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レコーディング・MIXの頼み方

都内でレコーディング・MIXエンジニアをやっておりますYAMADAです。
ありがたいことに最近両方とも依頼が増えてきているのですが、自分でワークフローを振り返り明文化するという意味もあり、依頼を検討している方に向けて「どういう時に頼むのか」「頼むとしたらどうすればいいのか」あたりを記事にしようかと思います。多分長くなります!
また、専門用語はなるべく噛み砕いた表現をしているため「これは厳密には違うじゃん」もいっぱいあります。ご承知おきを。


そもそもレコーディング・MIXとは?

どちらも音楽を形にする上で必要不可欠な工程ですが、本記事を明解にするためにも一度説明しておかねばなりません。ご存じの方は次項まで読み飛ばしてくださいませ。

レコーディング

RECと略されることもしばしば。発音は「リコーディング」の方が近いらしい。
めっちゃざっくりいうと、音を記憶媒体に収める作業のことです。
具体的には歌や楽器をマイクで電気信号として拾い、オーディオインターフェースを通してデータに変換し記憶媒体に保存するという工程になります。
こうして表現すると簡単そうに聞こえますが、その実マイクの設置や距離感を調整するマイキング、音が割れないように機材を調整するゲインステージング、素晴らしいテイクを取り漏らさないよう素早くかつ精密にソフトを操作するオペレーションなど、可視化できない技術を多く要求される分野でもあります。奥が深いのです。


MIX

レコーディングした歌や楽器たちの音量バランスや音質を調整し、音楽として楽しめる一つの作品にする作業です。いわゆる「歌ってみた」なら、歌とオケ(カラオケ音源)のバランスを調整する作業になります。
いかにいい機材を使ったとしても、録っただけの音はなかなか馴染んでくれないものです。それをプラグインというモジュール群を駆使して聴きやすく、かつ楽しめるものにまとめていきます。
こちらも各ソフトの扱い方や勘所など、多くの知識とセンスが要求される作業であり、おそらく最も時間がかかる工程でしょう。


MIXと混同される作業

厳密には別の工程とされるものの、現代で「MIX」というと含まれちゃってることが多いものたちです。もちろん含まれてないこともあるので、依頼する前に「これやってくれるの?」と確認した方がいいかもしれません。

  • エディット
    レコーディングで録り終えた納得のテイク。それでも、ちょっとタイミングがずれちゃってたりピッチが合ってなかったりノイズが入ってたりするものです。それらをデジタルの力でなんとかする作業です。立会いでやってると一番反応がいい作業でもあります。
    魔法みたいですが、それでもなんとかならない時もありますので、エンジニアの判断次第で潔く録り直すか別テイクを使いましょう。無理にいじくり回すよりその方が早くて綺麗で確実です。

  • マスタリング
    MIXが終わったらもう完成じゃないの?と思われていることが多いのですが、実はその後にマスタリングという工程があります。
    MIXし終わって一つの音源となった『2MIX』に対して、市販の音源や、アルバム内の他の曲との質感を揃えるために繊細な調整を加えていきます。いわゆる音圧を上げるのもこの作業に含まれています。


どうしてわざわざ他人に依頼するの?

音楽活動においてDTM(パソコンを用いた音楽制作)が一般化した昨今、録音できる環境や音楽をパッケージングするMIX・マスタリングの技術は広く普及し、何も持っていなくとも安く済ませれば1万円程度でなんとか環境が揃ってしまう時代になりました。そんな中、なぜわざわざお金を払って他人に依頼するのか?そこにはお金を払う価値のある明確なメリットがあるのです。

機材のレベルが違う

最低1万円程度で作品が作れるとはいえ、そこはピンキリの世界。
エンジニアと呼ばれる人々は、収入の全てをそこに注ぎ込み、セールが始まればプラグインを買い漁り、10万円のオーディオインターフェースやら30万のマイクプリアンプやら50万円のマイクやらを揃えています。ローンが終わるということは、次のローンが始まるということ。
5万円のノートPCでMONSTER HUNTER : WILDSは動きませんが、30万円のタワーPCなら動きます。我々はあなたの作品をMONSTER HUNTER : WILDSにしたいのです。

新しいローンの恐怖を忘れてキャッキャする筆者


かけてきた時間が違う

1にも2にもコスパ・タイパと叫ばれる現代、そんなものを度外視してソフトウェア・プラグインの研究に身を捧げているのが我々エンジニアです。
音楽を最終的な形にする上で、イコライザー、コンプレッサー、リバーブ、ディレイ、ディエッサー、ゲート、マキシマイザー、イメージャー、RTAなどなど……呪文のようなプラグインの数々を必ず相手にしなければいけません。
それらを手探りで、時には巨人の肩に乗りながらも時間をかけて習得しています。
要するに、依頼した方が手っ取り早いのです。自らMIXを習得する時間があるなら、曲を作ったりライブをやった方が活動は前に進むというものです。

