【薬剤師】アドヒアランスを向上させるための工夫について
こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。
患者に薬をきちんと飲んでもらうことは、薬剤師の使命とも言えます。
しかし、その一方で、「どんなに一生懸命説明しても、患者が薬をきちんと飲んでくれない」「分かりやすく指導せんやお薬手帳を記入しているのに、いつも服薬漏れがある」と悩むこともしばしばあります。
そこで、薬物治療を行う上で患者と良好な関係を築いていくためには、「アドヒアランスの向上」を目指すことが重要です。この記事では、アドヒアランスについて、まとめます。
1.「コンプライアンス」と「アドヒアランス」の違い
コンプライアンスとは、「服薬遵守」と訳され、患者が決められたとおりに正しく薬を服用することを指します。
その一方で、アドヒアランスとは、患者が主体的に各々の治療に取り組むことを指し、薬の効果や副作用について十分な説明を受け、納得した上で、患者自身が主体的・能動的・積極的に服薬を履行することを意味します。
コンプライアンスは医療従事者から患者に対する一方的な指示であるのに対し、アドヒアランスは患者自身が治療の選択や決定に携わることが特徴です。
以前はコンプライアンスが重要視されていましたが、最近ではアドヒアランスの方が注目されるようになりました。治療を受ける患者本人が積極的に参加し、服薬の意義を理解することで、高い治療効果が期待できます。患者は治療を受けるものではなく、担うものになりつつあるのです。
アドヒアランスやコンプライアンス以外にも、「コンコーダンス」という考え方があります。直訳すると「調和」や「一致」という意味です。コンコーダンスが発祥したイギリスでは、「患者との協力関係に基づく、薬の処方と使用のプロセス」として定義されています。
アドヒアランスやコンプライアンスはいずれも「患者が治療法にどれほど従っているかをあらわす概念」であるのに対して、コンコーダンスは「医療従事者と患者のパートナーシップを基盤として、両者の考えを尊重しあうこと」に主眼を置いており、「患者の主体性」を認めていることが特徴です。
イギリス以外ではコンプライアンスやアドヒアランスが広く用いられていますが、コンコーダンスもまた、重要な考え方の一つです。
2.アドヒアランスの不良がもたらす結果とは
アドヒアランスがうまくいかなかった場合、どのような結果をもたらすのでしょうか。
(1)治療効果を正しく評価することができない
適切な医療を行うためには、患者の状態を正確に把握して、治療計画を立てることが重要です。患者自身が治療に積極的に参加して、服薬の意義を理解することが求められます。
医師は患者がきちんと薬を飲んでいることを前提に処方を行うので、アドヒアランスの不良によって服薬がきちんと行われていないと、治療効果を正しく評価することができません。ときには今の用量では不十分と考え、必要以上の薬を処方してしまうこともあります。
(2)副作用が増える
薬は、用法用量を守り正しく服用することで、期待された効果を発揮します。アドヒアランスの不良により間違った方法で服薬が行われると、思わぬ副作用が起こる可能性があります。薬によっては継続的に服用しないと効果があらわれないものや、安全域が狭く用量調節が難しい薬も多いので、注意が必要です。
また、副作用を経験することで患者の薬物治療に対する不信感がつのり、さらにアドヒアランスが低下するという負のスパイラルをまねくこともあるため、アドヒアランスの向上は必要不可欠です。
(3)医療コストがかさむ
アドヒアランスの不良によって服薬がきちんと行われないと、期待された効果が発揮されません。疾患の多くは、発症初期に適切な治療を行うことができれば、予後が悪くなることは多くはありません。
しかし、服薬漏れがあると症状の悪化や再燃・再発を引き起こし、さらなる治療が必要となってしまうこともあります。例えば脳疾患や心疾患などを予防するための投薬の場合、重篤な症状を引き起こし、永久的に治療が必要となる場合もあります。患者本人がつらい思いをすることはもちろんのこと、同時に医療コストもかさんでしまいます。
3.アドヒアランス改善のために薬剤師ができること
アドヒアランスの重要性はご理解いただけたかと思いますが、すべての患者が自ら服薬管理をして、アドヒアランスを保つことは容易ではありません。
実際にアドヒアランスを改善するためには、どのような方法があるのでしょうか。ここでは薬剤師の立場から、患者に伝えるべきことはなにか、どんなことを聞き取るべきなのかなど、アドヒアランスの向上をはかるためにできることの具体例をご紹介します。
(1)服薬の問題点を見つけ出す
「なぜ薬を飲めていないのか」「何が服薬を妨げているのか」という問題点を掘り起こすことも、薬剤師の重要な役割です。アドヒアランスを低下させる原因を見きわめ、改善策を探りましょう。嚥下力に問題がある場合にはOD錠や散剤への剤形変更をしたり、飲み忘れがある場合には一包化やお薬カレンダーの使用を提案するなど、職能を生かして問題解決を目指しましょう。
(2)服薬の必要性を正しく理解してもらう
アドヒアランスにおいて重要なのは、服薬の意義をきちんと理解し、納得してもらうことです。一方的な指示だけでは、患者の理解を得ることは難しいでしょう。「そもそもなぜ飲む必要があるのか」「飲まないことでどんなリスクがあるのか」をきちんと説明して、患者本人にも治療に積極的に参加してもらいましょう。
(3)複雑な処方を避け、服薬の簡略化を目指す
