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銘柄分析⑥: 中北製作所(6496: 機械)

船舶向けを主力としたバルブメーカーで、時価総額121億円です(執筆時点)。創業家の娘婿が社長を務めており、ガッツリ一族経営です。造船市場の見通しは明るいようですが、直近は円安による原価アップと値上げが間に合っていないのか、利益率が急低下しています。


1. 割安性

まず資産面ですが、ネットキャッシュ比率は1.37で(as of 24/10/08)、サンシャイン池崎ばりに空前絶後の割安水準です。中身としては、現預金も潤沢ですが、売掛金や在庫・原材料も多いですね。詳細は分かりませんが、有価証券(債券?)も多いのは特徴的です。

24年5月期 有報

なお、固定資産の投資有価証券が約48億円もあります。主に取引先や銀行で政策保有株になりますが、直近10月8日に発表された25年5月期1Q決算で、10億円近い投資有価証券を売却して急減し、特別利益を計上しています。昨今の流れに乗り、資産効率を上げる為に手放しているのかもしれません。

なお、PER(予想)は6.8倍でまあ低いです。TVE(プラント向け中心)もそうでしたが、割安株にはバルブメーカーが結構あるのですが、軒並み低評価です。中北製作所は造船向けが主力なこともあってか、一段とディスカウントされている気もします。


2. 成長性

ビジネスモデル・市場

船用が中心(63.4%)のバルブメーカーです。発電所などプラント向けもそれなりに割合が大きいです。製品別では、自動調整弁・バタフライ弁が主力になります。

24年5月期 決算説明資料

近年、新造船需要が改善しているようで、受注が高水準で推移しています。海外でも事業展開しており、中国で19.4億円を売り上げていて約10%を占めます。客先となる造船会社は、中・韓で競争力ある企業(CSSC、韓国造船海洋など)が多いんだと思いますが、中国は急伸している一方、その他地域は減っており、地政学リスクを考えると今後が不安ではあります。

24年5月期 決算説明資料
24年5月期 決算説明資料

今後の戦略として、船舶ゼロエミッション化を見据えた水素用バルブ開発(NEDOから受注)や、IoTによるバラスト水制御システムなど、環境とDXをキーワードにしているように見えます。後者に関しては、24年6月、シンガポールのスマートシップ・ハブという会社に出資もしています。

24年5月期 決算説明資料
24年5月期 決算説明資料

なお、DX関連については、銀行出身の宮田社長(後述)の肝入りな気がします。日本海事新聞のインタビューで、エッジAIを使ったデータサイエンスで、3割以上安い中国メーカーと差別化を図ると述べています。ですが個人的には、新しいことに取組む姿勢は評価したいですが、水素もDXも大して儲からないと思います。自分の古巣も含めて、この手の話ってそこら中で聞きますが、上手く行っている話は殆ど聞かないです。産業用IoTの申し子的な存在だった、GEのPredixも消えました…

日本海事新聞 24年2月9日

さて、市場規模ですが、11年をピークに新造船建造量は下火ですが、23年は持ち直して話題になったようです。気になるのが、メーカーの国別シェアです。良く言われている通り、日本勢がシェアを落とす一方、中国・韓国勢の存在感が大きくなっています。この傾向が続けば、中北製作所には基本的にネガティブだと思います。

日本造船工業会「造船分野の競争力向上」

面白いのが、現在を底にして、今後は需要が激増することが見込まれていることです。30年代にはリーマン時のピークを越えて、そのまま高原状態が続く予測です。ただ、注意しないといけないのが、荷動きが増える分に加えて、2050年の船舶ゼロエミ化による需要増も計算に入っていて、シナリオによって山がずれたりしています。まあ、この手の話は不確実なので話半分で聞いた方が良いですが、需要が増えるのは確実視されていますね。ざっくりですが、少なくとも、今の1.5倍は行くよねといったイメージです。

日本造船工業会「造船分野の競争力向上」

業績推移・予想

業績ですが、造船需要の盛り上がりもあり、ここ2年は増収・増益傾向です。一方、造船需要のボラティリティに連動してか、それなりに振れますね。

業績推移・予想(バフェットコード)

