ベッキーの気持ちが少しわかる2

ある日の深夜、ひどく酔っぱらって彼はうちに帰ってきた。

「なんか太郎さんと飲んでたらさ、好きな音楽一緒で。びっくりしたー」と言って上機嫌だった。かなりマニアックな音楽だったので、ジャンルや歌手名は覚えていない。

左手に持っていた袋に手を入れて「あおこのこと考えたらさ、やっぱりクロワッサンだと思ったんだよね」と種類の違うパンを4つほど出した。深夜に持ってきたので、遅くまで開いてるパン屋がこの辺にあるんだなという驚きとともに、生活感がない彼がパンを買ってきてくれ、うれしかった。だって、私と朝ごはんを食べることが、夜から楽しみということなのだから。私にはこれが合うなんて言葉と一緒だっただけで、それはただのパンではなく「彼が私のためにじっくり選んでくれたプレゼント」というステージに格上げされるのだ。

彼は、いままでうちで飲むお茶もごはんも一切買ってこなかった。のどが渇くと「あおこぉ、喉かわいた~」と言われ、お茶を作ると「あおこの入れるお茶はおいしい」と言い、満足そうに飲んでいた。私が「いや、フツーだと思うけどな」と言っても、「あおこの入れる、お茶はホントおいしいよ~」と言い返されるだけだった。適当に茹で、軽く水にさらしたうどんなどは、「あおこ、これぬるいよ」などと言い、それ以来何を作っても警戒された。

パンを買ってきた日、「ねぇ、あおこ。年末なんだけど、俺も一緒に長崎にいく!」などと言い、ANAのサイトをから飛行機を予約し始めた。私がすでに予約していたフライトを検索し「俺、自分で初めて飛行機予約した!!俺、できること増えたよ!」と子供のようにはしゃいでいた。

1か月前「年末長崎帰るけど、来るなら来ていいよ」と私が言っていた答えが、たったいま出た。たぶん、この人は私と結婚するつもりはないということは付き合う前から分かっていた。だけど、元カノの実家に行っていることはなんとなく察していて、心のどこかで常にその子に勝ちたいと思っていた。そして、いつも試していた。この人、私のためにどれくらいのことまでやってくれるんだろう、と。

私は、11月から付き合い始めたたぶん結婚なんて考えてない彼と、長崎に帰ることになった。


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