あの声に会いたい
◇◇ショートショート
「あなたの声にはパワーがある、いつも元気をもらってるんだよ」友人からの言葉を励みにサチはボランティアを始めました。
一人暮らしのお年寄りや障害のある人、相談相手がいない人たちに電話をかけて、15分以内の会話をするのです。サチは電話の向こうにいる人が楽しい気持ちになるようにパワーを送るつもりで電話をかけていました。
彼女は小さい頃からおばあちゃん子で家族の中でおばあちゃんと一番仲が良かったのです。おばあちゃんは人助けが趣味のような人で、困っている人がいるとどうにか力になってあげたいと思う優しく、強い女性でした。
「サチ、人は一人では生きていけんけんな、困っとる時に人に助けてもろたら嬉しかろ、それと同じことを人にも尽くすんよ、そうしたら絶対に不幸にはならんけんな」とおばあちゃんによく言われていました。
おばあちゃんは脳梗塞で倒れて認知症を発症し、最後はサチのことも分からなくなって亡くなりました。
その頃、サチは都会の大学に通っていてほとんどおばあちゃんに会うことが出来なかったことを後悔しています。だから電話ボランティアは出来るだけ、親身に応対していました。
この日もサチがボランティアの事務所から電話を掛けます。
「もしもし、洋子さんですか、美幸です。お変わりありませんか」
ボランティアは電話では決して本名を明かしません。サチは美幸と名乗っていました。
「美幸さん、今日も元気そうな声だねー、あなたの声聞いて元気が出てきたわい」
「洋子さん、何か、困った事はありませんか」
「そうねー、あなたと毎日お話したいんじゃけど、電話がかかってくるのが週に2回だけじゃけん、それが寂しいわいねー」
「私もそうなんですけど、ボランティアのルールで、お電話するんは週に2回までなんです」
「もっとお話ししたいわいねー、盛り上がってきたらもう切らんといかん、つまらんわい、15分は短すぎよ」
「洋子さん、ごめんなさい、でも電話は15分以内って決まってるんですよー」
「私は、あなたの声を聞いているだけで幸せなんよ、気楽に自分の孫と話しているみたいじゃけん」と洋子さんはサチがとても気に入っているようです。
「洋子さん、実は、同じ人と話すのは2ヵ月までなんですよ、なのであと一回だけお電話したら、私とはお別れなんです」
「えー、ほーなん、そんな寂しい、あなたの声が聴けんなるん、寂しいなー」洋子さんは暗い声になりました。
「でも洋子さん、また別の人がお話相手になってくれますから・・」
「ほーなんかな・・・」と洋子さんはますます沈んだ声になりました。
「洋子さん、お庭のお花は今、何が咲いているんですか」サチは話題を変えました。
「今はねー、ケイトウの花が咲いとんよ、いろんな色が咲いとってねー、カラフルで、元気な花なんよ、美幸さんみたいに」
「私みたいなケイトウの花、いいですねー、水やりは大変じゃないですか」
「乾燥しすぎるといかんけんねー、毎朝きちんと水やりはしよんよ、足が弱っとるけん大変じゃけど」
サチが話しやすいようにいろいろ質問するので、洋子さんはつられて楽しそうに答えていました。
「洋子さんじゃー、今日はこれで、また3日後にお電話します」
「美幸さん、次が最後じゃねー、寂しいな・・・」
そしていよいよ、サチと洋子さんの最後の電話の日になりました。
サチが洋子さんに電話をかけますが、応答がありません。2、3度かけ直してみましたが、やはり洋子さんは電話に出てきません。
サチが不安気に別の担当者に聞きます。
「洋子さんが電話に出られないんですけど・・・何かあったのかなー」
と言っていると受付担当の人が部屋に入ってきました。
「サチさん、洋子さんとおっしゃる方がわざわざ事務所まで来ていらっしゃいますよー」
サチは初めて洋子さんの姿を見ました。杖をつきながら廊下を懸命に歩いてきています。
「洋子さんですか・・・」とサチがおばあちゃんに声を掛けます。
「その声、元気いっぱいの声は美幸さんじゃねー、やっと会えた、今日はお別れにお花を持ってきたんよ、庭のケイトウをあなたにあげたい思たけん」
「ワー、きれい、洋子さん、ありがとう」
「こちらこそ、あなたには本当に元気をもろたけん、私の事も忘れんといてなー」と洋子さんが涙声で言うと、サチは暫く黙ってから、こう言いました。
「洋子さん、これからはボランティアじゃなくって、私が、個人的にお電話します、ご機嫌伺いのお電話しますから、今日が最後じゃないですよー」
その言葉を聞いて、洋子さんは満面笑顔になりました。
「元気な声がこれからも聴けるんじゃね、良かったわい」と言うと、洋子さんはサチの手をしっかり握りしめていました。
【毎日がバトル:山田家の女たち】
《私は自然と話よるけん》
ベッドに横になって、休憩しているばあばと。
「優しいボランティアの人で良かったねー、世の中には優しい人もおらいね」
「物語じゃけどね」
「その人と話すことでいきがきじゃったんよ、巡り会えた事がよかったんよ」
「物語なんじゃけど」
「私は人と話す変わりに、イラスト描いたり俳句に詠んで満たされとるんよ、私は自然と語りよるけん、癒されとるよ」
母は私は寂しくないと、私にアピールしています。本当は寂しいのかも・・・。
【ばあばの俳句】
山里に誘う旅情や秋晴るる
いよいよ秋になって旅に出たい気分になってきた母の願望的な句が生まれました。秋の気配が肌で感じられるこれからの時期は、母にとっていてもたってもいられません。旅心が刺激されるのです。
よく乗っていた郊外電車の旅に出掛けたい母の思いいっぱいのイラストです。イラストの母の顔は決意に満ちています。
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私のアルバムの中の写真から
また明日お会いしましょう。💗
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