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【小説】紅魔の時Ⅱ

2045年は、人類は劇的な変化を遂げる年になる。突如として人の心を読む力を発現する者が現れたのだ。時を同じくして、物体を触れずに動かす能力を持つ物、物質を無尽蔵に生成する力を持つ者も現れた。彼らは謎の組織に捉えられ「没」と呼ばれていた。人間らしい生活を求めて脱走を図った彼らは、組織を刺激してしまい、攻撃を受けることになる。圧倒的な近代兵器の前に殲滅させられるかに見えたが、ギリギリのところで逃走に成功したのだった。ベーシックインカムの一つとして、彼らは己の能力を研究対象として提供する代わりに、安住の地を得るが長くは続かなかった。そして次に目指したのは遥か地の果てにあるとされる「約束の地」だった。


 2045年、北の果てに住む者たちに変化が訪れた。
 突如として空に巨大なオーロラが現れ「約束の光」を浴びた者が神の力を得たのである。
「とってもきれいね」
 クリスティンは、空を仰いで両手を開いた。
「外にいられる時間はあまりないわ。
 歩きましょう」
 北の果て、極寒の地では毎日の運動をするにも命がけである。
 ショットガンレーザーで武装したサラは、クリスティンが着込んだ毛皮の分厚い服を引っ張って促した。
 フードの周りにはフカフカの毛が裏側についていて、とても暖かい。
 晴れていても、数分後には猛吹雪になることもあるため、油断はできない。
 何より、最近出没するようになった「神の力」を宿した人間に備えなければならない。
「あら、パフィンがこっちを見て笑ってるわ。
 遊ぼうって言ってるよ」
 大きなくちばしを持った愛らしい鳥たちが、コロニーから飛び出して空を滑空している。
 クリスティンがその鳥の方へ両手を広げて笑いかけていた。
 呑気に空を眺めていた彼女につられて、サラも気持ちが緩んでいた。
 その時、突然オーロラが色を鮮やかにして空から降って来るような感覚に襲われた。
 足元が回転するような眩暈めまいに襲われたサラは、両足を大きく広げて踏ん張った。
 右手を凍土に突いて、何とか踏みとどまったが体の中に衝撃がけ巡っていた。
 視線を上げると、クリスティンは天を仰いでバランスを失い、頭から地面に落ちようとしている。
 目は見開かれ、弛緩した両手が空を掴んでいた。
「ハッ」
 しゃがんで平衡へいこうを取り戻した足で凍土を踏みしめると、両手を突き出して気合いをかける。
 数か月前に体に何かが宿っていた彼女は、こうすれば力を扱えることを知っていた。
 宙を浮いたままクリスティンの体は逆に回転し、凍土に足を付いて着地したかに見えた。
 だが気を失っていた彼女の身体はガックリとうなだれ、崩れ落ちようとしている。
 サラは力をコントロールしながら彼女を宙に浮かせ、そのまま先を急いだ。

「で、これから俺たちはどうなるんだ」
 あちこちにできたり傷や火傷に、薬を塗りながら桐谷 翔太きりたに しょうたは舌打ちをした。
「すっかりお尋ね者になっちゃったわ」
 ソファに身体を沈め、足を投げ出して伸びをしたくれないあかりの表情は硬い。
 軍隊を相手に超能力を使い、散々街を破壊してしまった彼らにどんな未来が待ち受けているのか、考えただけで暗い気持ちになった。
「年寄りを、あまりこき使うなよ」
 老骨に鞭打って戦ったが力を使い果たし、少し寝込んでいた田宮 慎二たみや しんじはため息交じりに言った。
「まあ、何とかなるでしょう。
 こうして生き延びて、かくまってくれる人に出会えたのですから」
 激しい市街戦のまっただ中に始めからいた槇田 勝まきた すぐれは、傷一つ負わず穏やかに笑っていた。
 突然力が目覚め、謎の組織に連れ去られて監禁されていた彼らにとって、生き延びることが最大の望みにして目的のすべてだった。
「一応、俺たちは武装した奴らと戦って生き残ったんだ。
 それなりに価値のある兵器だぜ」
 翔太はフンと鼻を鳴らした。
「でも、元の生活には戻れないでしょう。
 私は嫌よ。
 由梨に心配かけただろうし、また一緒に虫探しをしたいわ」
「あかりさんは、お友達と一緒に仕事をしていた最中に意識を失ったのでしたね。
 さぞかし心配でしょう」
 腕組みをして目を閉じた勝は、うなって窓の外に視線を向けた。
 暗い雰囲気の4人のところへ、初老の見事な白髪をボサボサに伸ばした、それでいて目だけはギラギラと強い光を放つ白衣姿の男が降りてきた。
「さあ、余計な心配はやめて、食事にでもしようじゃないか。
 大したものはないが、培養肉や野菜ならいくらでもあるぞ。
 腹が減っては何とやらだ」
 品川 裕しながわ ゆうと名乗るこの男は、俗世にまみれることを嫌い、研究に没頭するために離島へ移り住んだのだそうである。
「で、俺たちを研究材料とする代わりに、衣食住を保証してくれるってわけか」
「まあ、そういうことだね。
 君たちにとっても悪くないだろう。
 それから、言っておくが私は新兵器開発にも関わってきた。
 これから戦いに備えるためにも、自分の力を知り、最大限に活かす方法を考えるべきだ」
 ナイフで肉を切りながら、品川博士は諭すように言うのだった。

