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#3フットボールクラブのファイナンス:資本政策編

こんにちは。オトナのスポーツファイナンスゼミ「山田塾」塾生の武政泰史と申します。

つい先日、今年5月から始まった山田塾の新プログラム第1回目講義の内容をnoteにまとめる機会を頂いたのですが、事前の予想をはるかに超えるリアクションがありました。読んで頂いた方々、また各種SNSでシェアをして頂いた方々、本当にありがとうございました。

さて、スポーツファイナンスゼミとして徐々に注目を浴びつつある「山田塾」ですが、今回は7月16日(金)に開催された第3回目の講義について、学んだことや感じたことを私なりにまとめていきたいと思います。

第3回講義のテーマは「資本政策」です。

私も含め、ファイナンスという学問に疎い方であれば「そもそも『資本政策』って何?」と頭に浮かんだと思うのですが、講義の冒頭、ファシリテーター役を担われていた福田拓哉さんのコメントがヒントになりました。

資本政策とは、「資金調達と意思決定(の権限)に関係する」ということ、またそれは「組織のガバナンスにも通じる内容(株式会社の議決権比率など)」だということ。

ここからは、そのようなテーマに対し豊富な事例も扱いながら大変わかりやすく説明をして下さった講師お二方の話をピックアップしながら、以下のような構成で書いていければと思います。

1.クラブの法人格の種類と特徴

前半パートの講師は、ファイナンスのプロフェッショナルとしてビジネスをリードする傍ら、プロスポーツクラブの経営にも携わる山田塾塾長の山田聡さんです。

まず山田さんは、サッカークラブにおける資本政策の肝として、「サッカークラブは誰のものなのか/何のために存在するのか」という問いについて考えることが重要であり、最終的に資本政策に絡んでくるものであると説明されました。

実際この問いは、講義の内容を学んでいく過程の所々で「あ、だからこの問いが必要なんだ!」と思わせてくれるものでした。

その問いを前提に、次に出てきた内容というのが「クラブの法人格の種類と特徴」というものでした。要するに、資本政策の中身はクラブの法人形態により大きく影響を受ける、それゆえになるべく(クラブ経営の)初期段階で押さえておくべき事項であるということです。

主な5つの法人格
1. ソシオ
2. サポーターズトラスト
3. 持株会(市民、ファン)
4. 社団法人/NPO
5. 株式会社

これら5つの法人格は「ファン/サポーターが保有する」という性質のものから、「企業が保有する」といった営利法人に近い形のものがあったりします。以下にそれぞれ少し詳しく書いていきます。

1. ソシオ
会員(ファン・サポーター)がクラブを100%保有する形態です。スペインのバルセロナやレアルマドリードが採用していることで有名ですが、株主による出資等はなく、資金面は会費と(事業活動の)内部留保のみとなっています。調達手段としては、会費の増額か会員の増加しかなく、外部から資金を引っ張るということはしにくい特徴があります。それゆえに、ある意味ビッグクラブしか採用できないような形態とも言えます。会長選により会員の中から選ばれた会長がクラブの意思決定権を持ちます。

2. サポーターズトラスト
 クラブの株式の一部(5%程度)を、サポーターが出資した信託が所有する形態です。欧州のクラブに多くみられます。株式の大部分をその他企業が持つことで大きな資本注入を可能としながらも、クラブカラーやエンブレムの変更など「クラブアイデンティティに関わる案件」に対してはサポーターが拒否権を持つケースもありえます(黄金株)。非常にバランスの取れた仕組みと言えそうです。また講義内では、欧州クラブに多くみられる理由として、クラブのアイデンティティを重要視しているという点で、クラブの成り立ちが地域にあるという欧州サッカークラブの歴史的な側面もあるのではないかという考察もなされていました。

3.持株会(市民、ファン)
 欧州のサポーターズトラストを参考に日本で普及してきている形態です。ファンクラブの延長のような位置づけで、クラブへの帰属意識を高めたりするといった導入背景がある一方で、Jクラブでは配当が起こりえないのでサポーターズトラストと比較するとサポーター側の出資目的が曖昧だと言える側面があります。また、重要事項に対する投票権は持株会として一本しか持てないため、経営者側からすると株主のコミュニケーションや管理がしやすいという特徴もあります。資金調達面では、最初の株式発行時は一時的に資金を集められるものの、中長期の継続的な資金調達には向いていないと言えそうです。

