【読書感想文】人類が知るべきあの医学に関する基礎知識とはこれ如何に?
感染症の猛威は収まらず…
2021年8月末現在でSARS-Cov-2が未だに猛威を奮っています。人類は感染症との戦いということを痛感します。そんな最中、書店に立ち寄ると気になるタイトルが↓
一見すると相談しづらいタイトル「性感染症 プライベートゾーンの怖い医学」(角川新書)の話になります。著者は尾上泰彦医師です。
尾上泰彦医師は、日本性感染症学会の功労会員を務め、厚生労働省のHIV研究に協力するなど、わが国における性感染症予防・治療を牽引している。クリニックには、日々多くの悩める患者が来院し、患者の不安を取り除こうとする親身な対応と、豊富な経験と知識をいかした的確な診断には定評がある。(時事メディカルより)
性感染症を専門とする医師が何を語るのか? プライベートゾーンに関する医学とは何なのか? あの伝説の動画配信番組的な逆修正バージョンで挑みたいと思います。
オトナの嗜みとして知っておくべき知識の数々
本書のキモは
ここ30年余りで簡単には治療できない性感染症が増えている。その恐ろしい現実を知り、予防法を学び、プライベートゾーン(水着で隠れる部分)を大切にすることは、感染症から身を守る術を学ぶことでもある。
ということで、あまり世間全般でおおらかに語られることがない性感染症を通して、人類の健康とは何かを考えるかです。
とはいいつつ、
・最初の方はみんなが気になる性感染症あれこれ
・性感染症に関する医学常識
というライトな感じで始まるかと思いきや、
・セックスの真実
の章がちゃんと設けられています。
人間の欲求には、食欲、睡眠欲、性欲とありますから、性欲に関する正しい情報を知らなければ、健康は保てないことを諭してくれます。
意外な事実…完全な性別とは?
また、本書では、
・性分化疾患(disorders of sex development、DSD)や性器の形態異常
についても、解説としては一般向けではありますが、丁寧に述べられています。
尾上医師も指摘していますが、DSDの問題に関して、日本では戸籍法の不備を挙げています。実臨床からの話なので説得力があるのですが、実際成長していく段階で"本当"の性別がわかることもありますが、その際に戸籍を修正するとなると記録に残ってしまう点を問題視しています。
染色体・外性器・心の"性"がすべて一致しないことを前提にした制度設計と差別がなくなる社会づくりが必要と感じました。
少しずつ
本書は、段々とシリアスな雰囲気になります。
もちろん、HIVの話もありますが、C型肝炎、ヒトパピローマウイルス(HPV)と子宮頚がん、成人T細胞白血病(ALT)とくれば、単に感染症の話で終わらせるのではなく、医学的な情報も心に留めておきたいです。
そして、超高齢化社会とは切っても切れない
・加齢とセックス
が語られます。
なぜ、閉経女性に淋菌感染症やクラミジアが少ないのか? 高齢者の性感染症は? などを優しく解説してくれます。
プライベートゾーンからヒトの一生を考えてみる?
本書では、副題となっているプライベートゾーン、いわゆるシモの話を決して隠すことなく、現代人の持つべき羅針盤のような内容が随所に盛り込まれていました。本書では、ヒトが生きていくために必要な呼吸器に感染するSARS-Cov-2と同様に、ヒトの生命をつなぐセックスに関する感染症を完全に防ぐことはできない事実に警鐘を鳴らしています。
プライベートゾーンだからと目を背けず、正しい知識を持ち、責任ある行動とこれからの課題に目配せできるオトナになる必要があるんだなと考えさせられた一冊でした。(了)