 永久凍土の地下に造られた研究施設は、洞窟のように石壁がむき出しになっている通路で、迷路のような街の一角にあった。
 神の力を宿す者たちは、神の光の下に現れ世界を救う。
 そんな宗教染みた言い伝えがあった。
 ヨハンという初老の男は、白髪を長く伸ばし、研究者らしく外見に無頓着で気難しそうな顔をしてパソコンの前に座っていた。
 画面を流れる数字を見ていた彼は、何度かうなってあごをさすり、肘掛け椅子に手を突いて、よっこらしょと立ち上がった。
「それで、気を失ったままか。
 これでは脳波も計れないな」
 運び込まれたクリスティンは、あお向けになって目を閉じたままスースーと寝息を立てていた。
「トレーニングをした後に、異常に眠くなって気を失うように眠ると超回復することがありますが ───」
 傍らにいた男が呟くように言った。
 部屋はガランとして、LED照明の冷たい光がタイル張りの床に反射して、青白い空間を作り出している。
 開口部が少ないために暖房は最小限にしているから肌寒い。
 もちろん薪や石炭、石油などの燃料を持ち込むのも難しいし、暖炉で火を焚こうものならすぐに酸欠になってしまうのである。
「人間の肉体には、未知の部分が多い。
 単純なトレーニングだけで神の力が強くなるわけではない」
 ヨハン博士が重々しく言うと、男は軽くうなづいた。
「フィンヌルよ、君は何も感じなかったのか。
 さきほど巨大なオーロラが出たようだが」
 手の平を眺めていた男は、手のくぼみ辺りに何かを乗せているようだった。
 金属質の光沢がある物質をクルクルと回して軽く投げ上げた。
「私の力で物質を造ってみても、変化は感じ取れませんでした。
 サラも特に変わっていないようでしたし」
「うむ。
 電磁波の波長によって、影響を与える脳の部位が違うようだ。
 テレパシーを持つ者に、今回は強く影響が出たのかも知れん」
 コクリと頷いたフィンヌルは入口とは反対側のドアノブに手をかけた。
「もしかすると、宇宙に変化が起きているかもしれません。
 探ってきます」
 ギイと音を立ててドアが開き、薄暗い開口部が口を開けた。