4. 社団法人/NPO
 いわゆる「非営利法人」と呼ばれるもので、配当やキャピタルゲインが存在しない中で、会員が会費を負担して設立する形態です。大きな資金調達は難しい一方で、利益は課税非対象ゆえ内部留保をすべて再投資に回しやすい特徴があります。それゆえ、Jリーグのクラブでは継続的に投資が必要な「育成や普及活動」を切り出して別箱として運営しているクラブが多く、そうしたケースは興行運営を担う株式会社との「ハイブリッド型」と言えます。非営利法人ということでtotoの助成金を受けられるのは資金調達面の主な特徴の一つです。

5. 株式会社
 いわゆる「営利法人」と呼ばれるもので、増資や借入など大きな資金調達をしやすい形態で、株主は配当や売買差益を目的に出資します(ほとんどは複数の株主が保有する形)。クラブの運営会社自体の価値を向上させていくことが一つのゴールとなります。増資をすることで大きな資金調達を可能とする一方で、株式が増えるとそれに応じて議決権の割合も大きく変化するといった特徴もあります。

また「増資」にもいくつか種類があり、仕組みがシンプルゆえ外部株主誘致がしやすい「普通株」による増資や、純粋に経済的リターンを求める投資ファンドなどに拠出される「優先株/種類株」による増資など、個々のクラブの形態や方向性によって資金調達手段も様々であるということがわかります。

実際の講義では、この5つの分類が示され説明されたのち、Vファーレン長崎と東京ヴェルディという2つのJクラブの事例が説明されました。各々詳細は割愛しますが、2つの事例共に経営危機からいかにして資金調達を行ったか、その際の資本構成の変化はどのようなものだったのかという点に着目をして取り上げられました。

2.株主構成とガバナンス

ここからは、引き続き山田さんが講師のまま、5つの法人格として説明がされた内の「株式会社」に主に焦点を当て、「株主構成とガバナンス」という内容で講義が進みました。

例えば、クラブに親会社がいるのであれば資金面でクラブの安定経営につながったり、意思決定が速いので戦略もスムーズに実行されるといったメリットがでてきます。しかしその一方で、クラブに対する親会社の影響力が大きい(議決権比率が高い)分、サポーターや地域の想いとは違う方向にクラブが進んでしまうといったリスクも出てきます。

また少数株主であっても横浜Fマリノスとシティ・フットボール・グループのようなシナジーを生み出すケースもあれば、FC町田ゼルビアやカーディフ・シティのように、クラブ名やチームカラーを巡って株主とサポーターとの摩擦が生じてしまうこともあるということです。

クラブを担保に資金を借り入れ、クラブの利益で返済をしていくLBO(レバレッジド・バイアウト)という手法を用いてサポーターから反感を買ったグレーザー氏によるマンチェスターユナイテッド買収事例も含め、山田さんは「株主とサポーターのコミュニケーションの重要性」を、実際の事例から学ぶことができるように分かりやすく説明されました。

マンチェスターユナイテッドといえば「株式上場」をしているサッカークラブの一つですが、資金調達面ではポジティブに働く一方で、オーナーにクラブを私物化されるリスクも存在するということが言えます。

そして本パートの最後には、サッカークラブの「オーナー交代」という切り口で2つの事例が紹介されました。実質的なクラブの所有者であるオーナーが交代するということは、クラブ自体とその周辺にどのような影響を与えるものなのか、新しいオーナーはそれをどのように捉える必要があるのか、そういった視点で事例を学びます。

一つ目の事例は、メルカリによる鹿島アントラーズの買収です。16憶円(PSRは0.35倍)という金額による買収後は、メルカリから小泉さんが派遣され社長に就任しています。メルカリは買収以前から大口スポンサーとしてクラブを支援したり、積極的にサポーターとの交流を深める等の姿勢を示してきました。それらが実際の買収にどこまで影響を与えたかは計り知れませんが、少なくとも「株主とサポーターのコミュニケーションの重要性」という観点から、クラブサポーターとの「距離感」を縮めていたことは確かと言えそうです。

