10月の推奨香木は、上品な優しさが好ましい〝蛮らしくない?″真南蛮♬


「六国列香」あるいは「六国五味」という概念について様々な機会に申し上げて来たことの中に、「実際には国ではなく国である」ということがあります。
すなわち「伽羅・羅国はベトナム、真那賀・真南蛮はタイ、佐曾羅・寸門陀羅はインドネシアで見つかるというのが、事実に基づく正しい見識である」という見解です。
(六国の列はいずれも当て字であり、真那賀・真南蛮・寸門陀羅については様々な表記が存在します)
(また御家流系統では佐曾羅にインド産の白檀や産地不詳の赤栴檀を、寸門陀羅にはインドネシア産の黄熟香を用いる例が見受けられます)

そのような見解に基づいて、香雅堂では以下の香木は全く扱わず、もちろん推奨香木にも一切採り挙げることはありませんでした。
・伽羅系の羅国、すなわち伽羅で代用する羅国
・伽羅系の真那賀、すなわち伽羅で代用する真那賀
・志野流で用いられる沈香の佐曾羅で代用する真南蛮

六国の列(すなわち木所)の特徴を具える香木は年を経るごとに稀少となり、香道での使用に耐えるだけの品質を持つ香木が新たに発見されることは極めて稀で、従って、販売できるものが無くなって来ているという事情が、ひいては「六国の聞き分けが困難になっている」という、聞香なさる立場の皆様方から混乱の声が聞こえる状況を招いていると感じています。

木所の特徴を具える香木がますます稀少となる中、香雅堂は、まだまだ上質な香木を…多量にとは言えませんが、少量ながら…大切に残しており、可能な限り愛好者の皆様に分木して参りたいと考えています。

木所を推察しづらい「顔」をしています

さて本題に入りますが…10月は、珍しく樹脂化の度合いが少なく沈香らしさが希薄なタイプの香木を紹介したいと思います。

挽いた断面です
断面を拡大してみました

写真からわかるように樹脂化の密度が低く、元の沈香樹だった組織が比較的に多く残っているため、とても軽く、香気も強力ではありません。
特筆すべきは、樹脂化しなかった沈香樹の組織が多く残っているにも拘わらず、加熱しても、ほとんど雑味が感じられないことです。
残念ながら産地や輸入年代を記した資料は無いのですが、恐らくかなり永い歳月を経ているのでは?と感じさせます。

立ち始めに特有と思える曲(くせ)を出すため真南蛮と判断していますが、中ほどから火末にかけては真那賀かと思わせる上品な芳香を仄かに放ち続けます(もちろん真南蛮らしい「鹹」も…)。
そんな、どことなくたおやかな印象を与えてくれることから、以下の証歌から「仮銘 撫子」と付銘しました。

薄く濃く垣(かきほ)に匂ふ撫子の花の色にぞ露も置きける  
                            (藤原経衡)

樹脂化の度合いを勘案したお徳用価格を設定する上、軽いので同じ重量でもたくさんお使いいただけます。
組香にお使いいただき易いタイプの真南蛮としても、ぜひご愛用のほど、推奨申し上げます。

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