「さあ、皆さん、将来に不安を感じるときこそ瞑想が効果的ですよ」
 勝が隣のドアを指さして言った。
「なんだそりゃ、スピリチュアルのたぐいかよ」
 翔太は眉間に縦皺たてじわを作って目を怒らせた。
「あら、頭の中を空っぽにすると集中力が上がって、パフォーマンスが良くなるって言われてるのよ」
「うむ、翔太には必要かもしれんのう」
 慎ジイがしみじみと言ったので、翔太は肩を怒らせて足を踏み鳴らした。
「ほら、いきり立った牛みたいじゃない」
「何だと」
 ギラつかせた目をあかりに向けて、鼻息荒く翔太の顔が赤紫色に変わる。
 ドアを開けた勝は、皆を手招きした。
「瞑想は、科学的根拠に基づいて人間のマインドを整えることが証明されています。
 百聞は一間に如かず、まずは実践ですよ」
「超能力が強くなったりするのかしら」
「ありえん話ではないな」
 隣りの瞑想室は、間接照明で壁の円と四角形を浮かび上がらせている以外はガランとした部屋だった。
 床はマットで仕立ててあり、座るには良い柔らかさがあった。
「では、形に決まりごとはありませんので、自分に合った姿勢で座ってみましょう」
 勝は立ったままで手を開き、目を閉じた。
「立ったままやるのか」
「初心者は座った方がいいわ。
 私も初心者だけど」
 座って目を閉じると、しんとした室内に清潔な空気が流れ始めた。
 あかりはテレパシーを閉じていたが、頭の中に誰かの意識が流れ込むのを感じ始めた。
「あなたは ───」
 口元がかすかに動いたが、声にはならなかった。
「私は約束の地で神の力を授かった者です。
 あなたも私と同じ力を持っているようですね。
 きっと私たちのような、意識を通じる力を持つ者が、これからの世界の鍵を握る存在になります。
 北の果てにあるこの地に、足を運んではいただけませんか」
 夢なのか、うつつなのか、曖昧あいまいな意識の中でぼんやりとしたイメージだけが頭に影を落としていく。
「あの、私はテレパシーで人の考えを知ることができます。
 この力の秘密をご存じなのですか」
 あかりは腹のあたりに力を込めて、相手の思念を探ろうとしたが、ただ広大な宇宙を感じるばかりだった。

 巨大な溶岩だまりを持つスリーフヌカギグル火山には、神に近づくための熱と光が降りてくるとされ、神秘の力に関する言い伝えが数多く残されている。
 ゴツゴツとした火山岩の上に座り、地球の熱を体に受けながら瞑想する者も多い。
 直径約一万三千キロの惑星が、灼熱のガスから物体としての形を帯び、回転する球体になって5億年ほど後から始まった、生命創造の歴史。
 人間はその末端に位置する、最終的な進化形態だが、ちっぽけな生命の一つである。
 サラは力をさらに高め、研究を深めるためにこの溶岩だまりに度々やって来た。
 高温の溶岩に力を向けると、虚しく跳ね返され押しつぶされる。
 物体を直接動かし、変形させるサイコキネシス。
 根源的な力の営みに、その源泉を求めたのである。
 彼女の後方の岩陰から、影のように狙うものがいた。
 集中力を極限まで高めたサラにも、同じ能力者の襲撃しゅうげきを察知するほどの繊細なマインドはまだ備わっていない。
 影のような男は、手の平を彼女に向けてかざした。
 周囲の岩が震え、人の拳くらいのかたまりが空中に作り出された。
 その岩は、今度は矢のように彼女めがけて飛んでいく。
 岩の震えを感じ取った彼女は間一髪、身を伏せてかわした。
「誰だ」
 大声で外へ向かって叫んだ彼女は、手ごろな岩を掴み取り念力で飛ばす。
 岩陰から現れた男は彼女の岩を力で止めた。
「ふん、この程度の力でこのアウスゲイルと力比べをするつもりか」
 ニヤリと口元を歪めた男は、さらに念を込めた。
 すると岩の粒が集まって、さらに巨大化していく。
 額から脂汗が吹き出し、サラは片膝をついた。
「何て力なの、私じゃあ支えきれない」
 人間の上半身ほどもある岩に成長した塊は、上空に舞い上がり、彼女へ向けて落ちていった。
 かなわないと察し瞑目したサラは、気絶したままのクリスティンの顔を脳裏に描いた。
「諦めるな、俺たちの力は戦うためにあるんだ。
 念じれば、さらなる力が湧いてくる。
 オラオラオラア!」
 溶岩だまりの方から聞き慣れない声がしたかと思うと、見えない波動が大岩を弾き飛ばした。
「新手か、今日のところは出直すとしよう」
 影のような男はまた、岩陰に溶けるようにして消えて行った。