二つ目の事例は、DMMグループによるシント=トロイデンVVの買収です。この買収の裏には、当初売却することにネガティブだった前クラブオーナーとの信頼を獲得していく長い道のりがあったとのこと。それゆえに、買収においてDMM側がそのビジョンの一つとして設定したのが「地元のサポーター・チーム関係者への還元」という項目でした。

上述したFC町田ゼルビアやカーディフ・シティの事例と同様に、この2つのオーナー交代の事例からも、山田さんが講義冒頭で話をされたサッカークラブにおける資本政策の肝「サッカークラブは誰のものなのか/何のために存在するのか」という問いについて考えさせられるのではないでしょうか。

3.ブンデスリーガの資本政策「50+1%ルール」

前半パートの山田さんの話を受けて、ここからは後半パートに移ります。講師は、デロイトトーマツFAスポーツビジネスグループSVPの里崎慎さんです。

前半パートでは、法人格や資金調達方法など「資本政策」といっても色々な形があることがわかってきました。そこで、主に後半パートでは、発足時から日本のJリーグがその仕組みを参考にしているドイツ・ブンデスリーガの資本政策も知ってこうということで「50+1%ルール」について学びました。

「50+1%ルール」とは、以下のような内容のドイツ独自のルールです。

「フットボールクラブがブンデスリーガの1部、2部への参加ライセンスを取得するためには、フェライン(非営利法人)が過半数以上の議決権を持っていることが条件」

このルールがなぜ生まれたのかを知る上で、まず知らなければいけないのが、「フェライン(Verein)とは何なのか?」ということです。それはいわゆる非営利法人のことで、以下の要件を満たす団体のことを指します。

1. 最低7人、同じ考えを持つ同士を集める
2. フェライン規約を作る
3. 役員をもつ
4. 設立議会を開き、その議事録をとる

昔から続く健康志向や生涯スポーツに対する意識の高さから、スポーツは「地域のスポーツクラブで行うもの」という文化が浸透しているドイツですが、スポーツクラブの運営もそのフェラインが担ってきたという歴史的背景がまずあります。

日本の社団法人に近い感じで比較的容易につくることができる団体でもあり、営利型と非営利型が存在するが、非課税対象になることもあり非営利型が多い傾向にあります。当然サッカークラブ以外のフェラインも多く存在する中で、「サッカークラブ」として登録されているフェラインの数だけでも、(少し古いデータですが)2017年時点でドイツ全土で約25,000法人も存在するとのことです。

このようにフットボールクラブも1963年にDFL(ドイツサッカーリーグ機構)が発足して以来、基本的にフェラインが運営し発展してきたのですが、リーグの発展段階に応じて外部資本の柔軟な受け入れを可能とするため、1998年にフェラインから運営会社を営利団体として切り離すことを日本のJFAにあたるDFB(ドイツサッカー連盟)が認めることになりました。

そして、そうした「規制緩和」を行う一方で、「ファンやクラブのアイデンティティ保持、競技の不可侵性の保護等」を目的に導入決定されたのが「50+1%ルール」というわけです。

地域に根付いたフェラインによるクラブ運営が生みだすアイデンティティ保持と、外部資本に対する柔軟さとの「バランスを取る」という意味においては、その内容は違えど前半パートのサポーターズトラストの黄金株のコンセプトに近い資本政策事例だと言えそうです。

そして興味深いのは、そうした(「レバークーゼン法」と呼ばれる例外規定も含めた)独自ルールに対して、DFB(ドイツサッカー連盟)とDFL(ドイツサッカーリーグ機構)の見解が異なる場合があるということです。

例えば、ルールがあると資金調達が制限されUEFA CL等の大会で他国リーグクラブに勝てなくなってきているという意見を一部のクラブやクラブ側に近い立場のDFLが持っていたりします。

そのような「どちらが正解とはっきり言えない」問いがある中で、講師の里崎さんはフェライン等の「非営利法人がクラブを運営していくことのメリットとデメリット」を以下のようにまとめて下さっています。

