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【夢日記vol.5】注文を間違えた町中華

とある昼下がり
猛烈にチャーハンが食いたくなったので、
地元の駅前にある中華料理屋に入った。

いかにも

「町中華」

…といった風情オンボロなお店である。

メニューを見てみると…チャーハン

「蟹炒飯」

…だけだった。
ぼくはカニとエビを食べたら蕁麻疹がでてしまう
甲殻アレルギーなので、店員さんを呼んで

「カニチャーハンの
カニ抜きはできますか?」

…と、聞いてみる。
すると…(町中華なのに?)白いYシャツに、
黒いチョッキと、取ってつけたような
ゴムで結ぶタイプ蝶ネクタイを身に着けた

「Mr.オクレ」

…の顔と動きをちょっぴり精悍にしたような
40代くらいの店員さんが、大きくうなずきながら…
ぼくの耳元に顔を近づけ、ささやいてきた。

「お客様は味が
おわかりな方のようですね。
そう。チャーハンは、
最低限の具だけで
つくられたものが
一番美味しいのです」

身体的な理由
「カニが食べられないだけ」なんだがなあ…
とは思ったが、口にするのはやめておいた。

注文を取って、そそくさと厨房へと向かう
Mr.オクレ(似の店員さん)後ろ姿は、
味にうるさい客のリクエストにお応えできる喜び
揚々としているようにも、見えなくはない。

「余計なことを言わなくて良かった…」

…と、ぼくは軽く苦笑する。

出されたチャーハンは…
卵とレタス…あと、ハムのみじん切りみたいなもの
…だけでつくられたシンプルなものだった。
適量にまぶされている卵の黄色
レタスの黄緑色
ハムのみじん切りみたいなものワインレッド──
そして胡椒黒い斑点食欲をそそる。

さあ食べようか、と細長い楕円形の皿に盛られた
いかにも美味そうなチャーハンの山を、
陶器でできたレンゲで崩しかけたとき…
またMr.オクレ(似の店員さん)が、
ぼくのところにやってきた。

「おまたせしました。
北京ダックでございます」

差し出された、直径1メートル近くある
巨大な銀の円形皿には、
調理された食用のアヒルまるごと一匹乗っていた。

「これ…ぼくのじゃないですよ」

──半笑いと半泣き
混ざったアンニュイな表情で、
ぼくは店側のミスを指摘する。


「おかしいですね。
たしかにご注文を
いただいた気がするのですが…」

Mr.オクレ(似の店員さん)は、
たいして困った様子でもなく、
人差し指を顎の下に当てながら黒目を右上に寄せた、
芝居じみたポーズでつぶやいている。

「だって、
北京ダックなんてものが
メニューにあること自体、
知りませんでしたから」

ぼくは少々ムキになって、反論する。

「そうですか、わかりました。
では、幸いお客様は
お味のわかる方のようなので、
こちらは特別に
サービスいたしましょう。
この北京ダックは
当店の自慢の品なのです」

「北京ダックって…
そんなに早く調理できるのか!?」

「どんだけ莫大な損害なんだ!」

…などと、内心ではそんな素朴な疑問と、
お店に対する心配を頭によぎらせながら、

「これは皮だけを
食べるのでしたっけ? 
僕は北京ダックの食べ方を
よく知らないのです」

…と、とりあえずぼくはそう尋ねてみる。

「いや。私どもの北京ダックは、
パリパリの皮だけではなく、
ジューシーな肉の部分もすべて
美味しいのです」

…と、Mr.オクレ(似の店員さん)が、
50センチはある銀の菜箸
複雑に入り組む肉の部分器用にまさぐっていくと…
中から赤ん坊用のおしゃぶりに似たかたちの、
透明のチョコレート色の物体が現れた。
どういう演出なんだ!?

「秘伝のタレです。
これを肉の温度で
じっくり溶かしながら、
丁寧にからめていくのです」

こう説明してから、今度は銀の菜箸を両手一本ずつに持ち替え、

「エルビンジョーンズ」

…よろしくの、まるで
ジャズドラムブラシング奏法のような、
熟れた手つきでタレを肉に馴染ませる。

「さあ。あえて、
タレをからめない部分も
残しておきましたので、
時には肉本来の味も
お楽しみください」

肉好きの核心を抉(えぐ)る細やかな心配りだが、
それでもぼくはこう言わずにいられない…。

「こんなん…
一人じゃ食べられないよー!」

Mr.オクレ(似の店員さん)が、

「やはり、無理ですか…」

…と、下唇を突き出しながら、肩をすくめる。

「やはり〜」

…って言うくらいなら、

「最初から注文間違えるなよ!」

…と、思わず口から出かかったが…
やはり、やめておいた。

Mr.オクレ(似の店員さん)は相変わらず
まったく動じていない様子で…
しかも、こんな提案までしてくる。

「いかがなものでしょう。
おとなりの席の貴婦人お二人と
ご一緒にお食べに
なるというのは? 
中華料理は
会話も味のひとつ…
などとよく言いますし」

「き、き、きふじん?」

…というところで目が覚めた
二人の貴婦人たちがどんな容姿をしているのかを
なぜもっと早くチェックしなかったのか
夢の中を後悔した。



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