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#3 新人監督目線で見た、映画のスタッフってこんな感じ。そして監督って何をするのか



「AWAKE」と書いて「アウェイク」と(略)。


※このnoteは12月25日全国公開の映画「AWAKE」の監督・脚本をした者が書いています。(以降定型文にするつもりです。これ最初に言わないと、入れどころないので…)


3回目ともなりまして、そろそろ連載というもののキツさに慄いています。文章でこれなんだから、週刊連載の漫画家の先生とかマジすごい…。いや、そんなダラダラ長いからだよと言われそうな気もしますが、まとめられないので…。


さて、前回は壮大な自分語りをやらかしまして失礼しました。今回こそ宣言通り「映画監督って何するの?」ということに関して書いていけたらと思います。本noteの位置付けをどうするかは正直あまりよく考えてないんですが、将棋のことを全然知らなくても理解できるをモットーに作っていた「AWAKE」と同様に、映画のことをあまり知らない人にも映画のことを理解してもらえるといいなぁというのをなんとなく念頭に置いているというのもあって。


前回の自分語りを読んでいただければわかる通り、僕自身は普段映像ディレクターをしてますが、商業映画の監督は本作が初めて、ということになります。他の仕事と比べると、何が違うってまず規模がでかい!そんな中で初めて「なるほどー商業映画を監督するってこういうことか」と思ったことも多く、「映画監督って何するの?」なんて身に余るサイズの主語を思わず使いましたが、要はそのあたりについて記録しておけたら、と。


映画に限らず、規模が大きいということは、分業が進むということなんかなと思います。規模の小さいところだと一人であれもこれもと全部やらないといけないですけど、規模が膨らむに連れ、それぞれの役割が専門化されます。例えば小料理屋のおかみさんなら注文から料理から会計から全部一人でやったりするかもしれないですが、規模の大きいレストランだとそれ全部別々のスタッフがやって、かつ厨房内もソース作る人、デザート作る人、盛り付ける人、みたいに分かれていく、みたいな。規模の大きい映画も、そんな感じでスタッフはまずそれぞれの専門領域を持ちまして、そこを全うしようと仕事をします。


で、規模が大きくなればなるほど、人が増えれば増えるほど、同じ脚本を読んでもその人数分のイメージができあがるわけでして、それを取捨選択して、一つのイメージにまとめるのが映画監督のやることの大きな部分なんだろうなぁと思います。
というわけで、じゃあその映画監督がまとめる映画スタッフってのはどういう仕事をするのか?そこを紹介すれば、より全体がつかめるんじゃないかと思いまして、今回初めて知ったことも交えつつ、下記列挙します。

・撮影/照明


説明不要かと思います。ただ、これはもしかして知られてないのかな?というのは、映画ってワンショットワンショットを通常非常に作り込んで撮影します。写真スタジオで家族写真とか撮ってもらうと、カメラを構えて、照明をちょっといじって、向きをちょっと変えて、試しに撮って、もう一回ちょっと照明直して、みたいにやるじゃないですか。あれを全カットでやると思ってくれるとわかりやすいです(そうじゃない人や演出法もあります一応)。なので、撮影/照明はメチャクチャ大事、特にカメラマンとのコミュニケーションは時に役者以上になります。「AWAKE」のスタッフに関しては、この2つのポストのみ、以前からの仕事仲間にお願いしています。

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※例えばこれは手元ワンカットを真上から取るための準備ですが、それでもこんな感じになります。

・録音


これもそのまんまですよね。「ノッティングヒルの恋人」という映画で、女優のジュリア・ロバーツ(役名アナ・スコットだっけ?)の恋人になった一般人のヒュー・グラントが、撮影現場に行ってジュリア・ロバーツが着けてるワイヤレスマイクが拾った彼女の会話を盗み聞きしちゃう、そんでその内容が元で喧嘩する、というシーンがありましたが、ことほどさように映ってはないですが台詞があるシーンはほぼ間違いなく役者はマイクを着けています。

とまあそれ以外にも撮る音はたくさんあるわけですが、音がちゃんとしてない映画はベースが効いてないバンドみたいなもんで、ホントにペラッペラになるもんなんです。撮影して、編集の後に音の編集をする「整音」という作業が行われるんですが、そのステージで全然変わる(良くなる)シーンも数多くあり、それもひとえに音がきちんと録れているからです。

・美術/装飾


これが、やっぱり今回でかかった。バッチリ美術チームが入る現場はほぼ初めてでしたので。あなたが映画を観ている時、実はあなたは映画の美術を観ています。ハリウッド映画では監督とかカメラマンと並んで「Production Designer」がクレジットされますが、それほど重要なポジションです。百聞は一見に如かず。こちらの写真をご覧ください。

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これ、向きは逆ですが、「AWAKE」のポスターにもなってる人工知能研究会の部室のロケハン写真です。これが、こうなる。

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ね、すごいでしょ?奥の柱とかを見るとかろうじて同一の場所というのがわかるんじゃないかなと。そりゃあ”吉沢力”も相当ありますが、いかに美術が映画の世界を作っているかっていうことを実感していただけるのではないでしょうか。

・衣装/メイク

これも大事なポストです。「いやそんなん知ってるし。アレでしょ?衣装とかメイクとかはただそのイメージに近いところ持ってくるだけじゃなくて、撮影って時系列バラバラでやるから、その前後の繋がりとかも考えて全て組み立てないといけないんでしょ?」半分正解です。でももう一つあるというのを今回再確認しました。

