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スピンオフ講義#2フットボールビジネスと非代替性トークン‐機会・リスク・可能性-

こんにちは!2回目の執筆になります塾生の粕谷です。

スピンオフ講義も2回目を迎えたのですが、今国内外のフットボールで話題になっている「非代替性トークン(NFT)・ファントークン」という2回目にしてかなりホットかつヘビーなテーマが議題となりました。

私自身FiNANCiEでトークンを買ってみたりと、手を出してはみたのですが、正直よくわかっていませんでした、、、。
今回の講義ではメリットはもちろん、新しい市場だからこその危うさまで理解できる2時間でした。

講師はSTVVで実際にトークンの発行にかかわっていた元STVVの飯塚さん。
そしてスペシャル講師にTMI総合法律事務所でスポーツを専門としてご活躍されている長島先生。このお二人に現場の観点や法律的観点からご解説いただきます。

1.スポーツ界におけるNFT&ファントークンの動き

まずこのNFT&ファントークン、どれだけのクラブが導入しているのでしょうか?

現在活発なのは海外クラブです。FCバルセロナやメッシの給与の一部をトークンで発行すると話題のPSG、セリエAのユベントスも導入しています。またフットボールクラブにかかわらずNBAやMLBといったリーグとして取り組むスポーツも出てきています。

日本でもJクラブでは湘南ベルマーレやY.S.C.C.横浜が、地域リーグのクラブでもSHIBUYA CITY FCや南葛SCがFiNANCiEというプラットフォームで運用しています。特にY.S.C.C.横浜はプライマリーマーケット(1次流通)の段階で4947万円の売り上げがあったと話題になりました。Y.S.C.C.横浜の2020年度スポンサー収入が7300万円であることを考えてもトークンの可能性の大きさを伺うことができます。

※FiNANCiEの場合トークンの売り上げだけでなく、その後のトークンの売買で発生する手数料もクラブの収入となるため継続的な売り上げが見込めます。

では、NFTやファントークンは実際にどういう使われ方をしているのか。トークン購入者を対象にした投票企画の参加券や選手との特別体験など提供するといったファンエンゲージメントを強化できる特典をリターンとしたり、トレーディングカードの所有権の販売などがあります。

またその中には独特なものもあり、過去の優勝時の秘蔵写真をデジタルトレーディングカードとして発行したり(PSV)、チケットをNFT化し販売するチーム(ディナモ・キエフ)まであります。アスリート個人が自身の肖像権を利用してNFTを販売するまでなっています。

現在どれだけの市場になっているかというと…

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バルセロナが全トークンを発行した場合の時価総額が$6374万、そのうち流通しているトークン総額が$461万となっています。
正直想像がつきません…しかし金額からNFTへの注目度の高さが伺えます。

2.NFTとファントークンの違い

ここまでNFT、ファントークンと使ってきましたがそもそもこれらはどういったもので、両者の違いは何なのでしょうか?
まずは用語の定義から見ていきます。

用語の定義
NFT(Non-Fungible Token)

Non-Fungible=代替不可能な
Token=象徴、証拠、標章、真正性(権威、権利、特権など)を示すもの
ブロックチェーン上で発行される非代替的デジタルトークン

FT(Fungible Token)

Fungible=代替可能な
Token=象徴、証拠、標章、真正性(権威、権利、特権など)を示すもの

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上記のように定義されています。両者ともブロックチェーンを用いた技術ですが同じトークンが存在する/しないという大きな違いがあります。
NFTの話題では仮想通貨やブロックチェーンなどの用語が出てくるためトークン=通貨のように感じますが、トークンはあくまでデジタルデータの総称と捉えるのがいいかと思います。わかりにくいですね…

NFTはその名の通り代替不可能なため同じトークンは存在しません。なので手に入れたトークンは唯一無二のものです。この性質を利用してデジタルアートやトレーディングカードなどを扱う際にNFTは利用されます。

一方、FTは代替可能であるため同じトークンが存在します。そのため通貨やポイントなどを扱う際に利用されます。仮想通貨もFTに分類され、ファントークンも現状ではFTに該当します。

