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社長のベンツで〇〇へ
これは、「忘れられないお医者さんの話」の続きのお話です。
アメリカで倒れたあとで生まれて初めて乗ったベンツは、〇〇へと向かいました。
ワシの知っとるところに頼んどるけえのう
ガチガチに固まった筋肉に神経が挟まれてしまう「PINCH NERVE」になった私ですが、オシャレなブーツを履いたハルク・ホーガンのおかげでなんとか動けるぐらいには回復し、帰国しました。
ボチボチ会社にも顔を出し、少しずつ仕事をしていた、そんなときです。
研究室に社長が現れました。
社長は当時、70代ぐらいだったでしょうか。社内で一番元気がよく、仕事が大好きな人です。
「山口さんよ。ワシの知っとるところに頼んどるけえのう、今から連れて行く」
んんん?なになになになに、何事ですか?今、仕事中ですが???
「ええけえ、車に乗りんさい」
社長の運転するベンツに乗せられてしまいました。
初めて乗るベンツ。なんじゃこりゃ、内装も私が知ってる車と全然違う!革だ。革張りだ。滑らかだー!
おおお!すげー!これ、テレビで見たことある!車載電話だぁ!車の中で電話できるんだ、すげー!!!
とはいえ、病み上がりの頭痛持ち。
社長に拉致られるという異常事態も加わって、初めてのベンツをじっくり観察したり、そのゴージャスぶりを堪能している暇もありません。
「あんたあ、オレゴンじゃあいけんかったのう。ワシが通っとるハリがあるんじゃ。そこに行ったら、具合もようなる。費用は会社の金で払うけえ、心配せんでええ。身体を治して、また働いてくれ」
おおお。社長直々のありがたいありがたいお言葉。ペーペーの一社員に対して、もったいなさすぎます。涙がでます…。
…?
ちょっと待って。
ハリ?
シャチョー、ハリッテイッタ?
ハリッテナンデスカ?
ハリッテナンデスカハリッテナンデスカブルブルブルブル
もしかして、あの、鍼治療ですかぁ~~~~?!
(こわいのでイメージでおつたえしております)
いや~~~~!まじで~~~~?
こわい~~~~~!こわすぎる~~~~~~!
神経が筋肉に挟まれるのも嫌ですが、ハリを刺されるのも嫌です。
でも、もう逃げられない…(T_T)
というわけで、20代女子、社長のベンツで、嫌も応もなく鍼治療に連れて行かれることになりました。
初めてのハリ
初めてのパリ、とか、初めてのバリ、とかなら、20代女子のキラキラ感が溢れますが、私の場合は、マルもテンテンもついていないハリです。
マルやテンテンに、このときほど憧れたことはありません。まあ、ハリもある意味キラキラしてますが。
ちゃう。今、私がほしいのは、そのキラキラちゃう。
「ワシの大事な社員じゃけえのう。ようしてやってくれえや」
社長は鍼灸師さんにそう伝えています。ありがたや~(T_T)
ありがたいけど。
こわい~(T_T)(T_T)(T_T)
「じゃあの、山口さんよ。終わったら迎えに来るけえの」
社長の送り迎えでって、どれだけのVIP待遇ですかっ!
ああ、これが社長のベンツの送り迎えで学会発表なら。あるいは、お客さまの接待とかなら。あれこれ想像してみます。
でも、現実はハリ。どうあがいても、ハリ。
どうしようもない。
鍼治療、受けました。
(こわいので、画像を小さめにしたはずですが戻っていたらごめんなさい)
…あら、意外。
受けてみると、痛くもなんともなく、なんだか筋肉がほぐれていく。おお、これが鍼なのか。
鍼ってすごいね!
ビバ、東洋医学~~~!
「ようなるまで、通いんさい」
と社長に命じられ、しばらく鍼治療を(勤務時間中に会社のお金で)受けました。
そして私は無事、筋肉に抱っこされていた神経を取り戻したのでした。
いま、振り返って思うこと
あの頃の社長の年齢にだいぶ近くなってきて、わかったことがあります。
社員をこんなふうに大事にしてくれる社長だからこそ、社員たちはついていったのだと。
社長はいつも、夢を語っていました。
その夢を、一つひとつ叶えていました。
あの社長の元で働くのは、楽しかった。
社長の夢を一つひとつ形にするお手伝いができている、その実感がありました。
今だにあの日々を懐かしく思い出します。
社長、ありがとうございました。
初めて勤めた会社の社長があなたでよかったと、心から思います。
ただ、初めてのベンツで行く先は、できればもうちょっと別のところがよかったかも。