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冷静と情熱の間で

サッカーを離れようと思った。

サッカーが好きになる前からサッカーが始まり、生活の多くを捧げ、人生の選択の多くの基準にしてきたもんだから大人になってもまだズルズルと執着している。

「サッカー選手になる」とチームメイトが口を揃えて言ったあの頃からあきらめないことだけが僕の取り柄だったから、皆が別の夢を口にし始めてもなお、僕の口は同じ形をしていた。大人になるにつれ視力が良くなりJリーグは難しいとわかってもなお、サッカーが夢であることは変わらないのだから、あきらめは拗らせるとお尻に''悪い''と添えられる。

指導者としていつかトップカテゴリーを見たいとこの世界に飛び込み、半年程前から現役の''サッカー選手''にもなった。

サッカーを夢にする以上、一番上にはサッカーを置かねばならぬと時間を見つけてはサッカーを学び、見えるものを増やしてきた。

でも、学んでも学んでも、学んでないやつ、中途半端なやつに負けるし、掛けた熱量が大きいほどその憂鬱は強いのだから、サッカーはあまりにコスパが悪いと思った。

学校から企業に出向した半年の間、サッカーの指導から離れることを伝えられた。戻ってきた今も慣れないラケットを振る放課後である。

ただ、サッカーを少し離れてみると、意外にも心穏やかな日々があることを知る。

教員という多忙な仕事をしながら日々TRを考えなければならないプレッシャーはないし、チームを持たないから結果の出ない憂鬱と向き合う必要もない。

これまでサッカーに執着してきたせいで、選べなかったおもしろさと、知ることのなかった楽しさがある。

サッカー以外に楽しいことなんていくらでもある。

サッカーがなくたって生きていける。

サッカーを離れようと思った。

これは僕の冷静である。

サッカーを離さないでいようと思った。

楽しくなり始めた選手としてのサッカーもリーグ戦1週間前に左足首の靭帯を損傷して、ピッチに立つことは叶わなかった。病院に行く度に「あと2週間、あと2週間」の再放送。やはりサッカーは憂鬱である。

しかし、与えられたチームの監督のポジション。ピッチ外から見た景色をロジカルに伝えることが使命だと、たくさんサッカーを整理した。リーグは順調に勝ち点を積み、優勝決定戦に駒を進めた。

東駿河湾リーグ1部 優勝決定戦

SS伊豆2nd 3-1 Passione

どちらに転がってもおかしくなかった結果を手にすることができた理由を単純化するには難しいぐらい、ピッチの中にも外にも勝つに必要な要因が複雑に転がっていた。

「足がちぎれるまで走ってきます」とこれまでで一番戦った選手達の想いに共鳴して、スタンドの熱量が上がったのに負けじと、僕も届いたかわからない声をピッチに響かせた。

なんだかとても文学だけど、スコアの進み方も死闘を表すに十分な起伏があった。

これまで良い思いよりもずっと憂鬱な記憶ばかりが残るコスパの悪いサッカーに、それでも僕が伝えたいことを実行可能な選手達と共にしたら、僕の人生のサッカーシーンの中で最も熱狂したゲームが待っていた。

県リーグにも満たないカテゴリーなのに、たくさんの人が集まり、そんなことは取るに足りない問題だと、そこにはちゃんと熱狂と落胆と感動と、サッカーの全てが同居していた。


こんなにも嬉しくて涙が出そうな出来事がまだ残ってると思うと、もうちょっとサッカーを自分の一番に据えといてやってもいいやって思う。

だから僕はサッカーを離さないでいようと思った。

これが僕の情熱である。


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やまだえっせい
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