3月の推奨香木は「刺激的な香気+爽やかな『酸』を聞ける寸門陀羅」♪
このほど長い間途絶えていた聞香会の復活がいよいよ実現する運びとなり、とても楽しみにしています。
先日(19日)羅国の回の申し込み受付が行なわれた際、たまたまオフィスのパソコンの近くに居たところ、あれよあれよと言う間に満席となり、驚きました。
もちろん嬉しかったのですが、「慣れないパソコンで一生懸命に申し込み手続きを行なったけれど間に合わなかった」という方々のお声を聞くと、本当に申し訳なく思った次第です。
そこで、社長はなるべく近い将来に次の機会を企画せねばと考えているようですので、その折にはどうぞご検討下さいます様お願い申し上げます。
さて3月の推奨香木は、「沈の寸門陀羅」から選定することになりました。
この木所の特徴は、なんと言っても独特の香気…味と言うよりは刺激と言いたくなるような…五味に当てはまらないスーッとした何かが鼻腔から脳天に突き抜けて行くような…が味わえることで、その感覚を伴う「酸」が寸門陀羅の「匂いの筋」と言えると思っています。
寸門陀羅は佐曾羅と同じくインドネシアから産出し、幾つかのタイプに分けられます。
外見上からは黒系(黒または黒褐色)及び赤茶系に大別できます。
(一般的には黒系が大半を占め、赤茶系はかなり稀な存在です)
黒系には比較的にマイルドな立ち方をするものが多く、例えば『仮銘 春ゆく水』の場合、まさに水ぬるむ春の小川のような穏やかな香気が立ち始めから一貫して感じられます。
もちろん寸門陀羅に共通する「匂いの筋」はしっかりと通っているのですが、爽やかな刺激が目立ちすぎることなく、柔らかな「酸」も「辛」も少々の「甘」も調和をとって漂っている感じです。
(外見上は典型的な黒系である『仮銘 空の通ひ路』の場合は華やかさと穏やかさとを併せ持っており、とても珍しいタイプと言えます)
一方で赤茶系はスーッとする刺激が強く出ることが多く、大抵の場合、外見上の色味などに加えて常温での香気からも寸門陀羅と判断できてしまいます。
『仮銘 うすき衣』も、そのような立ち方が特徴的な一例と言えます。
3月の推奨香木に選んだのは、どちらかと言えば赤茶系でありながら『仮銘 うすき衣』ほど典型的では無く、むしろ黒系との中間的な立ち方をする珍しい寸門陀羅です。
裏側も撮影してみました。
『仮銘 あをば』(沈の佐曾羅)(下の写真)と比べると、同じくインドネシアから産出した香木でありながら、外見の様子が全く異なることがお分かりいただけるかと思います。
香気の内容も、同じ産地なのに微妙に「酸」の感じられ方に違いが見受けられ、とても興味深いです。
輪切りに挽いた断面を見ると、管状組織(篩管)がかなり高密度に樹脂化を遂げている様子がわかります。
もちろん樹脂化が浅い部分も混じっていますが、「匂いの筋」が変わることはありません。
他の寸門陀羅と同様に鼻腔から脳天に抜けるような刺激的な香気を特徴としながらも、どこか穏やかで温かい空気に包まれるような立ち方が面白く感じられ、次の証歌から『仮銘 ゆふすずみ』と名付けました。
茂りあふ桜がしたのゆふすずみ春はうかりし風ぞまたるる
(花山院長親)(新葉和歌集)
涼やかな風が立つのを待ちつつ、時には爽やかに葉がそよぐのを愛でる…
そんな夏の風情をイメージしながら聞香するひとときをお愉しみ下さいます様、『仮銘 ゆふすずみ』を推奨申し上げます。