【極ショート小説】あの日の出逢い メガネ初恋

 木目調の板の上に並べられた私。
 隣の人は、まったく喋らないし堂々としてスポットライトを浴びている。
 ダークグレーのスーツで身を固めたあの人が来た。
「これにしようかな」
 手を伸ばしたのは煌めくカッパーゴールドの細渕の人。
 私は線が太いし、黒縁で野暮なカーブを描く。
 根強いファンはいるものの、イロモノ感が拭えない。
「イメージが大分違いますが、こちらもお試しください」
 店員さんが私をつまみ上げた。
 鼓動が早鉦のように脈打つ。
 あの人は私を優しく手の平で受け取った。
「ああ、暖かい……」
 何かが私の中に溢れてきて、ふんわりとした感触に満たされる。
 テンプルを力強く広げられ、鼻当てにあの人の吐息がかかった。
 もう、為すがままになってしまう。
「いいね。
 好きだなあ」
 体中が熱くなってしまった。
「幸せ……」
 度はいくつなのだろう。
 乱視は。
 毎日使ってくれるかな。
 あの人のことなら何でも知りたい……
 連れ帰ってもらう日が待ち遠しい……
 


いいなと思ったら応援しよう!

越庭 風姿 【 人は悩む。人は得る。創作で。】
「利益」をもたらすコンテンツは、すぐに廃れます。 不況、インフレ、円安などの経済不安から、短期的な利益を求める風潮があっても、真実は変わりません。 人の心を動かすのは「物語」以外にありません。 心を打つ物語を発信する。 時代が求めるのは、イノベーティブなブレークスルーです。