今期25年5月期の予想ですが、増収増益を見込みます。売上が12.8%増、経常利益が8.6%、純利益に至っては先述の投資有価証券の売却益で74.4%増です。

24年5月期 決算説明資料

しかし、ここで問題発生です。10月8日に発表された1Q決算で、前年同期比+16.6%の増収ですが大幅減益の決算を発表しています。売上原価が+23.8%上昇して粗利が-10.4%、販管費が+31.5%増で営業利益は-66.2%。配当金・賃貸料など営業外収益は増えたものの、為替差損が激増して経常利益も-56.4%です。

23年5月期1Q ~ 25年5月期1Q 業績推移

全く説明が無いので推測なのですが、おそらく為替・仕入れ原価アップにやられた一方で(為替ヘッジもしていない)、売価への転換が進んでいないのだと思われます。受注から売上計上にはラグがあるはずなので、今後反映されるかもですが、仮にバーゲニングパワーがなく値上げできないとすると、かなり深刻な事態ですね。他方、販管費がここまで増えたのは謎です。販促費や営業経費が一気に増える気もしないので、物流費とかでしょうか。

経営者

そして、社長がユニークです。創業家である会長(前社長)の次女の娘婿で、メガバンク出身です。年齢はまだ40半ばですが、14年取締役なのでもう10年近く経営層を務めていますね。DXに拘っているのは、業界の異端児としての経歴も強く関係していると思われます。

日刊工業新聞

3. 資本政策

配当利回りは2.9%、配当性向は27.7%で普通といった感じですが、近年増配傾向ではあります。自己株買いは、23年7月に発行済株式総数(自己株式を除く)に対する割合1.4%で実施しています。これまた普通ですね。

総じて株主還元は悪くはないですが、キャッシュ豊富な割に良くもないという事で、定量的な目標も見つからないし、取り敢えずやっている感があります。

株主構成は、資産管理会社と思われるミヤキタコーポレーションを筆頭に、親族らしき名前がずらりと並びます。ここまで露骨に親族が株主に出てくるのはレアですが、皆さん3億円以上持ってますね笑。分散しているから相続税とか揉めないのかな、良く分かりませんが。取りあえず、アクティビストは入ってこなさそうです。

株主通信

4. 株価チャート

コロナ以降の株価です。23年以降、素直に業績を織り込んで上昇している印象です。保守的だったのか、今期のガイダンス発表時(24年7月9日)に大きく下げて、目先は先述の1Q決算でまた下げています。

株価データ(Trading View)

5. 結論:様子見

結論ですが、様子見を考えています。

正直、決め手に欠くんですよね。株主還元はしてくれてはいるけど、思い切ったメッセージ性は感じないし、IRも充実はしていません。何より若手経営者には期待したいのですが、そこまで抜本的な改革をしているように見えません。少なくとも、水素は直ぐにスケールする話ではないし、アピールしているIoTも3流コンサルが売り込んできそうな話です。

判断できる知識がないですが、造船市場の需要増はあるんだと思います。日本も安くなったので(中国は高くなった)、コスト競争力も上がってきて、より有利なポジションに立てるかもしれません。但し、船舶向けは売上の約60%なので、仮に市場が1.5倍になっても+30%になり、さらに為替と値上げ可否にも大きく影響を受けそうです。多分、受注はさらに上向いてくるのだと思いますが、実際大きく利益が上振れるかというと、自信が持てません(同じ話はTVEにも言えますが…)。

1つ、可能性としてあり得るのがM&Aや協業です。以下、今後の取組みの一番上に来ています。キャッシュが潤沢なので、何か考えているかもしれませんね。ただ、先述のシンガポールの会社に出資してIoT強化とかいったレベルでは、ほぼ意味が無いでしょう。もっと大胆な策を期待したいです。

24年5月期 決算説明資料

以上、応援したい企業ではあるし、買いたい気持ちはベースにありますが、目先は下げているし様子見で行きます。造船市場に対する確固たる見通しや、為替・値上げを上手くこなして利益率が改善すると思えるなら、直ぐ買っても良いと思います。結局、超割安なので。


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