メルヘンの神様と温泉の神様。
福島県いわき市にきております。
絵本作家なのに不足しているメルヘンを、「メルヘン屋」で手に入れるためです。
しかし「メルヘン屋」にあったものは、婦人服、肌着、日用品……。
メルヘンの神様はそう簡単にはメルヘンを与えてくれませんでした。
これも修行。
メルヘン屋で手に入れた、わずかばかりのメルヘンをポケットにしのばせ、旅はつづきます。
とってもカオスな「メルヘン屋 」を出たのち、次に向かったのは「メルヘン屋 湯本店」。
先ほどの店舗に比べると、コンパクトで、すっきり整然としています。
うーんメルヘン屋らしさがあんまりないなぁ、と、にわかメルヘン屋ファンながらに思ってしまいます。
あの婦人服の迷宮が懐かしい。ファンシーな日用品の渦に巻き込まれたい。
とはいえ、併設のスーパーで福島の地酒を買ったりして、ちゃっかりエンジョイ。
今宵の宿は、いわき湯本温泉郷にとりました。
いわき湯本温泉は、1600年以上の歴史を持ち、有馬温泉、道後温泉と並んで日本三古泉に選ばれている温泉なんですって。
湯量は、世界でも屈指の毎分5トン!
良い温泉にめぐまれるよう、湯本駅の近くにある「温泉神社」にご挨拶にうかがいます。
階段をのぼって境内に足を踏み入れると、空気がすーっと変わりました。
凛。
ときは紅葉シーズン。もみじの形をした絵馬がぶらさがっています。
粋なことをしなさる。
時節柄、手水はお休み。
かわりに手を清めるところが小さい泉なんですが、それがなんと温泉。
温かくなった手をあわせ祈ります。
「良い温泉に入れますように。温泉の神様、どうぞよろしくお願いします」
温泉神社のまわりをちょっと散策。
「童謡館」という名の素敵な建物がありました。
メルヘンの一筋の希望を見出しますが、あいにくの休館。メルヘンならず。
「シャボン玉」や「七つの子」などで知られる、詩人野口雨情の資料館だそうです。
その近くにあったのが、公衆浴場「さはこの湯」。
ここは、温泉の神様のご自宅なんじゃなかろうか。
神様の内湯。
300円で入浴できるなんて、神様、ふとっぱら。
陽も傾いてきたので、ぼちぼち宿にむかうとしましょう。
旅館「住乃江」につくと、ロビーでは赤べこが出迎えてくれました。
たぬきも。
接客をしてくれるのは、着物を着た女将さん、ではなく、フリースを着たお兄さん。
ひとりでフロントを切り盛りするこのお兄さんが、とにかく親切で、接客が細やかなんです。
お風呂は小さいんですけどねぇ……と恐縮しながらも、「お湯には自信があります!」。
それは楽しみ。
お部屋に荷物を置いて、さっそくお風呂へ。
脱衣所で、私はすでに感動しました。
けっして広くも新しくもないのですが、清潔で、快適にすごせるよう、こまごまと工夫がされています。
しかも置いてあるアメニティが、無印良品のメイク落とし、化粧水、乳液。
それもちょっと高級ラインの。
あのお兄さんが買ってきて置いたのでしょうか。
お風呂も大きくはありませんが、お兄さんの言うとおり、ねっとりぬるぬるの、とっても良いお湯。
掛け流しで、湯加減もちょうどよく、メルヘン屋を長時間物色した疲れが癒やされていきます。
温泉神社で手をあわせて祈った願いが、早くも叶いました。
あのお兄さん、もしかして温泉の神様なのでは。
さっきの立派な自宅にあきてしまい、こっちで小さいお湯の番をしているのかも。
最近の神様は、意外とフリース着て無印に買い物にいっているのかもしれません。
はぁ〜、さっぱりして、お肌はしっとり。
こりゃあ、いいところに来ましたよ。
温泉の神様、ありがとう。
ここまでいざなってくれたメルヘンの神様にも、感謝です。
(つづく)