◇◇ショートショート◇◇お隣さんはイケメン兄弟
加奈のマンションの隣に新しい住人が引っ越してきた。
この時代に珍しくクッキーを持って引っ越しの挨拶にやってきた。
休みの朝、ピンポーンとチャイムが鳴るのでのぞき穴から見ると坊主頭の若者が立っていた。
作務衣を着た20代の爽やかな青年だった。
「こんにちは、先日お隣に越してきたものです。よろしくお願いします。」礼儀正しく挨拶する姿に加奈は「こちらこそ、よろしくです」
そんな短い会話を交わした。
「ありがとございます」
最後に彼が言った。「僕らを見て驚かれるかもしれませんけど、ご心配なく」
加奈はワクワクしていた。
彼女は独身で彼氏募集中。一目で、お隣さんに好意を持ったのだ。
それから加奈は隣の事が気になって仕方がなかった。
数日後、加奈が帰宅した時、出掛けようとしていたお隣さんに偶然遭遇した。その人はゆるめのマッシュパーマをかけ、黒ぶちのメガネに黒のセーターをさりげなく着ていた。丸坊主の彼にどことなく似ていたが、とても今風の佇まいだった。
「あれっ、兄弟なのかなこっちは思いっきりイケメンだ。」
加奈の胸は高鳴った。
「あのー、美味しいクッキーをありがとうございました。彼のお兄さんですか・・」
するとマッシュパーマの彼はバツが悪そうに「まあ、そんな感じですかねー。急いでいるのでそれじゃあまた」
加奈は同じ兄弟でも随分雰囲気が違うなと思った。
数日後、加奈が洗濯物を干していると隣のベランダからギターの弾き語りが聞こえてきた。加奈は「物凄く、上手い」と思った。
「いいじゃん、あれは誰が歌っているんだろう、丸坊主の彼か、それともマッシュパーマの彼かな・・・」
すると歌声の主がベランダから加奈をちらりと見た。
加奈ははっとした。長髪の超イケメンだったのだ。
「そうか、あれは3人目の兄弟ね。私、この人が一番タイプかも・・・」加奈の胸は早鐘のように高鳴った。
それから毎日、加奈はお隣さんの扉の音に敏感になった。
坊主頭の彼とマッシュパーマの彼とロングヘア―の彼、皆どこか似ていてどこか違う。
休みの朝に偶然顔を合わせた坊主頭の彼に聞いた。「お宅の兄弟って、本当によく似てますね」
すると彼は含み笑いをして言った。
「誰が一番気になりますか・・・」
「えー、気になるなんて、そんな・・・」
「よかったら今日、家に遊びに来ませんか、あいつらみんないますから」
そう言われて加奈は「ホントですか、じゃあおやつの時間に、手作りのケーキを作ってお邪魔します。」
加奈がピンポーンとチャイムを鳴らすと坊主頭の彼が迎えてくれた。
「今日はみなさんいるんですか・・・」
すると坊主頭の彼がニッコリ笑って言った。
「ええ、いますよ、みんなあなたを、待ってました」
「えー、本当に、私って図々しいでしょう、兄弟の家にお邪魔したりして」
「そんなことないですよ、ここに住んでいるのは僕一人だけですから」
加奈はびっくりした。
「兄弟三人で住んでるんでいるとばっかり思ってました」
すると坊主頭の彼は笑いながら答えた。
「実は僕、ウィッグの専門店の開発部員なんです。ほらあそこに置いてるでしょう。マッシュパーマとロングヘアー」
加奈はあっけにとられていた。
「えー、ウィッグなの・・・」
「そう、見事に騙されたましたね。分からなかったでしょう」
「信じられない、嫌な人だわ、言ってくれたら良かったのに」
加奈は騙されたことを一瞬腹立たしく思ったが、とにかくイケメンの彼に惹かれている自分に驚いていた。
「加奈さん、うちのウィッグいいでしょう。加奈さんも試してみたらきっと新しい自分に出会えますよ」
加奈は、隣のイケメンが3つの顔を持っていたことに興奮していた。
その日の加奈の日記には「私は三人の内の誰と恋をするんだろう、楽しみだわー」と、書かれていた。
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