スピンオフ講義#1:クラブ内非営利法人による育成普及活動とSROI〜松本山雅FCのケース〜
新型コロナウイルス感染者数が激増する危機的状況の中、TOKYO2020の激戦、そして今日から開幕した甲子園に勇気と爽快感とモチベーションをもらっている毎日です。この記事を執筆したのは8月6日。そう、サッカー日本代表戦が1968年メキシコ大会以来の銅メダルをかけて戦った日でした。
御存知の通り、残念ながら日本は惜敗。。。
メキシコ五輪代表は、53年前の自国大会で日本代表に破れたその借りを、全く同様の立場で返したわけです。こういうストーリーを理解している方は、メキシコチームの歓喜と日本代表選手の涙によりグッと来たのではないでしょうか?
記念すべきスピンオフ第一弾は松本山雅FCの事例
さて、山田塾では7月30日に記念すべきスピンオフ講義の第一弾を実施しました。
スピンオフ講義とは、
多様で最前線で活躍する塾生の皆さんが、受動的に学ぶだけでなく、日々の経験やナレッジ、悩みや課題を共有することで、発表者は業務の棚卸しと次のヒントを掴み、受講者は定例講義の内容の深い理解につなげる
ということを目的にしたものです。
今回の発表者(講師)は、特定非営利活動法人松本山雅スポーツクラブ理事長の青木雅晃さん。大学卒業後、サラリーマンを経験したあと、早稲田大学の大学院にて修士号(スポーツ科学)を取得。その後、松本山雅FCにて総務、チケット等を担当し、2019年から同法人の理事長に就任されています。アカデミックとビジネス実務の両方に通じている日本でも貴重な若手スポーツビジネスパーソンでいらっしゃいます。
そんな彼にお願いしたテーマは、
「クラブ内非営利法人による育成普及活動とSROI」。
前者のクラブ内非営利法人とは、株式会社とNPOの2頭立てによるクラブ運営を意味しており、こちらは定例勉強会「#3フットボールクラブのファイナンス:資本政策編」でバッチリ触れた部分です。
気になる方はこちらの「超濃縮版まとめnote」(by武政泰史さん)を是非ご覧ください。
要は次のような性格を持っているわけです。
4. 社団法人/NPO
いわゆる「非営利法人」と呼ばれるもので、配当やキャピタルゲインが存在しない中で、会員が会費を負担して設立する形態です。大きな資金調達は難しい一方で、利益は課税非対象ゆえ内部留保をすべて再投資に回しやすい特徴があります。それゆえ、Jリーグのクラブでは継続的に投資が必要な「育成や普及活動」を切り出して別箱として運営しているクラブが多く、そうしたケースは興行運営を担う株式会社との「ハイブリッド型」と言えます。非営利法人ということでtotoの助成金を受けられるのは資金調達面の主な特徴の一つです。
↑↑武政さんの的確すぎるまとめ文章。是非他の記述もお読み下さいm(_ _)m↑↑
後者のSROIとは、「社会的投資収益率」を意味し、「事業を金銭的価値だけじゃなく、社会的価値まで含めて評価し数値化しましょう!」というもので、近年急速に注目を集めている指標です。
詳しくは特定非営利活動法人ソーシャルバリュージャパンウェブサイトをご覧ください。
松本山雅FCでは、(株)フューチャーセッションズと連携し、巡回サッカー教室をモデル事業としてSROIを算出。その値は7.2倍(「この事業に投下されたインプット」:「事業が生み出した社会的価値を貨幣価値」の割合)となったことが既に報道されています。他分野での算出値を概観すると、1.X倍〜3.X倍という値が多く見られる現状を鑑みると、山雅の値は極めて高い部類に入ることが理解できます。
※実際の算出作業については、フューチャーセッションズ社内のプロジェクトである「Sports Social Impact Lab」が担当されています。
今回は、この2つをテーマに、「報道の裏側にある実際のマネジメントとその肌感覚」を共有してもらいました。
NPO山雅スポーツクラブの特徴
定款によれば、このNPOの目的は以下の通りとなっています。
第3条
この法人は、地域総合型スポーツクラブとして、公益性の高い安全で快適なスポ
ーツクラブを確立することを目指し、スポーツを通じて青少年の健全育成と幅広い 年代の人がスポーツを楽しむことが出来る事業を行い、地域におけるスポーツ文化 の発展に寄与するとともに、行政、企業、その他団体と連携しながら豊かな地域社 会作りとプロスポーツチームを支援することを目的とする。
ファイナンス的側面から解釈すれば、先述の武政さんによるまとめnoteにあるように、「スポーツ指導活動が特定非営利活動に該当するが故に利益が非課税になる」というメリットを活用できます。
また、toto助成金の受け皿になることもできるため、各種スクールやアカデミーの運営、施設等の建設に活用しているクラブが多いという特徴があります(例:セレッソ大阪:セレッソ大阪スポーツクラブ、浦和レッズ:レッズランド、湘南ベルマーレ:湘南ベルマーレスポーツクラブなど)。
こうした中、山雅スポーツクラブの特徴を示すのが下記のスライドです。
レディース、U-12、スクール、各種クラブがNPO内にある一方で、U-18とU-15 は(株)松本山雅にあることがわかります。
このファイナンス的意味を一瞬で指摘したのが我らが山田塾長と講師を務めるデロイトの里崎さん。一般的にコストセンターであるU-18、U-15を株式会社に組み入れることの意味、皆さんにお分かりになりますでしょうか?
