
24歳女子が初めての海外で「待て、これは何だ?」といわれたスーツケースの中身とは
24歳の秋。初めて海外に行きました。行先はアメリカ、オレゴン州。
ドキドキしながら降り立った異国の空港で、私のスーツケースがX線にかけられました。
「これは何だ?持ち込みは禁止されているはずだ!」
検査官の目に留まったモノとは、何だったのでしょうか?
24歳女子としては多分レアな、海外経験のお話です。
24歳女子、海外出張へ
24歳の秋。勤めていた会社から海外出張を命じられました。
当時、働いていたのは小さな農業系法人で、研究スタッフとして日々、栽培方法の改良とか肥料をどうしたらいいのかとか、そんなことに当たっておりました。
出張先は、取引のあったオレゴンの種苗会社です。
オレゴンの会社には、現地のスタッフが3人と、日本人スタッフ1人が働いていました。
細かいことは日本人スタッフのTさんが全部教えてくれるから、まあうまくやるように、という話です。
初めての海外。ドキドキです。
何を持っていったらいいのかもよくわからないので、Tさんに聞いてみました。
当時はまだE-mailというものがなく、やり取りは電話かFAXで行っていました(ええそうです、ずいぶん昔のお話です)。
「あのさー、日本で売ってる灯油ポンプあるでしょ、あれ欲しいんだよね。
それとさー、今、小さな畑で実験してるんだけどさー、アメリカの農業用機械って、めちゃデカイのしかなくって困ってるんだよー。だからさー、農協とかに行って、日本のクワとカマを、2つ3つ買って持ってきてもらえないかなぁ?」
…はい?
灯油ポンプはまだよいとして。
クワ?
カマ?
24歳女子、初めての海外へ、クワとカマを持っていく羽目になりました!
ちょっと待て、これは何だ?
会社が農協と相談して、スーツケースに入るよう、クワの金属部分だけと、カマを2本、用意してくれました。
24歳女子、ブツクサ言いながら、クワとカマを慎重にタオルでくるんでスーツケースに仕舞います。
なんでだよー、仕事で行くんだから仕方ないけど、なんで24歳女子、初めての海外のお供がクワとカマなんだよー!こんなことってある?
また、灯油ポンプも意外にスーツケースに収まりにくいのです。
(ちなみにドクター中松氏の発明品であるこちらのポンプ、正式名称は「醤油 チュルチュル」といいます。)
手荷物じゃないからまだましだろうけど、それにしてもこんな物騒なものの持ち込みが、すんなり許されるんだろうか?
だって、カマってあれじゃん、死神とかが持ってるやつじゃん?
日本からヤバい奴が来た、テロリストだ、とか言われたらどうすんの?
小心者の24歳女子、行く前から心配でたまりませんでしたが、なんだかんだで、アメリカの空港までたどり着き、スーツケースがX線検査にかけられました。
キラン!
検査官の目が光りました。
「ちょっと待て、これは何だ?」
あああ、やっぱりだめじゃん~~~~!
泣きそうになりました。
「これは、種子だな?植物種子の持ち込みは禁止されているぞ!」
検査官が指していたのは、カマではありませんでした。
指していたのは、まさかの…
天津甘栗!
お土産用に入れていた、天津甘栗でした。
「それは確かに栗ですが、すでに、完全に、ローストされています!決して芽が出るものではありません」
カタコトの英語で必死に訴えました。ローストした栗は、日本では最高のおやつのひとつです。Tさんと一緒に食べるために持ってきました。したがって、絶対に芽が出ません。アメリカの生態系を破壊する可能性は決してありません、と。
私はここで一生分の「Roasted」という単語を使いました。
検査官は「OK」と笑って、スーツケースを通してくれました。
カマ、無事だったよ…。
おそらく、検査官の方はこんなコンパクトなカマを見たことがなく、凶器になるとは思わなかったのではないでしょうか。クワも、多分、ただの金属塊に見えたのでは。
ヘーゼルナッツの畑で
という訳で、無事に仕事が始まりました。
オレゴンの畑は確かにとてつもなく広く、ゾウよりも大きな機械が農場を走り回っていました。なるほど。小回りの利く農具なんか手に入らないのねぇ。
私が持ってきたクワとカマは、大活躍してくれました。
醤油チュルチュルは何に使ったんだろう…?ガソリンの小分け用だったかな?あんまり覚えていません。
ここの会社は農家を1軒買い取って使っていましたので、建物の周りには農場がそのまま残っていたんです。農場の周りにはブラックベリーがたくさん実っており、庭にはリンゴやナシ、プルーンの木もありました。
おかげで朝食前に果物を摘んで~、午後はジャムを煮て~、というオサレ農場ガールライフを満喫しておりました。
何より素敵だったのは、建物の隣に広がっていたヘーゼルナッツの畑です。ヘーゼルナッツのおいしさを初めて知りました。
そういえば、「ハシバミ色の瞳」という言葉が子どものころに読んだ物語に出てきていて、ずっとどんな色だかわからないまま過ごしていたのですが、セイヨウハシバミの種子というのがヘーゼルナッツ!ハシバミ色とはこのヘーゼルナッツの色だったのですね。
はるほど。栗に注目された訳がわかりました。
オレゴンの農業を、このおいしくて文化的にも大切なヘーゼルナッツを、検査官は守らなければならなかったのです。
ヘーゼルナッツの味は、オレゴンの味。
懐かしい、思い出の味です。