【メリット】
ファイナンス面:準公共財ゆえ、公官庁や地方自治体から補助金を受けやすい等
税務面:スクール事業を含む「非営利事業は非課税(法人税)」となり再投資に回せる等
その他:非営利の団体の場合、基本的に「所有という考え方がない」ので、「参加している人の頭数」で議決が行われる。資本額に関係なくフェアな設定がなされる。良くも悪くも参加者によって運営の良しあしも左右される。また多くのステークホルダーが活動に参加しやすい。
【デメリット】
ファイナンス面:利益還元を目的とした投資家からの資金調達がしにくい等
税務面:「特別な利益供与(ある特定の人にだけ何か得になるような取引)」の禁止等
その他:逆に持分という概念がないため、資本力によるガバナンスが効かない等

こうしてみると、資金調達、ガバナンスともにメリット・デメリットが存在するので、これだけで判断することは簡単ではありません。

これに関連することとして、講義内で里崎さんは「(法人形態のような)仕組みとは別に、重要だと思うのが『哲学(クラブフィロソフィー)』みたいなものとうまくマッチしないといけないと思う。」とも仰られていました。

そのとき、「あー、それって第1回目の講義でのリーグ・クラブマネジメントにおける『意思入れ』の話と同じだな」と、個人的には思いました。

そして後半パートの最後に、Jリーグによるクラブの資本構成に対するルールを、Jリーグ規約の中でも資本関係に関する規約として特に重要と考える以下3つの規約にフォーカスをし、これまでの変遷や今後の展望等も含めて説明して下さいました。

1.外資規制
(Jリーグ発足当時は外資を排除するルールになっていたこと等)
2.上場規制
(Jリーグのクラブの株主が大きく変わるときには、理事会の承認必要等)
3.クロスオーナシップ規制
(Jクラブオーナーは、他のJクラブの株式を保有できない等)

4.まとめ(講義を聴いて思ったこと)

ここまで講義で学んだ客観的事実を書いてきましたが、最後に私自身が講義を聴いて思ったこと・考えたことを手短に書き、本noteのまとめとさせて頂きます。

本講義で印象に残ったこと、勉強になったこと、細かいところを探せば本当に沢山あるのですが、あえて一つに絞るとすればそれは「いかに早い段階で、『資本政策の骨子』を中長期視点で考えることができるか」ということです。

本講義を聴く以前は、「資本政策=資金調達方法のみ」でしかイメージできず、それはクラブ経営の時間的な流れの中で「柔軟かつ容易に変化させていけるもの」だと思っていました。

ですので、資金調達の具体的な話が始まるのかと思っていた講義冒頭、なぜ法人格の種類の話がでてくるのか理解できていませんでした。

そして講義を聴き終えて、資本政策の中身はクラブの法人形態により大きく影響を受ける、いわば「資金調達や意思決定の方法を規定する『前提条件』みたいなもの」と思えたとき、以下の山田さんの講義内コメントにも大変共感した次第です。

「今まで沢山の(組織の)資本構成を見てきた中で、最初(組織を)つくった時点で、あまり資本政策のことを深く考えずに走り始めてしまう人が多い印象だが、絶対につづかないと思う。」

勿論、仕組みと組み合わされるべきクラブ組織の哲学含め、時代・状況に応じて変化させていいもの(いくべきもの)だとも思いますので、「サッカークラブは誰のものなのか/何のために存在するのか」という問いを確り踏まえながら、資本政策の全体像と細部を捉えることが大切だと、個人的に理解いたしました。

ファシリテーターの福田さんも仰ってましたが、今回の山田さん、里崎さんが講義をして下さったようなものはニュースでは中々掘り下げて扱われない内容であると同時に、物事の大枠・下地になるような重要な内容だと感じます(第1回講義まとめで書いた「意思入れ」しかり、今回の「資本政策の肝」しかり)。

「資本政策」という個々人のファイナンス知識によって理解に差がでるようなテーマに対して、それでも講義中のリアルタイムチャットやFacebookを通しての事後質問などを気軽にできること、またそれに対して講師陣や経験豊富な塾生が丁寧かつ迅速に回答してくれることが、山田塾の、オトナのスポーツファイナンスゼミとしての大きな強みだと、改めて実感した講義にもなりました。

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(恒例リアルタイムQ&Aも大変な盛り上がり。コメント総数60件以上!)

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

(執筆:武政泰史)

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