「ブルーローズは眠らない」について

罤26回鮎川哲也賞を受賞した「ジェリーフィッシュは眠らない」に続く,マリア・ソールズベリーと九条蓮のコンビを探偵役に据える本格ミステリの罤2弾。前作は,ジェリーフィッシュと呼ばれる小型飛行船の中で起こる「そして誰もいなくなった」や「十角館の殺人」タイプのミステリだった。今作は,密室殺人。それも青いバラを栽培する温室の中で,首だけの死体と,明らかに他者に縛られた人物が閉じ込められた密室。犯人は,一体なぜ,このような密室を作ったのか。この謎に見事に論理的な解決が付けられる。本格ミステリ好きには必読の逸品

 この魅力的な密室殺人事件に文字どおり花を添えるのが,タイトルにもなっている「ブルーローズ」=青いバラである。現実世界では2004年に,遺伝子組み換え技術により誕生した青いバラだが,「ブルーローズは眠らない」の世界では1983年に,ロビン・クリーヴランド牧師と,フランキー・テニエル博士が相次いで青いバラを作り出したと公表する。この青いバラが,この作品において重要な役割を果たす。

 小説の構成としては,プロトタイプと称する章とブルーローズと称する章が交互に描かれる。マリアと九条蓮が,青いバラを作り出した二人に出会い,密室殺人事件の捜査をするのはブルーローズのパート。プロトタイプのパートでは,エリックという少年がテニエル一家に出会い,短い期間ではあるが幸せな時を過ごし,そして,凄惨な殺人事件に巻き込まれる。

 この2つのパートがどのように交錯するのかもポイントの一つ。もちろん,読み進めるうちに感じる違和感が,少しずつ大きくなる。これもまた,「ブルーローズは眠らない」で描かれる謎の一つである。

 破天荒さはないものの,本格ミステリ好きにはたまらない良作である。意外性も十分。欲をいえば,あともう少し驚きが欲しかったところではある。ある程度,ミステリを読み慣れていると,想定できる範囲内の真相ではある。とはいえ,魅力的な密室トリック,プロトタイプの章とブルーローズの章で描かれる仕掛け,そして・・・が・・・であるという意外性。十分いや十二分に本格ミステリの良さを堪能できる作品です。

 最後に,この作品のカギになるセリフの一つ。九条漣のこのセリフで締めます。

「解っています。少なくとも一点,大きな食い違いがあることは―日記の『パパ』は,テニエル博士とは明らかに別人です。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?