シニア従業員のジョブ・クラフティング先行要因
こんにちは。今回は、シニア従業員がジョブ・クラフティング介入を通じて個人-職務適合(Person-Job Fit)を高められること明らかにした論文を紹介します。シニアの効果的なジョブ・クラフティングを可能にする要因があるようです。
今日の一言サマリ
シニア従業員は、自己の強みに向けたジョブ・クラフティングにより、個人ー職務適合を高められる。
参考にした文献
Kooij, Dorien T. A. M., Marianne van Woerkom, Julia Wilkenloh, Luc Dorenbosch, and Jaap J. A. Denissen. 2017. “Job Crafting towards Strengths and Interests: The Effects of a Job Crafting Intervention on Person-Job Fit and the Role of Age.” The Journal of Applied Psychology 102 (6): 971–81.
シニア従業員の特徴
シニア従業員は、長年の経験やスキルの蓄積によって自分自身の価値観や興味、強みが明確になり、自己理解が深まる傾向があります。そのため自身の仕事に対するアプローチも若年層と異なることがわかっています。
また、シニア層は自己統制や責任感、職務に対する忠誠心が高まる傾向があり、環境に合わせて職務内容を調整する能力も強化されることが指摘されています。
この自己理解と責任感が、シニア従業員が積極的にジョブ・クラフティングを行うための土台として働きます。
強みと興味に向けたジョブ・クラフティング
ジョブ・クラフティングは、もともとWrzesniewskiとDutton(2001年)によって提唱された概念で、従業員が自発的に職務内容を調整し、自己のニーズや価値観、仕事に対する見方を変えることで、職務の適合性や自己の仕事に対する満足度を高めることを目指すアプローチです。Wrzesniewskiらはジョブ・クラフティングの形態として、タスク・クラフティング、関係性クラフティング、認知クラフティングの3つを提唱しました。
一方、本論文が提案する「強み」と「興味」に基づくジョブ・クラフティングは従来の定義をさらに拡張し、職務を個人の「強み」や「興味」に合わせて調整することを重視しています。
強みに向けたジョブ・クラフティング
強みに向けたジョブ・クラフティングとは、個人が自己の特性やスキルを活かし、最も得意な能力を活かせるように職務を調整することを指します。たとえば、対人関係構築が得意なビジネス・コンサルタントが、通常のグループプレゼンテーションではなく、クライアントとの個別面談に重点を置くように職務をアレンジすることが考えられます。
また、職務内での特定のタスクを積極的に増やしたり、逆に自分の強みを活かしにくいタスクを減らすことも、強みに基づいたジョブ・クラフティングの一環です。
このように、自分が最も能力を発揮できる形でタスクを調整することで、従業員は職務への適合性を高めるとともに、自己効力感や達成感を得やすくなります。
興味に向けたジョブ・クラフティング
一方、「興味」に向けたジョブ・クラフティングは、従業員が自己の興味や価値観を反映させる形で職務内容を調整することを指します。たとえば、歴史教師が音楽に関心を持っている場合、その教師は授業の内容に音楽を取り入れたり、同僚の音楽教師と協力するなどの工夫をすることができます。
このように、自分が情熱を持って取り組める要素を増やすことで、従業員は職務に対してより強い満足感を感じ、モチベーションが向上します。
検証方法と結果
Kooijらの研究は、オランダの健康保険会社に勤務するシニア層と若年層を対象に、ジョブ・クラフティングの効果を比較検証するものでした。対象者は実験群と対照群に分かれ、ジョブ・クラフティングのワークショップに参加したグループとそうでないグループの間で個人ー職務適合やジョブ・クラフティング行動の変化を観察しました。
ワークショップでは、従業員が自身の強みや興味を見つめ直し、それらと整合性のあるタスクを増やす方法を学び、具体的なプランを立てられるように促されました。
その結果、シニア層は強みを活かしたジョブ・クラフティングを積極的に行うことで、個人ー職務適合性が向上しました。一方で、若年層においては、ワークショップに参加した結果、自己の強みを見つけ出す過程が逆に個人ー職務適合を低下させてしまう可能性も示唆されました。
興味に向けたジョブ・クラフティングは個人ー職務適合のうちニーズー供給適合を向上させることがわかりましたが、シニアが若手に比べてより興味に向けたジョブ・クラフティングを実施したり、より個人ー職務適合を高めたわけではありませんでした。
この研究では、ジョブ・クラフティング介入(先行要因)がシニアの強みに向けたジョブ・クラフティングを媒介し、個人ー職務適合性(成果)を高めることを明らかにしました。
実践への示唆
シニア従業員は若手に比べて自己理解が進んでいます。彼らの強みを職務遂行の中で活かすようなジョブ・クラフティングは個人ー職務適合を向上させ仕事のパフォーマンスを向上させることがわかりました。
シニア従業員は「仕事は自分で変えていける」というジョブ・クラフティングマインドセットを持ち、自分の強みを活かす方法を考えることで、パフォーマンス向上とウェルビーイングの実現が可能になります。強みを活かす他者との協業やメンターとして振る舞うことも有効でしょう。
シニア従業員の上司は、シニア従業員が強みに気づくリフレクションを支援し、強みに向けたジョブ・クラフティングの実行をサポートすることが重要でしょう。
シニア従業員の持つ強みを埋没させず今の仕事に活用してもらうことで、従業員はイキイキと働くことができ、会社への貢献もアップすることが期待できるのです。