びとが多い。そのため、支配者は、歴史上はしばしば社会の秩序を維持するために、あるいは権力行使の支持を得るためにわいせつなものの取り締まりを強化した。それが、言論の自由一般への侵害につながったため、わいせつの取り締まりの強弱が表現の自由保障の程度を見るバロメーターであるともいわれている」。★1

実際、コムストック法は、富くじ類の宣伝勧誘などを禁制品のリストのなかに加えていっただけでなく、20世紀に入ってからは、無政府主義 アナーキズムに関する出版物や、第一次大戦の頃には、反戦平和を訴える出版物などに拡大してきます。

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