なぜファントークンはFTかというと現状どのトークンを持っているかにあまり価値がなく、どれだけトークンを持っているかが重要になっているからです。実際にFiNANCiEでもトークン所持数に応じた特典が用意されています。

では、このNFTが誕生して何ができるようになったのか。それはデジタルなものに対しても唯一無二の価値が与えられるようになったことだと長島先生はお話していました。NFTの誕生によりデジタルなものをリアルなものと同じように所有できるようになったのです。

ここまで、かなり混沌としてきたのでNFT&ファントークンについてここまでを少しまとめてみます。

NFT
・代替不可能なトークン。つまり同じトークンが存在しない。
・ブロックチェーンを利用した仕組みであり、専用のプラットフォームで売買される。
・購入者が得られるものはデジタルトークンの所有権(≠著作権、肖像権)
・対象は画像や映像、トレカなど。
ファントークン
・代替可能なトークン。つまり同じトークンが存在する(FT)
・ブロックチェーンを利用した仕組みであり、専用のプラットフォームで売買される。
・購入者が得られるものはデジタルトークンの所有権(≠著作権、肖像権)
・対象は投票権やイベント参加権など

肝は代替可能であるかどうか。この性質により対象になるサービスが変化します。今日本で多く取り入れられているのはファントークンであり、専用のプラットフォームはFiNANCiEになります。そのためトークン購入者の特典は投票権もしくはリアルなもの(ユニフォームなど)になっていることが理解できるかと思います。

ではこのNFTとファントークン、スポーツビジネスにおいてはどのような違いが出てくるのでしょうか。

スポーツビジネスにおける使用目的の違い
NFT
発行者:肖像・作品・データをデジタルトークン化して販売し収益を得る
購入者:デジタルデータの保有権の購入(法的な整理については議論あり)
    専用のプラットフォーム上での売買
    (プラットフォームを越えた売 買も一部可能)

ファントークン

発行者:資金調達(収益)・ファンエンゲージメントの一貫として販売する
購入者:トークンに付属する権利保有と行使(法的には譲渡自由な債権?)
    トークンに付属する特典の享受
    専用のプラットフォーム上での売買
    (海外ではプラットフォームを越えた売買も一部可能)

NFT、ファントークンともにこのように書くととてもわかりやすいものに感じるのですが、法的な整理には議論ありと記載した通り、両者ともに注意するべき点があるとお二人は話します。

まずNFTについて2点。
1点目はそもそもNFTは何を販売しているのかという問題です。
ここまでNFTで扱うものはデジタルの肖像や作品と言ってきました。NFTの誕生によりデジタルなものをリアルなものと同じように所有できるようになったと。

しかし、ここに法律とのギャップが存在します。それはデジタルなものは所有権でなく著作権で保護されるということです。そしてNFTの売買では著作権は譲渡されません。
これの何が問題かというと…例えば以下のような事例が発生します。

あるクラブがリーグ優勝した瞬間の映像をNFTで販売します。このトークンを購入したファンはそのリーグ優勝映像を好きに使えるかというと…そうではないのです!NFTでは著作権は移らないため、あくまで映像(デジタルデータ)の著作権を持っているのはクラブ。つまり映像を好きに使う権利は法的にはクラブにあることになります。

そのためトークン購入者は映像を(SNSにアップするなど)好きに使うことができるわけでもなく、もちろん映像が使用されることによる使用料等をもらえるわけでもありません。現状購入者ができることは

・スマホの中の映像を個人的に楽しむ。
・このレア映像を所有しているのは自分だという所有欲を満たす。
・トークンの価値が高騰したら売り、利益を得る

くらいになってしまいます…。このトークンに本当に価値があるのか疑問に思えてきますね。
長島先生も、

「NFTの所有により法的に何を保有しているのかは不明確であるが、事実として盛り上がっている。現状では仮想通貨を持っているユーザが仮想通貨での投機を目的として盛り上がりをみせている側面もあるのではないか」

とお話していました。

2点目は著作権や肖像権の帰属先です。
著作権と肖像権をクリアしないと法的にはNFTを発行できません。しかしスポーツは権利が分散しているため整理が難しいのです。

試合映像でNFTを発行→リーグに権利
練習の写真や動画で発行→クラブに権利?
選手がプライべート写真でNFTを発行→選手個人に権利?

