【薬剤師】薬ができるまでについて
こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。
私たちは毎日のように薬を取り扱います。しかし、その薬が世の中に出るまでにどのような工程を経ているか、意外と知らない方が多いかもしれません。
長い期間を通して、「薬のタマゴ」を探したり非臨床試験や臨床試験を行ったりといくつもの段階があります。
今回は、薬ができるまでの工程と期間についてまとめたいと思います。
1.国内における新薬開発の動向は?
医薬品の開発には9~17年もの期間、そして数百憶~数千億円規模の費用が必要になります。一方で、これだけ多くの時間と費用を投じても成功確率はごくわずかです。さらにその確率は年々低下傾向にあり、2008年は1.6万分の1だった成功確率は、2018年には2.5万分の1に下がっています。
このような状況を鑑み、厚生労働省では大きく2つの対策を打ち出しました。1つは「臨床研究の実施体制の整備」です。具体的には、医師主導治験や国際水準の臨床研究の中心的な役割を担う病院を臨床研究中核病院として医療法上に位置付け、革新的医薬品や医療機器の開発などに必要となる臨床研究の推進を狙っています。また、臨床研究法を成立させ、臨床研究の透明性向上や信頼確保を図っています。
2つ目は「CINを活用した臨床研究の推進」。CIN(クリニカル・イノベーション・ネットワーク)は、疾患登録システム(患者レジストリ)に蓄積された情報を活用するため、関係機関でネットワークを構築し、産学連携によって治験コンソーシアムを形成させる構想です。CIN構想によって、治験や臨床研究をはじめとした医薬品・医療機器の研究開発の効率化を目指しています。
新薬や新医療機器の開発コストが世界的に高騰するなかで、開発の低コスト化や効率化を図りながら、質の高い臨床研究を推進していくことが国をあげた喫緊の課題となっています。
2.【薬ができるまで】①基礎研究(2~3年)
薬を作るための第一歩は薬のもととなる物質を探す「基礎研究」で、2~3年ほどの時間が必要です。天然素材から成分を抽出したり、バイオテクノロジーなどを用いて化合物を作ったりして、出てきた物質の調査を繰り返し行い徐々に候補を絞っていきます。
具体的な工程は以下の通りです。
(1)患者の状態について詳しく調べる
薬のもととなる物質を探すため、まずは対象となる病気の患者がどのような症状に苦しんでおり、どのようなことを求めているのかを詳細に調べます。患者を理解することは、本当に必要な薬を考えるうえで欠かせない工程です。
(2)病気のメカニズムを研究する
続いては対象となる病気の調査です。病気のメカニズムを研究し、治療のために狙うべきターゲットを調べます。そのうえで、ターゲットに反応する物質は何なのかを探していきます。
(3)候補をしぼる
長年の研究によって、もととなる物質の候補は各製薬企業に膨大な量が保管されています。そのなかから候補をしぼったうえで、試験と検証を繰り返し行うことが必要です。そして、さらに絞り込まれた物質のうち、安全性や有効性が高いものを選出して非臨床試験に進みます。
3.【薬ができるまで】②非臨床試験(3~5年)
物質の候補を見つけたら、薬として効果が発揮されるかどうか動物や細胞を用いて有効性と安全性を確認します。これは「非臨床試験」と呼ばれ、3~5年ほどの期間を費やします。
具体的には以下のような工程で進んでいきます。
(1)薬物動態試験
薬の候補である物質が体内に入り、体外へ排出されるまでの動きを確かめます。どんなに良い物質でも、吸収が悪かったり代謝が良すぎたりすると薬として良い治療効果を発揮できません。また、ほかの薬との相互作用も検証し、より安全かつ効果が期待できるよう改良を繰り返します。
(2)薬理試験
薬理試験は、薬として効果が発揮できるか確認する試験です。薬の使用方法や効果を出すために必要な量などを試験するほか、効果検証に最適な試験の方法についても検討します。環境や条件を変えて繰り返し行うことも欠かせません。
(3)安全性試験
薬が体内で実際に効果を発揮できるか、医療現場で安定して使えるかなどを検証するものです。具体的には、水や脂にしっかりと溶けるかの確認や、温度や湿度など外部環境の変化にある程度耐えられるかなどを見ていきます。
(4)毒性試験
毒性試験は、患者に使用した際に、副作用などの有害事象が起きないかを確かめる試験です。細胞や生理機能への作用、発がん性の有無、毒性の有無などを調べ、少しでも問題があれば改良を行うといった工程を繰り返し行います。患者に安全な薬を届けるために、非常に重要な工程と言えるでしょう。
4.【薬ができるまで】③治験(3~7年)
次は、人体への有効性・安全性を確認するために、治験を行います。同意を得た患者や対象者に投薬を実施してデータを集め、問題なく世に出せるかどうかを確認していきます。臨床試験は3段階のフェーズに分かれ、3~7年をかけて繰り返し試験を行います。
各フェーズについて、詳しくは以下の通りです。
(1)フェーズⅠ:第Ⅰ相試験(臨床薬理試験)
第Ⅰ相試験では一部の薬を除き、基本的に少人数の健康な成人に対して投薬が行われます。少量から少しずつ量を増やしていったり、一定量を定期的に投与していったりする方法が一般的です。
血液や尿などに含まれる物質の量から、体内への吸収時間と排泄時間を確認し、薬の安全性や有効性などを調査していきます。