「あんた、また怪我してるね」
 塗り薬と包帯をバッグから取り出したあかりは、翔太の腕の介抱を始めた。
「先ほどは、危ないところを助けていただき、ありがとう」
 サラは丁寧にお辞儀をした。
「俺たちにとっての約束の場所が、アイスランドにあるって品川博士に聞いて来たのさ。
 どうも地球の力が人間に超能力をもたらしているらしいとか ───」
 漆黒の闇におおわれた大地の上に、オリオン座が宝石のような輝きを放つ。
「何だか、ロマンチックよね。
 オーロラも見えるのでしょう」
 あかりの言葉に、サラは一瞬ピクリと身をこわばらせた。
「私の友人が、オーロラの力で気を失ったままなのです」
「オーロラの力 ───」
「私たちは『神の光』と呼んでいます。
 神の光が、神の力をもたらすと昔から言われているのです」
「つまり、俺たちにとってオーロラこそが、約束の場所だってのか」
「それはわかりません。
 さあ、いつ吹雪になるか分かりませんから、私たちの研究所へ行きましょう」
 油断なく辺りに視線をやりながら、サラが先を促した。
「その友人も、もしかして ───」
 あかりが遠慮がちに問うた。
「はい、彼女はテレパシーで人の心を読むことができます。
 大きなオーロラが突然現れ、それから意識がないのです」
 突然気を失って、テレパシーの能力を得たあかりは、自分自身の体験を彼女に聞かせた。
 夜空の星は、大小さまざまな光をたたえ、地を照らす。
 人間の営みも、星屑のように無数にあり、それぞれの人生をいろどり、与えられた力で未来を切り開いていくのだ。
 永久凍土の下にある地下施設に入ると、驚くほど暖かかった。
 研究施設の中にはヨハンという、ちょうど品川と同い年くらいの科学者がパソコン画面を見据えて唸っていた。
「品川から、話は聞いている。
 君たちも超能力者だそうだな」
 ぶっきらぼうに言い、ジロジロとあかりと翔太を値踏みするように足元から頭の先まで眺めたヨハン博士はまた席にどっかりと腰を下ろした。
「オーロラと、テレパシーには関連があるのでしょうか」
 あかりは率直に疑問を投げかけた。
 視界の端の、部屋の隅のベッドで横になっている少女が、きっとテレパシーのクリスティンなのだと分かった。
「そうだな、現段階では断定できないが、太陽フレアがオーロラを巨大化させ、人間の未知なる力を増幅させている、という説を私は支持する」
 モニタから目を離さずに、ヨハン博士は呟くように言った。

 人間の想像力は、無限に広がる宇宙のごとく、時空を超えてどこまでも広がっていく。
 星空を眺めながら、品川博士は一つ大きく息を吐いた。
「超能力には、地球の営みが関係しているのでしょうか」
 漠然と、勝は投げかけた。
「人間の体からは、電波や赤外線が出ている。
 つまり、人間の活動は電磁波と切り離せない関係があるのだ。
 電磁波による微小血管への影響も報告されている」
「すると、今年活発化している太陽フレアも影響を ───」
「充分考えられる。
 北の研究所へ向かわせた翔太とあかりは、オーロラの下で力をさらに増すかも知れん」
「つまり、ワシらの力は宇宙から降り注ぐ電磁波から得ていると ───」
 慎ジイも、夜空を仰いだ。
「一つの説に過ぎんがな」
 都心よりも空気が綺麗きれいなこの島では、星がくっきりと見えた。
「北欧の、約束の場所では、もっと綺麗に見えるのでしょうね」
 オリオン座のまたたきは、吸い込まれるような透き通った美しさがある。
 超能力を何のために使うのか、そんな考えさえも小さなことのように思われた。
「我々人間が生まれ、死んでいくように、星々も、この地球も崩壊へと進む無常の傾向に支配されている」
「だから、美しく輝くのじゃろう」
 手の平に、輝く金属の球を作り出した慎ジイは、それをもてあそびながら言った。
「人間には、異質なものを排除しようとする本能がある。
 私たちを『没』と呼んで捕らえ、研究材料にしようとした政府は、野に出た我々を探しにくるでしょう」
「まあ、そうなるじゃろう。
 ワシのような年寄りは、命など惜しくはないが、何も知らない人間に蹂躙じゅうりんさせるつもりはない」
「やはり、戦いますか」
「無論、じゃが、若い者たちを散らせてはならん」
 想像した物質をその手に自在に作り出す老人は、目を爛々らんらんと光らせるのだった。

