「こだわり」だけでは良いものは生まれない―『HIKE』 トークショーから①
こんにちは。「竹の、箸だけ。」に、こだわり続けてきた、熊本のお箸メーカー「ヤマチク」です。純国産の天然竹を人の手で一本一本刈り取り、削り、「竹の箸」を作り続けてきました。
ヤマチクがある南関町の隣町・玉名市には、『HIKE』(ハイク)というホステルがあります。ホステルだけでなく、地元食材を使用したカフェスペースや、手仕事による生活の道具を集めたショップも併設し、ワークショップなどイベントもたくさんやっている、すてきなお店です。
5月13日からは、熊本の伝統工芸である小代焼(しょうだいやき)を制作している、『小代焼 ふもと窯』井上尚之さんの個展が始まり、その初日にはトークショーが開催されました。
登壇したのは、『小代焼 ふもと窯』の井上尚之さん、『HIKE』の佐藤充さん、そして、『ヤマチク』から山崎彰悟。です。ふもと窯の器とともにヤマチクのお箸も使っていただいてるご縁でお声がけいただきました。
当日3人で話した、ものづくりの哲学や地域産業に携わって思うことなどをお伝えします。
熊本のものづくりに携わる3名による鼎談
HIKE・佐藤充さん
みなさん、こんばんは。HIKEの佐藤充と申します。『小代焼 ふもと窯』さんの展示会の初日である今日は、特別なトークショーを開催します。ゲストに、『小代焼 ふもと窯』の井上尚之さんと、『ヤマチク』の山崎彰悟さんをお呼びしています。
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
みなさん、こんばんは。たくさん来場されているのでちょっと緊張しますけど、『小代焼 ふもと窯』の井上尚之といいます。今日はよろしくお願いします。
ヤマチク・山崎彰悟
みなさん、こんばんは。隣の南関町で、竹のお箸だけを60年間作ってきた株式会社ヤマチクの3代目、山崎彰悟です。尚之さんの個展の初日イベントにお呼びいただいたので、みなさんが尚之さんに聞いてみたいようなことを質問していきたいなと思います。
焼き物のかっこよさを伝えるために
HIKE・佐藤充さん
『HIKE』に泊まってくれたお客さんに、ふもと窯さんへ行ってみるといいですよ、とおすすめするんですが、いつでも受け入れてくれるのがすごいですよね。このスタイルはなぜ?
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
僕はふもと窯の2代目なんですけども、そもそも焼き物自体に企業秘密がそんなにないし、そもそも同業者が見たところで完璧に真似できるものでもないんですね。ですから全部オープンにできるんです。
HIKE・佐藤充さん
同業者の方が来たらわかります?
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
一般のお客さんではないなと、なんとなくわかります。でもね、若い作り手や作陶をやっている子が来たら一生懸命説明します。焼き物は、仲間を増やしていかないと、どんどん減っていく職業なので、子どもたちとかにも焼き物ってかっこいいんだよって伝えられるように、一生懸命努力してますね。
身の回りのものすべてが参考作
ヤマチク・山崎彰悟
作ってる人が楽しいかどうかって大事ですよね。それこそ遊び心をものに込めたりとか。楽しんでいるのが伝わるから、ファンが増えるかなと思うんですよね。
一度、尚之さんに聞きたかったんですけど、作陶されるときに一番心がけているものってなんですか?
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
シルエットですね。使い勝手は一番にしていないです。というのも、気に入ったものには多分、人間の方が合わせられるから。アパレルショップで店員さんにおすすめされれて買った洋服を着なくなってしまったことが、みなさんもあると思いますが、自分が気に入った洋服のほうが体が合っていくような感覚があります。
器もそうで、かっこいいと感じたものは、始めは多少どうかなと思う点があっても、どんどん使いやすくなって、なじんでくると思います。好きに適うものはないですね。
ヤマチク・山崎彰悟
そのかっこいいシルエットを作るための基準のようなものはあるんですか?
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
あります。ほとんど美術誌のような書籍です。現物があれば一番いいんですけども。金城次郎(沖縄の陶芸家、人間国宝認定)の作品や昔のスリップウェアを見本にしたときは、たまたま熊本に本物を持っている人がいたので、何度も訪ねて見せてもらいました。
ヤマチク・山崎彰悟
やっぱり、過去の資料と現物とかのアーカイブなんですね。
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
尊敬する先輩たちの作品をそのまま真似すると怒られるので、その人が見本にしたものを参考にします。先輩たちの作品とその見本を比べて、自分なりのアレンジを加えて。こういうことをやっていたら、先輩たちのすごさも実感します。
HIKE・佐藤充さん
その他にも見本にするものはありますか?
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
何気ない子ども甩のプラスチックのお皿とかも「かわいい」と思ったら見本にします。
でもいずれにしても、見本がないと作らない、という決め事はあります。見本がなくてもできちゃった、というのが一番怖いんです。たくさんものを作っていると、慣れてないものが目の前に現れたときに「良いものができた」と勘違いします。そういうものは後から見返すと全然良くないんですが、この勘違いを繰り返すと作るものはどんどん悪くなっていくし、一度悪くなったものを元に戻すには、相当の努力が必要です。だから見本が大事なんですね。
言い訳しないものづくりを
ヤマチク・山崎彰悟
ものづくりに入ってきて、これまでにないものを作ろうとする人って、分野を問わず結構いますよね。なかったものが作れたとき、それを見せられた人たちは驚くんだけど、話題になっても続かなくて、結局、人の感性が追いつかないように思います。そういう意味で、見本はある種のゴールとして大事だと思います。
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
正直始めた頃は僕も、誰も作ってないものを、自分しかできないことを、と考えていましたが、蓋を開けて見ると昔からいろいろな人がやっていることの繰り返しになっていたりしますね。
HIKE・佐藤充さん
僕も妻もアパレル出身なんですが、洋服の型はもう50年代に出尽くしていて、それ以降は新しい型は生まれてない、と言われているのを思い出しました。
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
でも一番怖いのは、粘土にこだわってて、薪窯でやってますっていう、うちみたいなところですよね。変なこだわりを出して、自分で粘土を掘ってきて、薪を入れて、登り窯で……といろいろやっていると、良かろうが悪かろうが、できあがったものがかわいく見えてしまうので。そういうこだわりでワーッて評価されたもののなかに、本当に良いものがどのくらいあるのか。それよりも「こういう焼き物をきちんと出していきたい」という目標を持っている人たちのものの方が、僕にはうんと良いものに見えます。
HIKE・佐藤充さん
登り窯でやりたいという人は多いんですか?
小代焼 ふもと窯・井上尚之さん
多いですよ。登り窯をやりたいってうちに来た人には反対します。大変だし、登り窯でやること自体がゴールになってしまうから。僕の話になりますが、自分が器用じゃないのがわかっていたので、足で蹴って回す「蹴ろくろ」(けろくろ)は使わずに、電気ろくろで上手に作ることを目標にしています。多分蹴ろくろに座ったら、下手に歪んでていても「これ蹴ろくろだから」と手法を言い訳にしそうな気がしたので。
→後編
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