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【薬剤師】飲酒、喫煙と健康について

こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。

体操女子の日本代表の宮田笙子選手(19)が飲酒と喫煙行為によりパリオリンピックの出場を辞退しました。特に学生において、夏休みは気持ちが開放的になりがちですが、20歳未満の人の飲酒や喫煙には、特に気をつける必要があります。

今回は、飲酒と喫煙が健康に及ぼす影響についてまとめたいと思います。


1.飲酒が健康に及ぼす影響は

飲酒が認められる年齢は国によって異なりますが、体の機能が発達段階にある若年者がアルコールを摂取すると、さまざまな問題が生じます。順を追って、その悪影響を説明します。

(1)脳に悪影響が及ぼされる

脳は20歳くらいまで発達段階にあるとされています。発達過程にある時期にお酒を飲み始めると、脳の「海馬」が縮小し、記憶力が低下してしまいます。それによって、学習に支障が出たり、就労に問題が生じたりします。

感情のコントロールをつかさどる「前頭葉」という部分にも影響が出ます。すぐに怒ってしまったり泣いてしまったりしてしまうようになります。性格も変わってしまうかもしれません。そうなると、対人関係に影響が出てしまいます。

(2)将来、アルコール依存症になりやすい

20歳未満で飲酒の習慣がつくと、将来、アルコール依存症になりやすくなると考えられています。はっきりとした要因は分かっていませんが、若い人が飲酒をすると、報酬系のホルモンである「ドーパミン」の働きに影響が出やすいのではないかと考えられています。アルコールの量がそれほど多くなくても、「もっと欲しい」と脳が要求するようになり、我慢できなくなります。

アメリカの報告では、15歳以前に飲酒を始めた人は、21歳まで飲酒をしなかった人よりもアルコール依存症を発症するリスクが4倍高かったといいます。なお、アメリカでは現在、21歳にならないとお酒は飲めません。

また、肝臓でアルコールを分解する機能が発達段階であるため、運ばれてきても、完全に分解されるとは限りません。分解されないまま血液の流れによって全身を巡ると、様々な臓器に悪影響を及ぼします。将来的に、高血圧や脂肪肝などといった生活習慣病や、発がんのリスクが高まる恐れもあります。若年者は肝臓の分解機能が未発達であるため、少量のアルコールでも大人がたくさん飲んだのと同じくらい、体がダメージを受けます。

(3)性機能が低下する

長い間、たくさんのお酒を飲み続けることで、性ホルモンの分泌に異常が生じます。男性であれば、勃起不全になるなどの影響が生じます。女性は、アルコールが作用することで月経不順になったり排卵がなくなったりする可能性があります。思春期であれば二次性徴の遅れにもつながります。

2.喫煙が健康に及ぼす影響は

公共施設における禁煙化、分煙化が進む一方で、タバコが与える健康被害への認識はまだ充分とは言えません。喫煙が細胞をがん化させていくプロセスや受動喫煙の怖さ、そして妊娠中の喫煙が胎児や乳幼児に及ぼす危険など、タバコが与える健康への悪影響をまとめていきます。

(1)発がん性

タバコは百害あって一利なしと言われる通り、さまざまな病気を引き起こします。その最たるものががんです。

タバコの煙には200種類以上の有害物質が含まれており、そのうち約60種類に発がん性があるとされています。これらの有害物質は肺がんをはじめ、さまざまな部位のがんのリスクを高めます。

(2)心疾患、脳血管疾患

心筋梗塞や脳梗塞などの発症には、食事や運動などさまざまな生活習慣が関わっていますが、中でも非常に重要な危険因子と言われているのがタバコです。タバコには、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)を増やし、HDL-コレステロール(善玉コレステロール)を減らす作用や、血圧を上昇させる作用などがあり、これらの作用により動脈硬化が進み、狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患などのリスクが高まるといわれています。

(3)COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDは、別名「タバコ病」ともいわれるほど、タバコと関連の深い病気です。COPDでは、タバコの煙などの有害物質を吸い込むことによって、咳や痰が続いたり、階段を上るだけで息が切れたりする症状が慢性化します。症状が悪化すると息切れによって日常生活が困難になり、最悪の場合は死に至るケースも少なくありません。

