
【マンガ原作】グラディウス 第2話
「ここが評判のお店じゃな」
「はっ! 先の大戦で最も大きな功績を上げられた、伝説の勇者アベル様が経営されている伝説のお店でございます」
「おおお…… ついに来てしまった。アベルに会えるのか…… 感慨深いのう…… 眼からこぶ茶がこぼれそうじゃ」
ここはエトランシアという国。
突如現れたモンスターたちが、破壊と殺戮の限りを尽くし、国は荒れ、人々はいつも怯えて暮らしていた。
そしてモンスターに対抗するため、肉体を極限まで鍛え上げ、立ち向かう者が現れた。
彼らは闘士や、剣術士などと呼ばれ、さまざまな武術を修め、勇敢な炎の心を持つ戦士たちだった。
一方、超常の力を探求する者も現れた。
魔法使いと呼ばれるその者たちは、火、水、風、土の四大元素を極大化する業を使い、森羅万象に通じた。
その中でも魔力を究めた者には、魔道士の称号が与えられ、尊敬と畏れをもって称えられた。
戦いは熾烈を極め、大地には戦士と魔法使いの屍が至る所に転がる地獄絵図が描かれるのだった……
1年ほど前、モンスターを殲滅すべく、帝都テイシアで編成された、史上最強の殲滅部隊がモンスターの本拠地に近いロダニア山を攻撃した。
これが世にいう、ロダニア大戦である。
この戦いで最も大きな戦果をあげ、最も多くのモンスターを倒したと言われるアベルは、最高の栄誉である「勇者」の称号を受け、国民から称えられる。
だが、望めばどんな役職にもつけた彼だが、忽然と姿を消した。
そして、半年ほど前に、地獄の激戦区と言われるロダニア地方に、大きな飲食店を開店したのである。
従者グレッグが、店の開き戸を開けた。
「失礼する! どうぞ、ライオス様…… 」
「うむ」
国王ライオスは、重々しく頷くと、ゆっくりと店内へ入っていく。
「アベル! 」
「ん? おおっ! ライオス様じゃありませんか! 使いをよこしてくだされば、このアベルがお迎えと警護をしましたのに! 」
「ふふふ。相変わらずじゃのう。伝説の勇者よ。アベル。お前に会いたくて来たのじゃ。ワシはのう…… 国王としてではなく、一人の男として、お主を尊敬しておる。伝説の男がどんな理想を描き、このロダニアにどんな店を出したのか、どうしても見たくてのう。国を放り出して来てしまったというわけじゃ」
「何を仰いますか! このアベルは、国に仕えるなどというガラじゃありませんからね。こうして逃げ出して来たのですよ」
「アベル! 久しぶりだな! 」
「グレッグか…… お前が国王様を守って来たのだな。伝説の魔道士と言われるお前がいるならば、心配はいらなかったな」
「大戦以来だな…… 伝説の勇者アベル、伝説の剣術士アルベルト、そして俺の3人でパーティーを組んだ時には、ドラゴンも逃げ出したものだったなぁ…… お前を見てると、またあんなヤンチャをしてみたくなってくるな…… 」
「ははは。よせやい。俺は平和主義者なんだよ。ヤンチャなんて、お前とアルだけだよ」
「ところで、アベルよ。店の入口にあった看板の『蕎麦』は、何と読むのじゃ? 」
「あれは、東の国の言葉で『ソバ』と読みます」
「ほほう。聞いたことがあるのう…… じゃが食べたことがない。ぜひ食べてみたい」
「ここでは、自分の蕎麦を自分で打ってもらうんです。ですが国王様には、自分が打って差し上げましょう」
アベルはライオスに、席を勧めた。
「ここは、お前の店じゃ。ここではアベルが国王なのじゃ。ワシはタダのジジイとして、この店の流儀に従うことにする…… 教えてくれんか。蕎麦の作り方を」
ライオスは、澄んだ瞳でアベルを見つめていた。
アベルはしばらく考え込んだ。
「わかりました。少々お待ちください」
奥の厨房で、何やら準備を始めた様子だった……
しばらくすると、奥で大きな物音が響いた。
ドカッ!
「コラ! てめぇ、手抜きしやがったな! 水まわしをいい加減にやったんじゃねぇのか! 今度やったら、ドラゴンのエサにするぞ! 」
アベルの声が響いた。
「すんません。おらぁ、昔から何やっても満足にできないんでさぁ…… 水まわしなんて、難しい技術は、おらには無理でさぁ…… 」
半泣きになっている男の声がした……
バキッ!!
「ぐはぁ!! 」
「てめぇもか! そんなザマだから、ドラゴンに殺されかけるんだ! 心を磨け! 剣を振ったってお前なんざぁ、おいしいエサになるだけだ! 」
何人かお客さんが来ているようだ。
ロダニア地方には、強いモンスターが多く、時々ドラゴンも出現する地域である。
見渡す限り草原のステップ地帯と、砂漠、岩場が広がっていて、食料は少ない。
だから、アベルのこの店はこの地方に来た冒険者が必ずと言っていいほど立ち寄る場所だった。
こうしている間にも、いつモンスターが襲撃してくるかわからない。
グレッグは油断なく周囲の気配を探っていた。
不意に立ち上がったグレッグは、外に出ていった。
「ライオス様は、店に戻っていてください」
ライオスも一緒について来た。
「いや。ワシが戦おう。というより、アベルがこうして店を出してくれたおかげで、冒険者が集まり、ロダニアのモンスター討伐が進んでいるのじゃ。国王としてできることをしておきたいのじゃ」
ライオスは、腰の剣に手をかけた。
「この剣は、飾りの宝剣ではないのじゃ。最強の勇者と呼ばれた、ライオスの力を見せてやろう…… 」
こう言われては、引き下がるしかなかった。
「お畏れながら、私は後衛として、周囲の索敵をしながらサポートいたします」
「ふふふ。腕が鳴るのう…… 」
ライオスは、舌なめずりをして、不敵に目を怒らせた……
ドラゴンが3体、上空を滑空している。
そのうちの1体が、こちらに首を向け、火炎を吐いた!
「ルッティン!!! 」
ライオスが唱えると、2人はドラゴンの背後に瞬間移動した!
「そのまま飛んでいると、炎の剣の餌食じゃぞ! 」
剣を一度振り抜き、右後方へ向けて、そのまま身を沈めた……
「そりゃああぁ!! 」
ゴオオオォォォ……!!
ドラゴンの5倍はあろうかという巨大な火柱が3本上空へ伸びていく!
1体が火炎に飲み込まれた!
「ぐぎゃああぁぁぁ!! 」
一瞬で黒焦げになったドラゴンが、遠くに墜落していった……
残りのうち1体が地面に降りてきた。
「カロロロロオォォ…… 」
仲間を殺されて、怒りに燃えた目をしているように見えた……
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