ふらりとやって来て、ピアノに向かった自分に、売り子さんは笑って世間話を始めました。でも、弾き始めたら、外からも人が集まってきたのです。
「もしもピアノが弾けたなら」の歌詞は、
僕にはピアノがない。
腕もない。
と歌っています。
ピアノを見かけると、弾いてみたくなる自分は、思い浮かべてしまいます。
「ピアノがなくて、腕もなかったらロマンチックなんだろうな」
ふらりと入った楽器屋さんで、つい座ってしまい、売り子さんと談笑しました。
「いやぁ。息子と娘に習わせてましてね。本格的なのを買おうかと……」
試弾ということで、店員さんが高そうなグランドピアノに案内します。
「こんなピアノで練習したら、腕が上がるでしょうねぇ」
などとニヤニヤ笑いながら、
「じゃ。ちょっとだけ叩いて良いですかね」
「どうぞ。どうぞ。世界最高のピアノの音に近いんですよ」
などと笑顔で答える。
そして、目を閉じて両手を、鍵盤の定位置に構えた。
モーツァルトの曲を編曲したオリジナルメドレーを弾き始めた。
他の店員さんもやってきた。
遠巻きに他のお客さんが、呆然と眺めていた。
「ああ。お父様が弾くのですね。ははは。これだけ弾けるのなら、ピアノの違いがお判りでしょう」
自分はクラシックピアノを習っていました。
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