「う〜〜〜〜ん、全然わかんない!」
というあなた、今こそ山田塾に入会すべきです‼(本気と書いてマジと読む派)
SROIの算出:巡回サッカー教室
こちらはSROI値を実際に算出した「Sports Social Impact Lab」とともに本プロジェクトに参加している青木さんから大まかな計算ロジックをご説明頂きました。
先述の通り、「この事業に投下されたインプット」:「事業が生み出した社会的価値を貨幣価値」の割合」となることから、それぞれの算出根拠をどう設定するか?がSROIのキモになるということを学びました。
例えば、インプットであればコーチの人件費、道具代、移動費用、PR予算などをどの範囲でどこまで含めるか?が重要なポイントになります。
同様に、事業が生み出した社会的価値についても、運動意欲の向上、スクール新規会員の獲得、子どもの成長実感値、労働意欲の向上や労働時間の削減などが含まれるため、(先述のリリース内にある図2を参照)
・そもそもどういう項目を計算根拠に入れるべきか?
・各項目の金額をいくらに設定するか?
この点に関する「理論的考察に基づく根拠数値の決定」もまた重要になるわけです。
これ、結構難しいお題でして、私が質問させてもらったように、
「東京オリンピックの経済効果のように、様々な数値が出る状態」
が生まれることも大いに有り得る可能性があります。
しかしながら、里崎さんご指摘の通り、
「これまで長きに渡り実施されてきたにもかかわらず、その効果が算出されてこなかった育成普及活動が数値化されることは内外のステークホルダーとのコミュニケーションに極めて重要ですし、今後多くのクラブが同様の算出を積み上げることで、より論理的な計算根拠が固まっていく」ということに繋がります。
確かにそうなることがより重要であると感じました。
また、今後はSROI算出の精度を高めつつ、Jクラブの社会的価値をより広く訴求することで、SDGs文脈での新たなスポンサーシップが活発化することも予想されます。
(例えば、川崎ブレイブサンダースではSDGsを柱とするスポンサーシップが既に走っていますが、この効果測定にSROIが使われる、という動きも増加するでしょう)
まとめ
このように、今回のスピンオフ#1では、定例勉強会の中身に即してJクラブの実際例を深堀りすることができました。
それにより、理論と実践とのつながり、それによる今後の可能性に触れられた事は「学びの腹落ち」という観点で極めて有効だったと感じています。
お忙しい中、貴重な時間を割いてノウハウを共有頂きました青木雅晃さんに改めて感謝申し上げます。青木君、ありがとう!!!!
このnoteをお読みになって、
「松本山雅のこうした活動を少しでも支援したい!!!」
と思われた方は、「育成サポート会員組織・ラズーソ」を通じて活動に参加できます。個人の方は3,000円からとなっていますので、ご希望の方は下記から詳細をご覧になられて下さいね。
さてさて、こんな学びをしている「オトナのスポーツファイナンスゼミ山田塾」、
引き続き塾生を募集しています。
・月イチ定期勉強会受講&アーカイブ視聴権:全12回(2022年4月まで)
・スピンオフ講義受講&アーカイブ視聴権
・fbグループ内での質問&情報共有&コミュニケーション
これらが全てコミコミで月額980円です。
現在、90名以上の多彩な塾生が集っています。
Jをはじめ、NPBや海外クラブ、スポーツビジネス企業に勤務されている方々、
公認会計士、税理士、弁護士、大学教員といった各分野のエキスパートが多数。
こうした皆さんとのネットワークだけでも、相当価値あるものになっております。
入塾希望の方は
①下記MOSHから手続き
②fbグループへの入会申請
この2点をよろしくお願い致しますm(_ _)m
塾生の皆さんも個人のnoteに山田塾での学びをまとめてくれています。
是非こちらも併せてお読み頂き、内容と雰囲気をお感じになられてみて下さい😊
(執筆:福田拓哉)
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