(4)受動喫煙

タバコを吸わない人が、自分の意思とは関係なくたばこの煙を吸い込んでしまうことを「受動喫煙」といい、受動喫煙による健康被害は喫煙者のものを上回ると言われています。タバコの煙には、喫煙者本人が吸う「主流煙」と、吐き出す「呼出煙」、たばこの先から立ち昇る「副流煙」の3種類があり、有害物質が最も多く含まれているのが副流煙です。受動喫煙では、この副流煙と呼出煙が混ざった煙を吸わされているのです。

3.飲酒、喫煙と法規制

現在、20歳未満の飲酒と喫煙は法律で禁止されています。2022年に民法改正によって成人年齢が18歳以上に引き下げられた後も、これは変わっていません。

この法律の立法趣旨は、飲酒と喫煙による未成年者への健康被害と非行の防止です。違反して罰則が科せられるのは、20歳未満と知りながら飲酒や喫煙を制止しなかった親権者や監督者、提供した販売者に対する罰金刑を課す反面、飲酒や喫煙をした20歳以下の違反者自身に対する罰則はタバコ製品や喫煙具などを没収するだけにとどまっています。

これは、飲酒や喫煙の悪影響やリスクから未成年者を守り、違反者の更生を期しているためとされていますが、罰則が軽くても違法は違法です。

今回のケースでは、強いプレッシャーがかかっていたから飲酒したりタバコを吸ったりした、という本人の説明は説得力に欠けます。なぜならば、プレッシャーを軽減させるためには、過去に飲酒や喫煙によってプレッシャーが軽減されたという経験がないと手を出さないと考えられるからです。そのため、今回限り1回だけだったという協会の説明にも疑問が残ります。

もちろん、上記法律にあるように、喫煙や飲酒を勧めた人にも大きな責任があります。しかし、飲酒習慣や喫煙習慣はアルコール依存、ニコチン依存によってもたらされ、いくらプレッシャーにさらされたからといって、それまで吸ったことのない人がいきなり手を伸ばすことは考えにくいです。

重圧のかかるトップアスリートのメンタルヘルスとその管理は重要ですが、飲酒や喫煙によってメンタルヘルスを健全に保ち、管理できるという証拠はありません。アルコール依存、ニコチン依存になるとそれらの化学物質の欠乏によるストレスがかかり、飲酒や喫煙によってそれが解消され、あたかもプレッシャーから解放されたように感じるだけです。

また「たかがお酒」「たかがタバコ」でオリンピックに出場できなくなるのは処罰が重すぎる、という声も多いです。しかし、タバコは受動喫煙という形で他者危害も生じさせます。受動喫煙による1年間の死者は1万5000人と見積もられ、これは飲酒運転による死亡数(年間、百数十人)よりもはるかに多いです。

依存症については、そもそも依存症にならないことが大切です。依存症は主に脳の報酬系に対する刺激によって生じる障害であり、脳の報酬系に依存的な回路ができてしまうと依存症から離脱することが難しくなります。

タバコに含まれるニコチンは強い依存性のある薬物で、喫煙を始めた年齢が早いほど依存度が強くなり、禁煙するのが難しくなります。こうしたことからも20歳未満の喫煙は法律で禁止されていて、喫煙期間はその後のタバコ関連疾患の発症と関係するから、長くタバコを吸うことで肺がんやCOPDなどにかかるリスクが高まります。

ではなぜ「たかがお酒」「たかがタバコ」という昭和脳の発言が出てくるのでしょうか。発言者をみてみると中高年の男性が多いようです。この世代の男性喫煙率はまだ30%前後と高く、喫煙所問題にあらわれているようにタバコに関して寛容な人も少なくないです。

そもそも日本は行政府のトップや立法府の議員の遵法意識がかなり低いです。日本政府も一緒になって策定したタバコ規制の国際条約(WHO FCTC)がありますが、自らが決めた条約の内容も履行できず、JT(日本たばこ産業)やアイコスのフィリップモリス、グローのブリティッシュアメリカンタバコなどタバコ産業の影響力を排除できない日本政府の態度が象徴的です。