 そびえ立つユニオン・キング・タワーは、中東の火薬庫と言われるアリバン国が誇る世界最高クラスのビルである。
 宗教の聖地を奪い合い、たくさんの血を流してきたこの場所に、今日も戦闘機が飛び、地上ではライフルを背負った兵士が物陰に潜んでいた。
 その上から、地上を見下ろして仁王立ちした男は、天を仰いだ。
 激しいビル風にあおられ、髪を逆立て地上からの光を受けた顔は、鬼のようにも見えた。
「ここにいたのか、アウスゲイル」
 物陰から姿を現したのは、フィンヌルだった。
 影のようにゆらりと動いたアウスゲイルは、双眸そうぼう爛々らんらんと輝かせて振り返る。
「お前では、俺は倒せない」
 お互いの右手から光がほとばしる。
 影の男は床をぎとり、塊を創ると空高く飛ばし、急降下させる。
 フィンヌルは一瞬で鉄の盾を作り弾き飛ばした。
「ふふ、今のは挨拶あいさつ代わりだ。
 スリーフヌカギグル火山で会った女は、弱くて話にならなかったな。
 邪魔が入らなければ、ハエのように叩き潰していたものを」
 脇につばを吐き捨てながら言った。
「サラのことか、神の力を授かった貴様が、なぜ人をおそう。
 目的は何だ」
「目的 ───」
 影のような男は地上に目を移すと、薄くわらった。
「お前は、なぜハエを叩く。
 目的は何だ」
「ハエだと ───」
フィンヌルの眼に憎悪の炎がほとばしる。
「邪魔だからだ。
 目の前をブンブン飛び回るハエが、目障りだから殺す。
 何かおかしいか」
 ふん、と鼻を鳴らして吐き捨てた。
 瞬間、地を蹴ったフィンヌルの手から長槍が伸び、アウスゲイルの脇腹をかすめたかに見えたが、彼はすでに消えていた。
「お前は見どころがある。
 力は弱いが、戦いのセンスはなかなかのものだ。
 もう少し強くなったらこちらへ来い」
 声だけを残して、男は消えて行った。

 フィンヌルはサラと、日本からの来訪者を連れてシングヴェトリル国立公園へ来ていた。
 地球の裂け目と言われる、北アメリカプレートとユーラシアプレートが引き裂かれる場所であり、アルマンナギャウ、通称ギャウと呼ばれていた。
「我々の力は、何のためにあるのか、考えたことはありますか」
 穏やかな声音でフィンヌルがつぶやいた。
「ふん、物事に、いちいち理由をつけたがるのは頭でっかちなインテリ博士と一緒だな」
 翔太は遠くの岩山を見えて、鼻で笑った。
「私、クリスティンみたいに突然気を失ってしまって ───」
「考えていないのですね。
 神の力を授かった者は、その力におぼれることがあります」
「あの、アウスゲイルとかいう奴のことか」
「彼の他にも、我々の知らないところで世界を混乱におとしいれようとする者がいるのです。
 見て見ぬふりはできません」
「ふん、俺の知ったことじゃあない。
 正義のヒーロー気取りかよ」
 片方の口角を上げ、シニカルに笑う翔太は、ため息をついた。
「超能力があるからって、力の使い道をいちいち考えなくても良いんじゃねえか。
 勝手なことをする奴は、そうすればいい。
 俺に危害を加えるなら、容赦しないがな」
「あなたは、そんな人ではありません。
 サラの命を助けてくれました。
 弱い者を見捨てるような、貧しい心ではないはずです」
かんさわる言い方をしやがる。
 俺は優しいお兄さんじゃねえぞ。
 あの、影のような男がいけ好かねえだけだぜ」
「そうよね、私たちは『いけ好かない』奴らを許さないだけだわ。
 世界を混乱に陥れようとする奴は、そうよね」
 あかりが言うと、サラはふっと笑った。
「地球の力だか、太陽の力だか知らねえが、暴れられれば俺は満足だぜ」
 翔太は眼下に広がる地球が織りなすスペクタクルのスケールを前にして、拳を固く握りしめたのだった。

この物語はフィクションです


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越庭 風姿 【 人は悩む。人は得る。創作で。】
「利益」をもたらすコンテンツは、すぐに廃れます。 不況、インフレ、円安などの経済不安から、短期的な利益を求める風潮があっても、真実は変わりません。 人の心を動かすのは「物語」以外にありません。 心を打つ物語を発信する。 時代が求めるのは、イノベーティブなブレークスルーです。