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旅に出れば、誰もが物語の紡ぎ手になれる

旅に出る理由はさまざま。気晴らしをしたいからかもしれないし、好奇心から旅に出るのかもしれません。

でも旅立つ動機には、潜在的に人生を物語で彩りたいという望みも少なからずあるのではないでしょうか。

かつて江戸時代には、お伊勢参りが流行しました。ヨーロッパではサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼に多くの人が旅立ちました。

いずれも決して快適な道のりとはいえず、旅費も捻出せねばなりません。物見遊山へのあこがれや信仰心をよすがに、過酷な旅に出たのでしょうか。おそらくそれだけではないはず。

彼らは長い旅を終えて故郷に戻ると、道中で見聞きしたこと・体験したことを家族や友人たちに語り聞かせました。こうした旅の思い出語りが、さまざまな地域の文化を伝播させ、発展させることにもつながったのですが、苛酷な旅からの帰還者として一目を置かれた語り手は、娯楽の乏しい時代のヒーローとして扱われたに違いありません。

日々の繰り返しでしかない日常に、一発逆転のチャンスを生む旅の非日常。
平凡な生活から一時でも脱出して、鮮やかな旅の物語を紡ぐヒーローとなる――。旅の物語は旅をした人自身の冒険譚として、人生に彩りを与えたのでしょう。

現代を生きる私たちにとって旅はぐっと手軽な娯楽となりましたが、それでも非日常へとエスケープして、自分を主役にストーリーを自由に紡げるのは旅の最大の醍醐味だと言えます。

ひとまず旅に出れば、どんな旅程であれ、主人公は自分。乗りなれない路線、見慣れぬ景色、旅に行くという高揚とのんびりした気分――。

次第に車窓の景色は移ろい、目的地に到着。目的地では、完全なる異邦人。

日常とは違う空気・風景・ひと・ものに触れ、自分の存在をフィルターにした新鮮な発見が語られれば、それはその人だけが紡げる物語になるのです。

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