素晴らしい出音からのクソみたいなUI、EQP-1A


環境が違う

自宅で収録中、壁ドンされたことはありますか?家族に白い目で見られたことは?救急車がドップラーしたことは?そんな収録のストレスから解放されるのがボーカルブースでの収録です。
詳しい説明は省きますが、外的ノイズや音漏れはもちろん、音質面でいえば「部屋鳴り」という壁や家具との音の反射によって発生する音の濁りも防ぐことができます。
また、エンジニアがソフトを操作するため録り直しもスムーズに。自分のテイクに自信がなければ、エンジニアに相談してみてもいいかもしれません。
初めては緊張するかもしれませんが、エンジニアはアシスタント以外には優しいので安心してください。

筆者宅は自作防音室があります。エアコン完備(重要)


他にも色々ありますが、メリットとして大きいのはこんなところです。

まとめ
RECにおけるメリット
・良い機材で収録できる
・音響的に優れた空間で収録できる
・エンジニアの操作でスムーズに収録できる
・エンジニアにディレクションしてもらえる(人による)
・録り音に異常がないかモニタリングしてもらえる
MIXにおけるメリット
・良い機材、プラグインでMIXしてもらえる
・エンジニアの経験値によるMIX
・MIXにかける時間を別のことに活かせる
・煩雑なエディットもやってもらえる


依頼相手の探し方

このnoteに辿り着いている時点であまり心配ないと思うのですが、誰に依頼すればいいのか?どうやって探せばいいの?という話をします。

SNSで探す

まず最初に謝らなければならないのが、僕はX以外のSNSをやっていません。のでインスタとかでそういう募集があるのかはよくわかんないです。
Xなら、#MIX依頼 #MIX師募集 #MIX師さんと繋がりたい といったハッシュタグで依頼を受け付けているポストを発見することができます。


スキルマーケットで探す

ココナラといった依頼を仲介してくれるスキルマーケットなら、実績や料金も可視化されているし取引もスムーズに完結します。


相手の選び方

さて、それでは結局誰に頼めばいいの?ということで、
どこを判断基準に選んでいけばいいかを見てみましょう。

  • 実績
    どんな相手から、どんなジャンルの曲を受けているか?そもそもバランスが変だったりしないか?など、一番多くを語ってくれるのは仕上がった音源です。
    ただし、そもそも安いマイクで録った部屋鳴りがグワングワン入りまくってる音源を渡された、などエンジニアにはもうどうしようもないケースもあったりしますので、なんかおかしいぞ?と思ったら他の音源も聴いてみましょう。

  • 価格
    今どれだけ音楽にお金をかけられるか?活動とは常に予算との相談です。
    とりあえず依頼する前に要件を伝えて、見積もりをもらうのもありだと思います。

  • 知り合い
    右も左も分からないのに、知らない人にいきなりお金を払って頼むのは怖いもの。あなたが一流のSNSユーザーであれば、相互フォロワーの中に一人くらいはMIXエンジニアがいる…可能性もあります。
    活動している知り合いに、信頼している人を紹介してもらうのもいいかもしれません。

  • SNSの振る舞い
    この辺のコツは筆者も知りたい。

自分の場合、youtubeの再生リストにまとめてます

実際に頼んでみよう

ここまで前提知識でした。長い。
それでは必要なものから順に、依頼の仕方を見ていきましょう。

レコーディング頼むときに必要なもの

  • オケ(カラオケ音源)
    オケとかカラオケ音源とかマイナスワンとかいろんな呼ばれ方をしますが、要はボーカル抜きのカラオケです。
    エンジニア側では素材の出どころの責任を取れないので、確実に利用者側で用意してもらう必要があります。
    メトロノームを聴きながら歌う場合はBPM(テンポ)の数値も必ず共有してください。途中でBPM変わるやつとかは特に!

  • 歌詞資料
    紙でもドキュメントでもpdfでもなんでもOKですが、「ここの〜〜〜のところから録り直したいです」とか言えるので、あるとオペレーションがスムーズになります。
    あと複数人で歌う場合、パート分けとかもわかるとかなり助かりますね。

  • 練習
    これはガチ
    オリジナル曲なら特に、正解はあなたや作曲者、プロデューサーの中にしかないのです。
    事前に仮歌をエンジニアに共有できればかなりベター。

  • コンディション
    もちろん体調が良いほどいいテイクが出やすいです。
    水やのど飴など、収録中に口にするものや喉を調整するものも持っていきましょう。コーヒーとかはあまり喉によくないらしい。


MIX頼むときに必要なもの

  • オケ(カラオケ音源)
    レコーディングに同じく。
    そのまま納品に使用するので、16bit / 44.1kHz 以上のwavファイルでお送りください。数字は大きいほどいいです。mp3しかない場合はそちらで。

  • ボーカル音源
    自宅、および別のスタジオで収録した声のみのデータ。
    取り込んだ際にオケとズレるのを防ぐため、「頭出し」といって、オケと同じ長さでのファイル書き出しをお願いします。
    また、リバーブやコンプレッサーなどは一切かけず、録ったままの状態(ドライと呼びます)で書き出してください。
    こちらもそのまま納品に使用するので、16bit / 44.1kHz 以上のwavファイルで。主流は24bit / 48kHz だと思います。多分。
    音割れとか大きめのノイズはどうにもならないことも多いので、送る前に必ず通しで1度聴いてみてください!恥ずかしいとかは言いっこナシ!

