三月の聞香会(羅国)を終えて…
数年ぶりに開催できた聞香会は、二つの点で以前とは大きく様変わりしました。
一つ目は、聞香炉に替えて電子香炉 kioka を使用したこと、
二つ目は、社長の助けを借りずに独りで担当したこと、でした。
再開までに長い空白期間が生じてしまった要因は、「 聞香炉による最適な火加減の設定が、とても大変な作業である」ということに尽きます。
炷き出す香木にとって最適な温度に加熱することは聞香の基本ではありますが、それはまた永遠の課題とも言えるほどに困難なことで、聞香炉を担当するには想像以上に気力・体力を必要とするため、開催するには相応の環境が調う必要があったのです。
でも、kioka を活用することによって、温度設定は無段階で調整することが可能となり、また、設定した温度を一定時間に亘って維持することも容易となりました。
聞香会のような機会には、電子香炉はまさにうってつけの道具と言えます。
そして聞香炉の準備が必要では無くなったことに伴って、独りでゆっくりと担当させて戴けるようにもなったのでした。
当日のメニューは、次の通りでした。
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三月の聞香会~香木三昧のつどい~
「さまざまな羅国を聞き比べる」メニュー
一. 伽羅(仮銘 波路の舟、ベトナム産)
二. 羅国(仮銘 神路山、伽羅立ち、ベトナム産)
三. 羅国(仮銘 雪間の草、ベトナム産)
四. 羅国(仮銘 春吹風、ベトナム産)
五. 羅国(仮銘 遠の霞、伽羅立ち、ベトナム産)
六. 羅国(仮銘 ふるき梢、ベトナム産)
日時 令和三年三月三十一日
午前十時~十二時、午後二時~四時
場所 麻布香雅堂守拙庵
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(注:「仮銘 波路の舟」は羅国あるいは真那賀として流用されがちな伽羅の
一例として、比較・参照の為に炷き出したものです)
2時間の会を午前・午後と2回に亘って担当させていただきましたが、ご参加の皆さまから終了時には拍手を頂戴する等お喜びいただき、更には次のような有り難いお便りまで頂戴して、疲れも吹き飛ぶ心地です。
++++++++++++++++++++++++++++++++++これまで数種の羅国をじっくりと聞いたことはなく、羅国について深く考えたこともなかったので、本日はとても貴重な経験をさせて頂きました。
私自身、最上質の香りを持つものが伽羅で、それ以外のものが羅国や真那賀になるのだと『香木三昧』を読むまでは漠然と捉えていました。
でも、そのように考えると、伽羅以外のお香木は価値が劣ることになってしまいます。
伽羅には伽羅の、沈香には沈香の、それぞれの特徴と良さがあることを本日改めて感じることが出来ました。
香木の断面図の写真は興味深かったです。加熱すると樹脂分が実際に泡立つのですね。
細片にする前のお香木の姿を拝見し、心静かに香と向き合うことで、そのお香木が経てきた時間に思いを馳せることが出来ました。
どれだけの時間をかけ、どのように樹脂化し、どのように発見されたのか――そして今、香木として自分の目の前にあることを奇跡のように感じ、香木に対して畏敬の念さえ覚えました。
男と女とか、日本人とアメリカ人とか、人間もさまざまに分類されますが、こうした単純な分類には当てはまらない人もいますし、日本人であれば、すべてが同じ性質を持っているわけではありません。
お香木も六国という枠に無理に当てはめるのではなく、お香木が持つ多様性と奥深さを、そのまま受け止めて楽しめばいいのかな、と様々な羅国を聞きながら思いました。
人間も一つの性質しか持たない人はおらず、明暗善悪いろいろな要素を併せ持ち、それが人の内面を豊かに面白くしていると思います。
香木も同じで、樹脂の詰まったところがあったり、それほどでもないところがあったり、一度は樹脂化しながらも、その後朽ちてしまったところがあったり、と四方盆に乗るほどの香木の塊の中に様々なドラマが秘められていることを感じ、今後はそんなドラマにも耳を傾けながら、お香を聞いてみたいと思いました。
組香をしていると、どうしても聞き当てることにばかり注力してしまいますが、もっと別な香木との関わり方があることを教えて頂きました。
カタールの王様のお香、中国の電子香炉、と珍しく楽しい「おまけ」もありがとうございました。
また4月4日の午後にお伺いできることを楽しみにしております。
本日は本当に幸せで豊かな気持ちになれる時間をありがとうございました。
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なお、当日にご参加いただけなかった皆さまに追体験して戴けるようにと、炷き出した香木6種を僅かずつ(各2炷分)ですが分木できるよう準備しました。
樹脂分が豊富な優良部分を一粒ずつ厳選して選別しましたので、ぜひお求め下さいます様お奨め申し上げます。