【薬剤師】経口避妊薬、緊急避妊薬について
こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。
避妊や月経困難症は、女性であれば誰もが経験する可能性のあることで、月経困難症で悩むの患者の数は800万人を超えるといわれています。しかし、治療を受けている方の数は少なく、病気への理解が得られていないのが現状です。
薬剤師においても、病院の婦人科やその門前薬局で働いた経験がなければ、関わる機会はそう多くありません。
今回は、経口避妊薬(ピル)と緊急避妊薬(アフターピル)についてまとめたいと思います。
1.経口避妊薬とは
国連の発行している「避妊法2019」のデータによると、欧米の経口避妊薬(ピル)内服率が数十%程度であるのに対して、日本はわずか2.9%とあまり普及していないのが現状です。その理由として、そのメリットが十分に認知されていないことがあると思います。
そこで、経口避妊薬(ピル)のメリットや注意点などを説明したいと思います。
経口避妊薬(ピル)とは、月経・排卵周期をコントロールすることで避妊効果などを得ることができる経口薬のことです。女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)を含み、以下の作用機序によって避妊効果を発現します。
排卵の抑制
子宮頚管粘液の性状の変化(精子の子宮内侵入を抑制)
子宮内膜の変化(受精卵の着床抑制)
しかし、経口避妊薬(ピル)は近年では避妊だけではなく、さまざまな目的で使用されています。期待できる効果は次のものが挙げられます。
月経不順の改善
PMS(月経前症候群)の改善
生理周期の調節
月経痛、過多月経の改善
卵巣がん、子宮体がんの予防
ニキビなどの肌荒れの改善
ただし、その使用には以下のリスクもあります。
血栓症(特にタバコとの相互作用に注意)
頭痛
実際、経口避妊薬(ピル)は以下の人に禁忌であるとされています。
50歳以上または閉経している方
35歳以上で1日15本以上たばこを吸っている方
前兆のある片頭痛がある方
血栓症の既往がある方
家族に血栓症の人がいて遺伝的に血栓が起きやすい体質の人
過去に肺梗塞・脳梗塞・心筋梗塞など血栓症を起こしたことがある人
コントロールできていない高血圧・糖尿病・高脂血症がある人
妊娠中や授乳中の方
2.経口避妊薬の種類
国内でも様々な経口避妊薬(ピル)が使用されていますが、成分や目的に応じて6種類に分かれます。
(1)高用量ピル
高用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が1錠中50μgより多い製品です。ピルが使用され始めた1960~1970年代は高用量ピルが主流でしたが、静脈血栓塞栓症(VTE)や心筋梗塞などの深刻な副作用が起こりやすいといわれています。1970年にFDA(アメリカ食品医薬品局)は、EEの含有量を50μg未満にすべきという勧告を出し、現在ではほとんど使われていません。
(2)中用量ピル
中用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が1錠中50μgの製品です。おもに月経移動や月経のリセットなどの用途で用いられます。しかし、前述のFDA(アメリカ食品医薬品局)の勧告によって卵胞ホルモン(エストロゲン)の低用量化が図られるようになり、現在では低用量あるいは超低用量ピルが主流です。
(3)低用量ピル
低用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が1錠中50μgより少ない(30μg~35μg)製品のことを指しています。海外では一般的に利用されており、日本国内でも月経困難症の症状改善や避妊を目的として使われる製品です。なお、月経困難症の使用では保険が適用されますが、避妊目的の場合は自費となります。
(4)超低用量ピル
超低用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)の量が1錠中30μgより少ない製品です。低用量ピルよりもさらに卵胞ホルモン(エストロゲン)の含有量が低く、血栓症などの重大な副作用、頭痛や吐き気などの副作用が出にくくなります。一方、不正出血が起きやすくなるなどのデメリットもあるため、注意が必要です。
(5)ミニピル
ミニピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)を一切含まないピルです。喫煙者や肥満気味の方、高齢の方はピルの服用による静脈血栓塞栓症の発症リスクが上昇すると言われています。その場合、エストロゲンが配合されている薬剤は使用しづらいため、ミニピルが使用されることがあります。
(6)緊急避妊薬(アフターピル)
緊急避妊薬(アフターピル)はモーニングアフターピルとも呼ばれ、避妊に失敗してしまった場合など性交渉後に服用する緊急避妊薬のことです。黄体ホルモン(プロゲステロン)が主成分で、排卵後に内服すると、精子と受精した卵子の着床を妨げたり子宮内膜を剥離させたりする効果があります。また、排卵前に内服した場合、排卵を遅らせたり抑制したりする効果が期待できます。
3.低用量ピル、超低用量ピルの種類
前述の低用量ピルおよび超低用量ピルは、黄体ホルモン(プロゲステロン)の種類や開発順により、さらに4つの世代に分類されます。一般的に、世代が新しくなると男性ホルモン(アンドロゲン)作用が弱くなるといわれており、体重増加や多毛、ニキビなどの副作用軽減が期待されています。
また、これらは低用量のEP配合剤であるため、LEP(Low dose Estrogen-Progestin)製剤と総称されることもあります。
(1)第1世代
第1世代の黄体ホルモン(プロゲステロン)は、ノルエチステロン(NET)が配合されている、シンフェーズやルナベル(LD/ULD)、フリウェル(LD/ULD)などの製品が該当します。フリウェルはルナベルのオーソライズドジェネリック(AG)であり、原薬、添加物、製造方法が同等です。また、LDはLow Dose(低用量)、ULDはUltra Low Dose(超低用量)をあらわしています。
(2)第2世代
第2世代の黄体ホルモン(プロゲステロン)は、レボノルゲストレル(LNG)が配合されている、トリキュラーやラベルフィーユ、ジェミーナなどの製品が該当します。トリキュラーおよびラベルフィールは3相性ピルと呼ばれ、女性の生理的なホルモン動態にあわせて、1周期内服する間にホルモンの量を3段階に増減させています。ジェミーナは月経困難症に用いられる1相性の超低用量ピルです。
(3)第3世代
第3世代のプロゲステロンは、デソゲストレル(DSG)が配合されているマーベロンやファボワールなどの製品です。男性ホルモン(アンドロゲン)作用が少ないため、ニキビや多毛症の改善が期待できるという特徴があります。
(4)第4世代
第4世代のプロゲステロンとしては、ドロスピレノン(DRSP)が配合されている、ヤーズおよびヤーズフレックスがあげられます。国内では2010年(ヤーズフレックスは2017年)から発売されている、比較的新しいピルです。月経困難症や子宮内膜症(ヤーズフレックスのみ)では保険適用されています。
4.ヤーズとヤーズフレックスの違い
ヤーズとヤーズフレックスは、いずれも同じ有効成分が配合された医薬品です。まずはそれぞれの概要について確認したうえで、相違点についてご説明します。
(1)ヤーズ
ヤーズは、第4世代の超低用量ピルで、1錠中にドロスピレノン3mgおよびエチニルエストラジオール0.020mg(エチニルエストラジオールベータデクスとして)が配合されています。1シート28錠中24錠は実薬で、残りの4錠はプラセボです。実薬部分は淡赤色で「DS」の識別コードが、プラセボ部分は白色で「DP」の識別コードが刻印されています。
排卵を抑え、子宮内膜症が厚くならないようにして痛みの原因となる物質の産生を抑制し、月経困難症の症状を和らげる働きがあります。実薬が24錠タイプで、休薬期間が4日間と短く(他のピルは7日間)ホルモン変動が少ないため、副作用が少ないことが特徴です。
(2)ヤーズフレックス
ヤーズフレックスは、ヤーズと同様に第4世代の超低用量ピルで、1錠中にドロスピレノン3mgおよびエチニルエストラジオール0.020mg(エチニルエストラジオールベータデクスとして)が配合されています。1シート28錠中のすべてが実薬で、ヤーズの実薬部分と同じく、淡赤色で「DS」の識別コードが刻印されています。
ヤーズフレックスは、2017年4月から発売されたヤーズのラインナップの一つで、最長で120日間連続して服用できる点が特徴です。作用機序は基本的にヤーズと同じですが、月経困難症の症状の緩和に加えて、子宮内膜症の痛みに対して用いられる場合もあります。