(2)フェーズⅡ:第Ⅱ相試験(探索的試験)
第Ⅱ相試験は、前期試験と後期試験に分けられます。前期試験では、少人数の比較的症状の軽い患者を対象に、適応する疾患の範囲や適切な用法用量について調べていきます。後期試験では、数百人ほどの患者を対象に、有効性や副作用などについて調査します。
前期試験から後期試験にかけては、徐々に投薬量を増やしていきます。複数の用量で時間をかけて投薬量を変化させることで、どの用法用量がもっとも適切かを確認します。なお、第Ⅱ相試験では、薬の治療効果を明らかにするためにプラセボを使用することも一般的です。
(3)フェーズⅢ:第Ⅲ相試験(検証的試験)
第Ⅲ相試験は、数百人から数万人までの規模の患者に対して行います。実際の治療を想定した投与を行い、最終的な有効性や安全性、用法用量の確認を行います。すでに使用されている既存薬がある場合は比較し、既存薬がない場合はプラセボとの比較を行うのが一般的です。
なお、この段階では対象となる疾患だけでなく合併症を抱える患者を対象にしたり、長期的な試験を行ったりすることもあります。また、バイアスがかかることを避けるため、医師も患者も投薬される薬が治験薬かプラセボかわからないようにする二重盲検法が行われる場合も多くあります。
5.【薬ができるまで】④承認申請
臨床試験で有効性や安全性などが確認できたら、厚生労働省に販売の承認申請を行います。実際の審査は独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)によって行われ、そのあと薬事・食品衛生審議会で審議される流れです。これらを経て、厚生労働省によって医薬品として問題ないという承認を得られると、ついに製造・販売が可能になります。
6.【薬ができるまで】⑤薬が市場に出てから
医薬品は、ひとたび承認されれば、その後は漫然と使い続ければ良いといものではありません。新薬の承認時までに得られる情報には、症例数、投与期間、患者の多様性など、様々な観点から限界があります。そのため、製造販売後の実地医療のもとで安全性情報などを収集し、必要な安全対策を講じていくことは、よい医薬品を長く安全に使用していく上で重要です。
(1)データ収集
再審査
既承認の医薬品と有効成分、用法・用量、効能・効果などが明らかに異なる医薬品として、厚生労働大臣がその承認の際に指示したものを新医薬品と言います。
再審査制度は、新医薬品を対象にして、以下の理由から、承認後一定期間が経過した後に、企業が実際に医療機関で使用されたデータを集め、承認された効能効果、安全性について、再度確認する制度です。
1.治験の症例数には限りがあり、市販後多くの患者に使用された場合に未知の副作用が発現する。
2.治験では、患者の症状、年齢、併発している疾病、使用量、併用薬などがコントロールされているのに対し、治験での使用法と実際の医療の場での医薬品の使われ方が同じでない。
再評価
一度、承認された医薬品であっても、年月の経過とともに、現在もっと効果の高い薬、安全性の高い薬が発売され、存在価値がなくなったり、現在の評価基準では有用性が認められないことがあり得ます。
再評価制度は、既に承認されている医薬品について、現時点の医学・薬学等の学問水準に照らして、品質、有効性及び安全性を確認する制度です。新医薬品だけでなく、すべての医薬品が対象となる可能性があります。
(2)安全対策
市販直後調査
新医薬品がいったん販売開始されると、治験時に比べてその使用患者数が急激に増加するとともに、使用患者の状況も治験時に比べて多様化することから、治験段階では判明していなかった重篤な副作用等が発現することがあります。このように新医薬品の特性に応じ、販売開始から6か月間について、特に注意深い使用を促し、重篤な副作用が発生した場合の情報収集体制を強化する市販直後調査は、市販後安全対策の中でも特に重要な制度です。
企業報告制度、感染症報告制度
医薬品などの製造販売業者が、自社の医薬品などに関する副作用および感染症について、厚生労働大臣へ報告する制度です。ただし、報告の受理は厚生労働大臣から独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に委託されています。
医薬品安全性情報報告制度
副作用、感染症の発生を知り、危害発生・拡大防止の必要があると認めるとき、医薬関係者(薬局開設者、医療機関の開設者、医師、薬剤師など)に対して厚生労働大臣へ報告する制度です。ただし、報告の受理は厚生労働大臣から独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に委託されています。
7.まとめ
今回は、薬が世に出るまでの流れについて詳しく解説しました。日本では9~17年もの年月、そして数百億~数千億という費用をかけて薬の開発が行われています。薬のもととなる物質を探す基礎研究から非臨床試験および臨床試験、そして厚生労働省への承認申請までの各工程をご理解いただけたでしょうか。
薬剤師には様々な働き方があり、今回ご紹介したように製薬に関わる企業で働くことも一つの選択です。薬局やドラッグストアなどとは業務内容が異なりますが、新しいキャリアへの道が開けるかもしれません。興味のある方は、転職コンサルタントへ相談してみるとよいでしょう。
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