「キャスト~悪魔の王子と氷の姫~」第3話 Ghost & Ice princess & …
悪魔はファイティングポーズを取っている真仁と姫華を見た。
「お前らの肉は上手そうだな。俺の名はドゥールだ。今からお前らを食す者の名だ。死んでも忘れるなよ」
ドゥールはそう言うと兵頭の体を二人に向かって投げた。
真仁はそれを避けたが、姫華は避けることができず兵頭の体が当たり、兵頭の血で体全体が汚れた。
姫華は血塗れになった自分と頭の無い兵頭の死体を見て恐怖していた。
「聖騎士軍の訓練はどうなってるんだ? おい、仮にも氷河の一族だろ。そんなことで臆してどうする」
真仁は悪魔に近付きながら姫華に言った。
姫華はその言葉も耳に入らないほど恐怖していた。
「ちっ」
真仁はそんな姫華を見てイラついていた。
「氷河の娘は使い物にならないようだな、阿久津」
「ああその様なんで、タイマンと行こうぜ」
真仁はドゥールの顔面へジャンプアッパーを食らわせようとした。
しかし、ドゥールは難なくと避ける。
そして、すぐに真仁に向かってボディブローを返してきた。
真仁はジャンプして避けられないため肘で防御したが、ドゥールの攻撃が当たり屋上のフェンスへと吹っ飛ばされた。
「どうだ、阿久津。このドゥール様の力は素晴らしいだろう」
真仁は何事もなかったかのようにすっと立った。
「姉貴に比べりゃ全然大した事ねーな。ただの図体のデカい人間って感じだな」
「生意気言いやがって。これでも喰らえ!」
ドゥールは口から火を吐いた。
真仁はそれを左方向に走りながら避けつつ距離を詰めていく。
ドゥールはそれに合わせて真仁に向かって火を吐き続けた。
真仁とドゥールとの距離が4メートルを切った時、真仁はドゥールに向かってジャンプした。
「バカめ!上に飛んだら、逃げ場などないぞ!」
「そんなことはわかってるよ」
ドゥールは上に飛んだ真仁に向けて火を吐く。真仁に火が当たる直前、凍った塊が真仁とドゥールの目の前に現れ、ドゥールの吐いた火を遮った。
そこには服が血塗れになった氷河が気持ちを入れ替えてキリっとした顔で立っていた。
「ナイス、氷河さん!」
「阿久津くん、やっつけて!」
「邪魔だ!」
ドゥールはその塊を手で払いのけた。
塊が地面にぶつかりバラバラになった。それは、兵頭の死体だった。
その一瞬の隙を真仁は見逃さない。ドゥールの顔に蹴りを喰らわせる。
「グフッ!」
ドゥールは真仁の蹴りでよろめいた。
そこからは真仁のターンだった。真仁はドゥールの脇腹を殴り続けた。
ドゥールは真仁の攻撃を喰らいながら態勢を整える。
そして、ドゥールは真仁の脇腹を鷲掴みし、真仁の頭に食らいつこうとした。
「いいねー悪魔。それくらいの強さじゃないと本気が出せねーよ」
いきなり、ドゥールの後ろ首に衝撃が走り、ドゥールは海老反りになった。ドゥールが後ろを振り向くとそこには飛んで蹴りを決めている白い羽が背中に生えた白い人間の姿があった。
「な、なんだ、こいつは?」
「俺のキャスト、透明で不透明の不在の存在だ! 利用させてもらうぜ、兵頭先輩」
真仁は兵頭の幽霊でキャストを発動した。
ドゥールはその攻撃の勢いで真仁を離した。
真仁は自身のキャスト、キャスパーを使って後ろからドゥールの後頭部付近を攻撃。前からは真仁自身でボディーブローを決めていく。
ドゥールはその真仁の力に圧倒されていく。
「この小賢しマネをしおって」
しかし、真仁の攻撃はドゥールには少ししかダメージが入っていなかった。攻撃の手数には圧倒されてはいたが、ダメージの面で言えば子供と大人の喧嘩の様なものであった。
ドゥールは蚊を追い払うかのように真仁とキャスパーの攻撃を払いのけていく。
「氷河さん、何かこいつに攻撃をしてくれ」
真仁は自分の攻撃があまりドゥールに効いていないのに気付いていた。それはまるで、タイヤでも殴っているかのような感触だったからだ。ドゥールの筋肉があまりにも厚かった。
「でも、私の能力だったらその悪魔の間合い以上に入り込まなきゃ無理なの」
「なんだってー! 能力の範囲はどれくらい?」
「半径1メートル」
「短いなでも、こいつの手を凍らしてくれるだけでいい。氷河の一族なら強力な氷の使い手だろ」
「まあ、そうだけど。わかった、やってみる」
ドゥールは真仁と姫華との会話に気付かないほど、真仁の攻撃の対応をしていた。
姫華はドゥールに近付いていく。
ギリギリ、ドゥールの攻撃が当たらない所までに来た時、姫華はキャストを発動した。
「一瞬の静寂」
ドゥールの手がちょうど姫華のキャストの範囲に入ってきて凍った。
「なにッー?」
ドゥールの片腕が一瞬ではあるが止まった。その瞬間真仁は踏み込んでジャンプをした。真仁のキャストもドゥールの後ろ側で同じようにジャンプをする。
そして、ドゥールの首にサンドイッチする形でラリアットをかました。
これにはドゥールもかなりダメージを負って膝をついた。
そんな時だった。