  • 指示書
    こんな感じでMIXしてねを文字化した資料です。テキストで大丈夫です。
    完全お任せでも問題ないのですが、具体的にかけて欲しいエフェクトなどがあるなら後出しせず先に伝えちゃいましょう。リテイクは少ないほうがお互い楽しくやれます。
    できるのであれば通話が一番早いです。

  • リファレンス音源
    こんな感じでMIXしてねの参考にする音源です。
    ファイルで欲しいところですが普通に犯罪なので、youtubeのURLか各種サブスクのリンクでくださいませ。

  • 納期
    個人差ありますが、あった方が頑張れます。
    データを送ってから2週間以上はあるといいかもしれません。

  • 納品形式
    特に指示がなければ 24bit / 48kHz wavステレオで書き出します。
    ターゲットラウドネス値(音圧を数値化したやつ)もご指示いただければ対応します。

なんかこう、こういうメータを頑張って読んだりします

依頼の流れ

  1. 連絡を取る
    XのDMやEmail、ココナラなど様々ですが、依頼してみたいエンジニアに連絡してみましょう。ここが一番ハードル高いかも。
    大抵の人は実績や料金表を公開しているので、それを参考にしてみると良いと思います。

  2. 打ち合わせ
    レコーディングなのかMIXなのか、どっちもやるのか、納期はいつまでなのか、見積もりいくらなのか…など、必要な情報を擦り合わせます。
    テキストで済んでしまうこともありますし、人によりますがzoomなどでも対応しています。
    レコーディングも依頼するならこの段階で必要なものを送ります。

  3. レコーディングする
    エンジニアのスタジオ、もしくは自宅でレコーディングしましょう。
    MIXまでは依頼しない場合は、ここでボーカル音源をもらって支払いし、終了になります。

  4. データを送る
    ボーカル音源、FIX版のオケなどMIXに必要なものをエンジニアに送ります。

  5. MIX作業
    エンジニアが預かった素材をMIXします。

  6. 仮MIX送付
    完成形に近づいてきた段階で、一度依頼者に仮MIXをお送りします。
    エフェクトやバランスに問題ないか判断してもらいます。

  7. 修正作業
    仮MIXを聴いて、修正(リテイク)して欲しい箇所があれば伝えます。できるだけ1度でまとめて送ってもらえると助かります。
    プランによっては修正の上限回数が決まっているものもありますので、何回対応してもらえるのか聞いてみるのもいいかもしれません。ちなみに聞かれたら聞かれたでビビります。

  8. マスタリング
    修正対応した音源をマスタリングします。

  9. FIX
    お疲れ様でした。マスタリングも問題なければ、これで音源は完成です。

  10. お支払い
    お客様の喜ぶ顔と、この瞬間のために我々は頑張っています。
    支払い方法は人によりますが、領収書や請求書が必要なら伝えてみましょう。

もちろん進め方はエンジニアや要件によって変化しますが、大まかにはこんな感じではないでしょうか。


料金について

言及を避けていたわけではないのですが、避けては通れぬこの話題。
参考までに、自分の料金表を貼っておきます。

なんとなく相場をご存知の方なら分かるかと思いますが、結構相場より高めです。
多いのは1曲¥5,000くらいかな〜と思いますが、安ければクオリティが低いわけでもないし、高ければ必ずいい音源になってくるわけではないと思います。筆者はお金と責任は比例すると思っているので、時給¥3,000を目指すと自然とこうなりました。みんななんであんなに安いんだ…怖い…
正直なところ、あまりガチガチに相場感は決まりきっていないので、料金と実力が釣り合っていればいいと思います。


終わりに

いかがでしたか?(定型文)
網羅的に基礎知識を並べた記事となり、わかりにくかったとは思うのですがここまでお読みいただきいただきありがとうございました。
指摘があれば随時アップデートしていきたいとも思っておりますので、是非ともフィードバックなどいただけますと幸いです。

そして最後に、筆者もMIX・レコーディングエンジニアの端くれですので依頼をもらえると大喜びいたします。記事を読んだついでに頼んでみるか〜〜〜となった場合は、遠慮なくお声かけくださいませ。

それでは、皆さんに良い出会いがありますように!

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