このように同じ選手が映っていたとしても、シーンによって権利の帰属先が変化してしまいます。

またNFTにより選手のプライベートまでマネタイズできるようになりましたが、そこで発生した収益が本当に選手個人だけのものなのか。〇〇所属の××だから需要があるのであり、クラブに関係があるのではないか。など権利関係の整理はかなり複雑なものになっています。

一方ファントークンについてはプラットフォームでどれだけ整理されているかに注意する必要があります。

まずファントークンの発行の仕組みは株式の発行に置き換えて考えるとわかりやすいかもしれません。
株式の場合、発行可能株式総数が決まっておりそれが公開されています。その中で時価が決まっていく仕組みです。欧州の主流プラットフォームであるSociosはこの発行総数がクラブごとに決まっており、日本のFiNANCiEでは全オーナー共通で4000万トークンとなっています。

この上限が公開されていないと現在流通しているトークンが実は総数の1000万分の1しか発行されていないもので、のちのち価値が暴落するという先行者が不利益を被ってしまうという事態を起こしかねません。

株式に似てはいるものの、通常の金融ルールの外で動いているが故のリスクを考える必要があるのです。

3.法的解釈等

ここからは法律での解釈や企業会計上で扱い方、SociosとFiNANCiEの違いについて説明します。

①金融規制の対象?
こちらについては下図を見てもらうのがわかりやすいです。

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現状、NFT&ファントークンで利益の分配はなく、決済手段等の経済的機能を有していないため両者は金融規制の対象になる可能性は低いと考えられます。しかし、ファントークンでスタジアムで買い物ができたり、グッズが購入できるなどポイントに近くなってくると規制対象になりうる可能性が出てきます。

またNFTやファントークンはマネーロンダリングに使われる可能性もあり、マネロンに利用されるとなると金融規制の対象なる可能性が出てきます。クラブが知らぬ間に加担しないためにも本人確認ができるかなどといった点も注意する必要ができてきます。

②金融規制の対象の場合、企業会計上の影響は?
今は規制対象ではないNFT&ファントークンですが、対象になるとどのような影響がでるのでしょうか?

現状ではトークンの売上はPLに計上することができます。そのままキャッシュとして売上になるわけです。しかし、金融規制対象となるとBSに記載することになります。またプラットフォーマーが倒産した場合に所有者に返金する義務が発生するため、準備金を用意しておく必要もあるのです。

キャッシュ事情が苦しいフットボールクラブにおいてこの準備金を用意する必要が出てくるとかなり扱いづらいものになってしまうと考えられます。

③SociosとFiNANCiEの違いは?
SociosもFiNANCiEのもトークンが売買できるプラットフォームですが中身は大きく違います。

Sociosの仕組みは、まずChilizというという仮想通貨を購入しChilizでトークンを購入する。という流れです。Sociosのマーケットで購入したトークンはBinanceでも売買できますし、Chiliz自体もBinanceでやり取りできるため、トークンのセカンダリーマーケットがSociosだけでなく複数あることになります。そのためフットボールファンだけでなく、仮想通貨マーケットにいるすべての人が対象になるわけです。また、もしSociosが倒産したとしても手元に残ったトークンは売買できる環境になっています。

一方、FiNANCiEはFiNANCiE内で購入したFiNANCiEポイントでトークンの売買を行います。そのためSociosとは違いマーケットはFiNANCiE内のみです。そうなると、たまたまトークンを見かけるという可能性は少なく、購入する人のほとんどがクラブに大きな関心がある人であると想定できます。事実FiNANCiEはオーナーを応援する仕組みと謳っています。またFiNANCiEが倒産してしまえば、トークンの価値はゼロになってしまう危険があります。

なぜ日本のクラブはSociosをやらないのかと思ってしまいますが、Sociosは暗号資産を扱うため暗号資産交換業の申請が必要などハードルが高いのも事実としてあります。

4.メリットとリスク

ここまでNFT&ファントークンの性質や違いを見てきましたが、結局どんなメリットがありリスクが存在するのでしょうか?