服薬アドヒアランスの低下をもたらす要因の一つとして、服薬の難しさや煩わしさが挙げられます。薬は基本的には毎日飲まなくてはならず、服用回数が多いことや複雑で難しいことは、物理的・心理的にも負担となってしまいます。不要な薬剤を減らす、配合錠に置き換える、用法をそろえるなど、処方に変更の余地がある場合には、積極的に提案するようにしましょう。
(4)薬の管理を患者だけに任せず、周囲に協力してもらえる環境をつくる
アドヒアランスが低下している患者の特徴の一つとして、自分ひとりで薬の管理をしているということが挙げられます。たとえば、高齢の患者さまの服薬治療は日常生活において負担が大きく、周囲のサポートが必要不可欠です。患者が抱えている問題や悩みを家族で共有し、その解決策を一緒に考えましょう。患者本人だけでなく、家族にも服薬治療の意義を理解してもらうことが重要です。
(5)患者が本音で薬剤師と向き合えるよう、良好な関係を築く
アドヒアランスを高めるためには、患者と医療従事者との間に良好な関係性を築けているかが重要になってきます。時間をかけて話をよく聞き、くり返し丁寧に説明するなど、相手の立場に立ったコミュニケーションを心がけましょう。一方通行になるのではなく、対話によるコミュニケーションを意識して、患者がいつでも本音で薬剤師と向き合えるような、顔の見える関係を築いていくことが大切です。
4.ケーススタディー
飲み忘れを防止するためには、薬物治療の専門家である薬剤師の活躍が期待されています。ここでは、飲み忘れ防止のために薬剤師ができる対処法について、具体例を挙げながら解説していきます。
(1)錠剤が多く飲みにくい
薬の種類や飲む回数が増えると、飲み忘れや飲み間違いのリスクが高まります。薬を飲むこと自体を苦痛に感じている場合、服薬コンプライアンスはさらに低下してしまいます。そんなときには、「かかりつけ薬剤師制度」を利用して、服用している薬剤の整理を行いましょう。
不必要な薬剤の減薬提案に加えて、配合剤や徐放化製剤を利用し、できるだけ錠数や飲む回数を減らすように工夫します。複数の医療機関を受診している場合には、一包化によって服用薬をまとめることもおすすめです。
しかし、以下の通り、一包化調剤に適さない医薬品もあるので、注意が必要です。
麻薬
理由:症状に応じて薬用量の調節が必要なことが多い。また、調剤ミスがあった場合、法的手続きに手間がかかる
光に不安定な医薬品
例:アミオダロン(アンカロン🄬)、フィトナジオン(ケーワン🄬)、フロセミド(ラシックス🄬)、プロプラノロール(インデラル🄬)、ワルファリン(ワーファリン🄬)
対策:遮光袋に入れる
温度に不安定な医薬品
例:口腔内崩壊錠、アカルボース(グルコバイ🄬)、L-アスパラギン酸カリウム(アスパラカリウム)、アモキシシリン・クラブラン酸配合錠(オーグメンチン🄬)、スボレキサント(ベルソムラ🄬)、ダビガトラン(プラザキサ🄬)、フェンタニル(イーフェン🄬)
対策:乾燥剤を添付する
湿度に不安定な医薬品
例:シクロホスファミド(エンドキサン🄬)、メナテトレノン(グラケー🄬)
対策:涼しい場所で保存する
症状に応じて自己調節の指示が多い医薬品
例:下剤、鎮痛消炎剤
(2)服用することをついつい忘れてしまう
「服用するのをつい忘れてしまうから」という理由は、すべての世代で高い割合を占めていました。とくに服用回数が多い薬は、飲み忘れのリスクもさらに高まります。また、高齢者においては加齢によって記憶力や認知機能の低下が影響している可能性もあるでしょう。
そうした場合には、服薬カレンダーやお薬アラームの活用がおすすめです。服用する薬を、日常生活で目につきやすい場所に日にちごとにセットしておけば、薬の飲み忘れを減らす効果が期待できます。また、近年ではスマートフォンのアプリを利用した服薬管理も注目を集めています。
(3)自己判断による服薬中止
薬の飲み忘れを引き起こす原因のひとつに、自己判断による服薬中止が挙げられます。とくに服薬による効果が感じられない場合や、症状が一時的に改善された場合には、服用をやめてしまうケースが多いと言われています。そんなときには、服薬アドヒアランスを向上させることによって、患者さまの積極的な治療への参加を促しましょう。
「薬の服用がなぜ必要なのか」「服用によるメリットや中止によるデメリットにはどのようなものがあるのか」を患者さまに理解してもらうことが重要です。理解が得られない場合には、時間をかけて話をしたり、丁寧に説明したりするなど、適切な方法を実施しましょう。
5.まとめ
この記事では、患者の薬の飲み忘れを防ぐために、薬剤師にどのようなことができるのかを解説しました。薬によっては1日に複数回の服用が必要なものや、起床時、空腹時など、特別なタイミングに服用しなければならないものもあります。一度に多くの薬を飲まなくてはならない場合どうしても飲み忘れてしまうものです。
しかし、どれほど優れた薬であっても、正しく飲まなくてはその効果は発揮されません。患者が薬をきちんと飲んでくれないことに悩むときは、まずアドヒアランスの改善を目指していきましょう。服用の方法をただ伝えるのではなく、服薬の意義を伝えることが重要です。
また、薬の飲み忘れは期待した治療効果が得られないだけでなく、副作用や医療コストの増大にもつながる恐れがあります。薬剤師による服薬指導を通して、患者のアドヒアランスを高め、薬物治療をより良くしていくことが求められているのです。
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