🆚エスパー系武道（後編）

さてエスパー系マーシャルアーツです。
前回は「どこがマーシャルアーツ？ただの不思議系お姉さんとの合コン話じゃん」というツッコミがありました。

いやいや、その話、大事なんです。
幸せの仕組み、満足の裏側、浪漫と欺瞞。。
前編でも述べましたけど、自分自身はそれで誰かが救いになるのであれば「それはそれでいい」と思える派です。

ただそれを「主体」として興味持てるかというと、特に魔女のホウキとか自分はいらんですが、魔女のホウキ欲しがってる人のストーリーには客観的に興味あります。（でも立ち入らないです）

それで長く道場をやっていると、あからさまに“そちら系”の人もやってくることもあります。もう20年近く前のことですが、「独学で武術をやっています」という人が体験に来たことがあります。

現れたのは、当時名を馳せていた芸人のエスパー伊藤さんによく似た、それでも大変地味な方でした。無地の白いTシャツはジャージスボンにIN、その上ズボンのウエスト部は胸部下にまでUP。そして指の飛び出たカンフーシューズを履いていました。

「あ、エスパーさん（ここでは仮にそう呼ぶ）、空手は裸足ですのでシューズは脱ぎましょうか」

そう声をかけると、道場の隅でうずくまりました。
（えっ？」）と思って、どうしたんですかと声をかけると
「靴を脱いで練習をするのが怖いです・・」と打ち明けてくれました。

じゃぁ、今日は無理をしないで見学にしましょうか？と気を使うと、うずくまっていたエスパーさんはぱっと頭をあげると強い眼差しでこう言いました。「それでは老子の教えに背きます！チャレンジです！」

「え？独学じゃないんですか？先生がいるんですね」
そう聞くと、エスパーさんは「はい、僕の心にいる師なんです。。」そう大切そうに教えてくれました。

その後パッと靴を脱ぐと、指の出た白い靴下が現れました。
それを脱いでもらうのにも相応の時間がかかりました。。

その後基本の素振りをやったりしましたが、エスパーさんは空手のいろいろな技の真似をするのにも苦労していたようでしたし、運動不足のようですぐに疲れてしまいました。

でも自分はエスパーさんが頑張ってくれていたことが嬉しくて、変わったところあるけどこういう方にゆっくり空手を学んでもらえてもいいなと思っていました。

移動稽古も見学で過ごした後、エスパーさんは「体力戻ったので、また練習に参加してもいいですか？」と聞いてくれました。

「もちろんです！」自分はそう言って、彼を誘いミット打ちの練習へと移行をしました。早速はじめの「突き」の説明。ワンツーなどを正しいフォームで打ち込む、女性や初心者にも分かりやすい説明を心がけました。

ところが間も無くエスパー氏は「やはりこれはできません。。」といって、あからさまに震え始めました。

わけを聞くと、独学で学んできた拳法でミットに拳を打ち込むと、ミットを持っている人が死んでしまう可能性があるのだと言います。
そんな怖いことはできないと、本気で震えていました。

自分はエスパーさんの背中をやさしくかかえるようにして、見学の椅子に案内しました。その後彼は、我々がスパーリングをして礼をするまでしっかり見てくれていましたが、時折微笑んだりしてくれていました。震えはすっかり止まっているようでした。

「今日はお役に立てずすみませんでした」
自分がそう伝えると、エスパーさんは「入会を検討したい」と打ち明けてくれました。ただ、靴を脱ぐのは抵抗があるのと、やはりミット越しに人を打つことはできないということで、自ら「やはり入会は見送ります、、」とおっしゃっていました。

自分がこの話を書いたのは、エスパーさんを否定するためではありません。
誰の心にもエスパーさんはいるのだということです。

その後道場でも彼の話題が少しバズりましたが、彼の"靴"についてなんやかんや言っていた独身男性の先輩は、その人の家には捨てきれないコンビニ弁当付属の「おしぼり」が山ほどあることを棚に上げています。引っ越しを手伝った際に、そのおしぼりをここぞとばかりに捨てたら、ひざを抱えていじけられました。まだ使えたのに。。（おしぼりとっくに乾いてるし。。）
また、彼の発勁？的なことをやたら馬鹿にしている人たちも、運気を上げるために福沢諭吉を逆さまに財布に入れないほうがいいよと議論していたのを見たことがあります。

人間はみんな「愛」のために生きています。
何かを好きになることは、愛着を育むことです。そして愛着は執着へと変わって行きがちです。それが「生きている証（運命）」だと覚えこんでいくのです。

マーシャルアーツどうあるべきか。
そんなことを小難しく考えるたびに、自分はエスパーさんが自分らのスパーを楽しそうに見てくれていた、あの時の笑顔を思い出すのです。