衣装&メイクのもう一つの大事な役割は「役者のケアをする」かと思います。全ての役者は必ずこのパートに直接的にお世話になるので、役者に一番近い。「AWAKE」以前にも他の現場でこれを感じていたことはあったのですが、撮影日数が長いというのもあって、今回特にその重要性を感じました。彼女たち(うちの現場ではどちらも女性でした)を介して控え室の役者の様子を聞き、演技その他で迷ってるところがないか?なんて情報を集めたりもしました。助かりました!(唐突にゴマ擦り)

・演技事務/エキストラ担当

このパートは今回初めて知りました!そして大活躍。ちょう大事。「AWAKE」登場人物めっちゃ多いですからね。エキストラもすごい必要でしたからね。

「演技事務」はざっくりいうと現場では役者の現場「入り」と「出し」を管理してケアします。これ結構大事なんですよね。後に出て来る制作部以外の多くのスタッフはカメラかモニターの周りに集まっていることが多いので、その時に「出番」である役者さんにどうしても集中します。そうすると、一度出番を終えた役者さんが、またこれから出番が来る役者さんがどういう状態にあるのか?を把握する人がいると、すごく現場が円滑になります。また、撮影前はメインキャスト以外のキャスティングを担当してくれまして、それが無ければ出会えなかった素晴らしい役者さんも多数いました。そのうちまとめて紹介できればと思います。

「エキストラ担当」はその名の通り、エキストラを集めて、現場に連れてきて、現場から帰す、という役目です。というと簡単そうですが、そんな筈ない。あなたが映画を観ている時、実はあなたはエキストラを観ているんです。例えば大学のシーンがありますよね。入学時期、という設定だとメインの通りを歩いてるのは数人てわけにはいかないわけです。それだけの人数を集め、その場に連れてくる方法を考えて連れてきて、撮影の時間まで待機させ、昼をまたぐなら食事を取ってもらい、撮影が終わったらスムーズに現場から帰っていただく、そういうのを滞りなく行う、という途方も無い作業を捌く必要があります。

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※見えてる範囲の人全部エキストラです。この後ろに同じくらいの人数がいますが…

・助監督

さあ!来ましたね助監督。監督・助監督がまとめて「演出部」と呼ばれるので、助監督とは他のスタッフよりも先に仕事を始めることになります。

で、助監督は「チーフ」「セカンド」「サード」と分かれます(「フォース」まであることもあるらしい)。これらは上下関係もあるんですが、職域は割と分かれてまして、「チーフ」のメインの役割はスケジュールの作成。与えられた日数で、映画を撮り切るスケジュールを組み、それを滞りなく進行するのが責務となります。「セカンド」は実際に撮影現場を仕切って回します。カチンコを打って、大きな声を出して現場を盛り立てて、押し進めて行く役割。いわゆる現場の「雰囲気」が形成されるのは、セカンド助監督の影響も大きいと思います。「サード」は美術まわりがメインです。例えば架空のポスターを作りたい!となった場合、美術はそれを作ることはできますが、内容を決めるのは演出なわけで、そういったことを担当します。「AWAKE」で言えばさらに大事だったコンピューター画面関係ですね。膨大な量を作ったわけですが、それらはサード助監督の担当でした。

助監督から監督になるのは、日本映画の場合昔からの王道の出世コースみたいなところがあるんですが、自分の場合は現場の下積み経験が全く無かったので、知識はあれどこの違いは詳しくはわからなかったんですよね。今回実際に働いてみてよくわかりました。

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※演出部一同。青春っぽいが単に画面内のプログラムの動きを確認している。

・制作

最後に、制作部です。これも言葉が漠然としてるんで、一般には馴染みがないのかなと思います。一言でいってしまえば、「ロケ地を探す」「現場で他のスタッフが滞りなく仕事ができるようにする」の2点が制作の役割です。あ、二言。

特にわかりにくいのが「現場で他のスタッフが滞りなく〜」のところですが、例えば先ほどの人工知能研究会の元となった部室。これも当然制作部が見つけてきたんですが、いざそこで撮影するぞ!となっても、いきなりじゃあ指定された日に撮影機材持って行って〜とはならないわけです。その前に、「現場に照明に必要な電力があるか?」「控室はあるか?」「周辺環境は大丈夫か?事前に撮影が行われる旨アナウンスする必要がないか?」「当日のそこまでの移動はどうするか?」「食事(弁当)の数は?どこで買うの?」などなどなどなど確認することは山ほどありまして、それをビシバシ片付けて行くのが制作の仕事です。

そして制作部は上から順に「制作担当」「制作主任」「制作進行」と分かれます。これなんで?って感じじゃないすか。なんでチーフ、セカンド、サードじゃないの?って。その理由は今回はわかりませんでした…。

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※こちらは人工知能研究会の入ってる建物ですが、2階だったため窓外から照明を当てるためにイントレ(やぐら)を組んでます。ポスターの差し込んでる光がそれ。「これ組んでいいですかね?」って交渉するのも制作部。


さて、相変わらず長くなってきたので一旦これで閉じますが、ここに挙げたのは殆どが撮影時のスタッフで、ここからポスプロでも整音、音楽、カラコレ(色直す)、CGとか色々あるんですが、伝えたかったのはこういったスタッフからの「これでいいですか?」に答えるのが監督の仕事の大きな部分、ということになんのかなと思いますということです。

「AWAKE」はそうは言っても小規模な映画ということなので、これでもスタッフは少ない方らしいのですが、とはいえ自分のこれまでの環境からしたら規模が違いすぎまして。たくさんのスタッフが自分の一存で動いてくれたり、なんなら一存してない部分でも「こうではないか?」と考えて仕事をしてくれている環境に感謝しつつ、同時に僕はこう考えてました。「映画監督ってこんな偉いんだ」

次回「新人監督目線で見た、映画監督ってどんだけ偉いのか問題」請うご期待!