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続・脳科学の未来(5)コネクトームのパイオニア達#1

わたしは、1990年代の前半、米国中西部の都市セントルイスのワシントン大学に滞在していた。その時、隣の研究室にカリフォルニア工科大学からやってきた熱意溢れる神経解剖学者がいた。デイヴィッド・ヴァン・エッセン博士である。

Bruno B. Averbeck, Moonsang Seo - Averbeck BB, Seo M (2008) "The Statistical Neuroanatomy of Frontal Networks in the Macaque." PLoS Comput Biol 4(4): e1000050. doi:10.1371/journal.pcbi.1000050 CC2.5


彼らのグループは、マカクサルの網膜から、視床、そして大脳皮質の視覚野やその周辺領域にいたる神経回路のつながりを、過去の文献などを参考にひとつの図上に描きだした(上の図、詳しくは、van Essen et al., Science 255, 419 (1992))。

この神経回路図が大きな関心を集めたのは、複雑な3次元構造を持った脳の中の複雑な神経回路をひとつの図にしたことだけではない。網膜の違った細胞からの違った情報が、大脳皮質にある様々な領域でどのような経路で階層的に処理されていくか、という機能性を同時に記載したことである。単語を一列に並べてみても、その意味するものはよくわからない。ところが、それが文となってその並べ方に何らかの意味があれば、その価値は高まるのである。

この図は、あくまでマクロなレベルで、ある領域と別の領域のつながり方を示したものであり、「マクロ・コネクトーム」というべきものである。それぞれの領域には、興奮性ニューロンや、抑制性の介在ニューロンなど違った性質を持ったニューロンが多数存在しているが、個々のニューロン、つまり細胞レベル、シナプスレベルでの接続の様子、つまり「ミクロ・コネクトーム」については、この図には何も書かれていない。

(1週間に1回程度のペースで記事を出します)

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