(3)ヤーズとヤーズフレックスの違い
①連続服用が可能な期間
ヤーズとヤーズフレックスは、いずれも同じ有効成分が配合された医薬品です。違いとしては、ヤーズでは1シート28錠中24錠に有効成分が配合され、残りの4錠はプラセボですが、ヤーズフレックスでは28錠すべてに有効成分が配合されています。
これにより、ヤーズフレックスでは低用量ピル(超低用量ピルを含む)において、国内で初めて連続服用が可能となりました。定期的な休薬期間の回数を少なくし、休薬期間に多くみられるホルモン関連症状(頭痛、骨盤痛、腹部膨満感、乳房痛など)を軽減させる効果が期待されています。
さらに、ヤーズフレックスでは服用中に起きる出血にあわせて休薬期間を設けるため、28日周期で服用する場合に比べて、出血の回数や痛みを伴う出血日数の減少も期待できます。
②保険適用の範囲
ヤーズでは月経困難症のみ保険適用されていますが、ヤーズフレックスは月経困難症に加えて、子宮内膜症に伴う疼痛の改善に対しても保険適用されています。薬価は、ヤーズでは234.80円であるのに対して、ヤーズフレックスでは280.10円となっています(いずれも2021年4月1日時点)。
5.緊急避妊薬とは
緊急避妊薬(アフターピル)とは、妊娠を回避するために性交の後に服用する経口避妊薬のことで、避妊に失敗した場合などの望まない妊娠を防ぐために服用されます。黄体ホルモン(プロゲステロン)を含み、排卵抑制作用により避妊効果を発現します。しかし、妊娠(受精)を予防するための薬であり、妊娠(受精)後は効果がなく、中絶効果もありません。
日本で唯一承認されている経口避妊薬にレボノルゲストレル(ノルレボ🄬)があります。2011年2月23日に承認されました。しかし、望まない妊娠による人工妊娠中絶が年間16万人以上にのぼる中で、医師の診察による処方箋が必要である(処方箋医薬品)ことや、保険適用外で高価であることなどから、薬に対するアクセスの悪さが問題視されました。そこで、2017年7月26日に厚生労働省による「医療用から要指導・一般用への転用に関する評価検討会議」を皮切りに、一般用医薬品(いわゆる市販薬、OTC)への転用、すなわちスイッチOTCがたびたび議論されていますが、未だに実現されていません。
その一方で、海外では19ヵ国で市販薬として薬局などで直接購入が可能であり(OTC)、76ヵ国で処方箋なしに薬局で薬剤師の服薬説明のもとで販売されています(BPC)。
6.緊急避妊薬のメリット、デメリット
緊急避妊薬を市販薬に転用することで、次のようなことが期待されます。
望まない妊娠による人工妊娠中絶を回避しやすくすることで、精神的、身体的、金銭的な負担を軽減することができる
添付文書によると、性交後72時間以内に服用するとされているが、できる限り速やかに服用することで避妊効果を得られやすいため、ハードルを下げることで、意思決定の迅速化により高い効果が期待できる
しかし、日本で緊急避妊薬の承認が遅れたり市販薬への転用が進まない背景には、次のような原因が考えられます。
不確実な避妊法を繰り返す人が増える
販売する薬局薬剤師の教育が不足している
経口避妊薬(低用量ピル)が海外のように普及していない
コンドーム使用率の低下による性感染症が増える
性教育が遅れているため、性の乱れや性暴力への悪用につながる
性器不正出血、頭痛、吐き気などの副作用がある
また、現在、処方箋なしで緊急避妊薬を販売することは認められていませんが、2019年(令和元年)7月に厚生労働省によって取りまとめられた「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が改訂され、オンライン診察による緊急避妊薬の処方が可能になりました。しかし、これには以下の問題があります。
転売や悪用の防止のために、薬を薬剤師の前で服用しなければならない(面前内服)
その薬の特性や患者の状況などを鑑み、患者は研修を修了した薬剤師による調剤を受けなければならない
妊娠を回避できたか確認するために、3週間後に産婦人科を受診しなければならない
薬に対するアクセスの悪さ
クレジットカード決済の病院が多く、10代には支払えない
配達の関係で、72時間以内に服用できない
休日は病院が開いていないため、オンラインでも診療できない
7.経口避妊薬と緊急避妊薬の違い
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