これでは率先垂範のモデルには到底なれないし、代表を辞退した選手に示しがつきません。私は、日本社会には特に男性による昭和の価値観や体制、勢力がゾンビのように残っていて、それがいろいろな問題解決の邪魔をしているのだと考えています。

一方、今回の問題では、日本体操協会の迅速な対応に評価があがっています。2021年に就任した藤田直志日本体育協会会長は、日本航空出身で同社では健康経営担当役員でしたし、社内の禁煙推進化に尽力してきたようです。日本体操協会のスポンサーには、JT(日本たばこ産業)の完全子会社テーブルマークが入っているが(厳密にはこれもFTCT違反)、スポンサー企業への忖度などを感じさせない対応でした。

よく「健全な精神は健全な肉体に宿る」などと言われます。しかし、これは誤訳とされ、本来の意味は「健全な精神が健全な肉体に宿ればいいのになぁ」という願望であり、実際はそうではないという反語的な言葉とされています。

一罰百戒。パリ五輪代表を辞退した選手はさぞ無念でしょうが、20歳未満の喫煙や飲酒を禁止した法律の趣旨をよく理解しつつ、この経験を糧にし、日本代表として恥ずかしくない選手として今後の活躍を期待したいです。

4.喫煙をやめるには

(1)たばこをやめれば病気のリスクはどんどん減る

喫煙期間が長いほど、また喫煙本数が多いほど、タバコの害による病気のリスクは高くなることが分かっています。しかし、禁煙を実行すれば、病気のリスクは確実に減っていきます。禁煙して5年後には脳卒中のリスクが非喫煙者のレベルまで下がり、10年後には肺がんで死亡するリスクが半減します。さらに禁煙15年後には、虚血性心疾患のリスクが非喫煙者のレベルまで下がるといわれています。

今からでも決して遅くはありません。喫煙習慣のある人は、自分のためであることはもちろん、家族や周囲の人を巻き込まないためにも、禁煙を実行しましょう。とくに血圧、中性脂肪やLDL-コレステロールなどの脂質、血糖値などの健診結果が基準よりも高い場合は、直ちに禁煙を実行しましょう。まずは、検査結果を確認してみましょう。

(2)禁煙を成功させるコツ

禁煙を始める前に、まずは上記のような喫煙による健康への影響を正しく理解し、禁煙するとどんなメリットがあるのかをじっくり考えてみましょう。禁煙を実行するときは「1本も吸わない」ことが大切です。節煙などといって本数を減らしたり、軽いたばこに替えたりする人がいますが、これでは禁煙の効果はありません。ただし、「一生、吸わないでいよう」などと思うと心の負担が重くなるので、「今日1日は1本も吸わない」という気持ちで禁煙をスタートし、吸わない日を少しずつ増やしていきましょう。

長年の喫煙習慣により重度のニコチン依存症に陥っていると、自分の意志だけで禁煙するのは難しい場合もあります。そのような場合は、ニコチンガムやニコチンパッチなどの禁煙補助剤を利用するのも1つの方法です。

また、最近は医師による禁煙指導が受けられる禁煙外来もあります。禁煙外来では、自分に合ったアドバイスが受けられるとともに、禁煙の治療薬であるバレニクリン(チャンピックス®)が処方され、禁煙の成功率が高まると言われています。

5.まとめ

年齢に限らずですが、飲酒や喫煙をすると気分が良くなり、ストレスから解放される側面があります。しかし、酔いから覚めるとその反動で、気持ちが落ち込み、かえって不安が強くなったり抑うつ状態になったりすることもあります。最悪なケースでは自死につながります。

ストレスを発散させるために飲酒や喫煙をするということは、様々なリスクを伴う場合もあります。今回の一件では、プレッシャーが飲酒や喫煙につながったかどうかは分かりませんが、一般論として、ストレスの発散方法は複数持っておくとよいでしょう。

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