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まずメリットは以下のようなものが挙げられます。

・短期的&新規売り上げの確保
・売買継続による手数料収入
・新規ファン層の開拓と獲得
・簿外資産価値の可視化と換金
・非試合日の売上

特に簿外資産価値の可視化と換金はNFT&ファントークンにより数値化できた部分です。これまでファンベースや選手の市場価値(移籍市場といったプレーヤーの価値以外)は目に見えないものでしたが、目に見えない資産価値を可視化しデジタル上で換金できるようになりました。基本的にはフットボールを中心にキャッシュを生み出す、という制約に近いものがあるフットボールクラブにとっては新たな収入源が生まれたわけですからとても大きな変化と言えます。

一方で当然リスクも存在します。むしろ講義内で議論が盛り上がったのはリスクに関してでした。

・金融規制の対象となるリスク
(暗号資産交換事業者登録が必要?)
・レピュテーションリスク
・イグジット方法の相違
・インサイダー取引等の不公正取引
・システム・倒産・契約解除による無価値化
・追加発行可能?
・トークン保有者に対する保有メリットの提供が事実上止められない?

特に盛り上がったのがインサイダー等の不公正取引についてです。

クラブが発行するトークンは勝敗や移籍での変動が考えられます。事実メッシの移籍によりPSGのトークンが上がりました。この性質上、移籍情報を持ったクラブ関係者が市場に参入できる状態であると大きく公平性が失われることとなります。

実際にSTVVでトークンを発行している飯塚さんがおっしゃるには、Sociosの規約上スタッフや選手といった関係者は購入できないことは明示的でなはないそうですが、法的な罰則などが存在しないためそれこそ無法地帯といえるかもしれません。

またトークン保有者に対する保有メリットの提供が事実上止められない側面があるのではないかと、コメント含め盛り上がりました。

トークンを発行してしまえば保有者の権利は発生し続けますし、リターンを用意し続けられないからといってトークンを廃止することもできません。まさしく一度手を出すとやめることのできない禁断の果実なのです。

と言いつつも現状ではトークン保持者に対しサービスを提供し続ける責任があるわけではないため、モラルの問題ともいえます。しかしファンというクラブにとって一番のステークホルダーに対してどう向き合っていくかは常に考える必要があります。

5.まとめ

ここまでNFT&ファントークンについての今回の講義をまとめてきましたが、結局のところ収益部門が少ないフットボールクラブの新しい収益モデルの一つになる、かなり大きな可能性を秘めたものであると私は感じました。

ただし、美味しい話には裏があるわけで…。金融的側面を持つものであるためリスクを理解して運用する必要があり、また長島先生がお話していました通り、長期的な付き合いを覚悟して手を出さなければいけないものである。ということだと思います。

しかしあくまでフットボールクラブのサービスの一貫であることに変わりはなく、あくまで「ファンにもっとクラブを好きになってもらいたい」という目的を忘れてはいけないのではないでしょうか。

クラブや選手に時価がつき、試合の勝敗やクラブの行動で価値の変動が起こるようになることで、各行動の効果が可視化できるようになると思う。そうするとクラブや選手の行動にフィードバックされるようになるのではないだろうか。一方で整備不足なリスクもあるため扱う側のリテラシーが求められるなど諸刃の剣ですね。という山田塾長の言葉で締めくくられました。

6.最後に

今回のテーマであるNFT&ファントークンですが正直かなり重かったです。今回のnote執筆に、動画を見直しては検索し、計5日かかりました…。

もっと知りたいと思った方はぜひ長島先生のブログも読んでみてください。もっと、ずっと、詳しく、わかりやすく書いてあります!

しかし、こんな私でもなんとか食らいついて行けたのは山田塾で事前知識を得ていたからです!成長を実感します笑。

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ご一読ありがとうございました!
(執筆:粕谷聡太)

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