屋上の入り口からバイクのマフラーの音が聞こえた。
――ブブーンー
扉を突き破りバイクが宙を舞っていた。バイクはドゥールと真仁の上を飛び越えると、
――キキーッ
と、音を鳴らし横向きにスライドブレーキをかました。
バイクに乗っているのは黒色で炎のマークが描かれたフルフェイスで、沼田高校のセーラー服にスカートの下に銀色のジャージを着た女だった。
女はフルフェイスを外す。するとその女は真仁の姉、阿久津真央だった。
「どうした、弟よ。元気か?」
ドゥールも真仁も姫華も呆気に取られていた。
「あらあらキャスト使っても悪魔一匹倒せないんじゃ、じい様の名が廃るってもんだぜ」
「姉貴どうしてここに?」
「いやー悪魔が出たって聖騎士軍の……、誰か名前は忘れたが連絡があってな。いっちょ退治しに来たのよッ!」
と、真央はそう言った瞬間ドゥールに一瞬にして迷いなく近づいた。
そして、ドゥールの顔面を両手で挟んだ。
「なんだい真仁。こんなのに手こずっていたのか? こういう奴はこれで終いよ」
「ウギッ」
ドゥールの悲鳴が聞こえる。そう思っていたら。
――パチンッ
ドゥールの頭がまるで風船のように弾けて、紫色の血が舞い散った。
「ああ、きたねー花火だこと」
それは、あっさりしたものだった。
真仁や姫華が苦戦していたところをあんなに簡単に真央は倒してしまった。
それを見た二人の顔は唖然としていた。
「えーッ!」
真仁と姫華は二人とも声を出して驚いた。
「これで片付いたな」
真央は手の汚れを叩いて落とす。
「やー姫華ちゃん! 氷河のおじさんから話は聞いているよ」
「えっ、あっ、はい!」
姫華はなぜか敬礼をしていた。
「姉ちゃんには連絡あったのかよ?」
真仁は驚きの連続で困惑していた。
「おっ、あったぞ。親父からも連絡あったぞ。まあ後の処理は聖騎士軍に任せて、若い奴らで茶でもしばこーやないかい」
真央は姫華の肩を抱きしめながら言った。
「おっと真仁、私の愛車を担いで下まで降りとけよ」
「ち、わーったよ」
真仁は渋々両手で持ち上げて屋上から飛び降りた。
「おい真仁、壊したら承知しねーぞ!」
「わーってる」
真仁は学校の壁を滑るように落ちていく。
「さあ、姫華ちゃん。お姉様と一緒にイチャイチャしましょうねー」
真央はそう言うと、姫華をお姫様抱っこして駆け足で屋上から玄関まで降りていった。
「キャーッ!」
姫華はそのスピードがあまりのも速すぎて、悲鳴を上げていた。
「さあ、到着しましたよー。姫華ちゃん」
真央は小学校の玄関の外に着くと姫華をそっと立たせた。
「あ、ありがとうございます」
「いいのいいいの。あ、あれ愚弟はどこいった」
真央は周りを見渡す。
「ここだよ、ここ!」
真仁は真央たちの後ろでバイクの横に立っていた。
「おお私の愛車よー。よしお前はダッシュで20世紀までいけよ」
「了解」
そう言うと真仁は下山してカフェまで走っていった。
「姫華ちゃん後ろに乗って、私より遅いけど乗り心地は良いから」
「あ、はい!」
真央はフルフェイスを着け、姫華はヘルメットを着けバイクにまたがった。
「じゃあ飛ばすよー」
真央はフルスロットルでエンジンをかけた。バイクはものすごい勢いで進んでいく。
「キャー!」
バイクに慣れていない姫華は悲鳴を上げていた。
「さあ着いたよ、姫華ちゃん。……? 姫華ちゃん」
姫華は真央に抱き着いたまま気絶していた。
「ありゃ、のびちゃったか」
真央は姫華を抱えてカフェに入った。一番奥の席で手前の椅子に座っている真仁を確認すると、姫華をソファー席に座らせて真央も座った。
真央たちの目の前にはアイスコーヒーが置かれていた。
「レイコ―でよかっただろ?」
「気が利くねー。わが弟よ」
真仁はふてくされた顔をしながら頬杖をついていた。
「氷河さんは姉ちゃんの運転で伸びたのか。それで、話があるんだろ」
「ああ、まあ我ら家族についての話だ。簡単に話すと、今この地区の結界は弱くなっている。だから、悪魔が何かしらのアクションを起こしてくるのは間違いない。悪魔にとっても日本、特にここはどうしても手に入れておきたい場所だからな」
「それは俺らや日本支部がいるからか?」
「それは二の次みたいだ。目的は剣山よ!」
「あ、なんで剣山なんか? ……! そっか、霊山の力を悪魔が欲している」
真仁は閃いた顔をしていた。
「そういうことだ。欧州でもどこでも霊山に当たるスポットは人にも悪魔にもパワーを得る源だ。そこで目がつけられたのが日本だ。そしてその中でも特に取っておきたいのが日本支部もあり、私たちもいるこの地にある山。剣山を取って日本支配の一歩にしようと考えているみたいだ」
「ということは、これから悪魔どもがこの街にも。でも、なんで結界が弱くなっているんだ」
「それは調査中だ」
そんな話をしていると姫華が気が付いた。
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