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【薬剤師】リフィル処方箋について

こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。

リフィル処方箋制度は諸外国ではすでに一般的で、日本でも2022年の診療報酬改定において導入が決定しました。この制度により、薬局薬剤師の業務に大きく影響を及ぼすと考えられています。

今回は、リフィル処方箋制度の概要やメリット・デメリットとあわせて、薬剤師の業務への影響や今後の動向についてまとめたいと思います。


1.リフィル処方箋制度とは?

「リフィル」とは、詰め替えやおかわりを意味する言葉です。「リフィル処方箋」とは、処方医によって定められた回数と期限内で、繰り返し使用可能な処方箋を指します。つまり、「リフィル処方箋制度」とは、何度も病院に行かなくても、一枚の処方箋で複数回にわたり医薬品を受け取れる制度です。

アメリカ、フランス、イギリス、オーストラリアなどでは既に導入済みです。とくにアメリカでは、1951年に取り組みが始まり、長期にわたってこの制度が国内に浸透しています。

一方で、日本においてはリフィル処方箋制度に懸念点があると慎重に検討されてきましたが、ようやく2022年の診療報酬改定で導入が決定しました。

2.リフィル処方箋制度導入のメリット・デメリット

導入が決定したリフィル処方箋制度について、具体的にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。

<メリット>

  • 患者の通院の負担が省ける

近所に対応できる調剤薬局さえあれば、病院へ足を運ぶことなく医薬品を受け取れるようになります。病状が安定している高齢者や体の不自由な患者にとっては、大きなメリットがあると考えられます。

  • 残薬対策・アドヒアランス低下の防止になる

近年問題となっている長期処方による残薬問題の対策にもなると考えられています。

長期処方の目的は、複数回病院を受診する手間や診察費を減らすことです。しかし、処方日数が数ヶ月になると、自己判断で服用を途中でやめてしまい、結果的に残薬が発生する患者も少なくないと思われます。そうした中で、小分けに処方して薬を飲み切ってもらうことができれば、残薬や服薬アドヒアランスの低下が抑えられると考えられています。

  • 医療機関の負担軽減・医師不足の解消

リフィル処方箋制度が導入されることで、病状が安定している患者の受診が減り、効率的に優先度の高い患者の対応に診療時間を充てることができると予測されます。これにより、医療機関の負担が軽減し、医師不足の解消にもつながるでしょう。

  • 医療費の削減につながる

患者による病医院の受診回数が減ると、医療費が減少します。2020年度の医療費は、コロナ禍での受診控えなどによって、2017年度と同程度の42.2兆円まで減少しました。高齢化に伴う医療費の増大が見込まれている中で、リフィル処方箋制度は医療費の削減に有力な対策の一つになると考えられています。

<デメリット>

  • 薬の過剰摂取や体調の変化に気づきにくい

薬の過剰な服用につながったり、医師が患者の病状の変化を見逃してしまったりする恐れがあります。最悪のケースでは、生命予後にも影響を与えることも心配されます。

  • 医療機関の収入減につながる

受診回数の減少による医療費の削減は、患者にとってメリットと言えますが、医療機関にとっては収入の減少に繋がると考えられます。さらに、複数受診する必要がなくなることにより、患者の病院離れも懸念されるでしょう。

3.薬剤師の仕事への影響とは

リフィル処方箋制度が導入された場合は、薬局薬剤師の業務にも影響を与えることが予測されます。

(1)患者の来局回数が増える

患者は病院の受診頻度を減らせますが、少量の薬を複数回に分けて受け取る必要があるため、薬局への来局回数は増える見込みです。薬剤師にとっては調剤業務が忙しくなることが見込まれます。電子薬歴をはじめ、全自動分包機・監査機などによる、効率の良い調剤システムの自動化が求められるでしょう。

(2)医師に代わって患者の経過観察が必要になる

些細な体調の変化、服薬の問題点や副作用などは、患者自身では気づけないケースも少なくありません。そのため、投薬時に患者と対面する薬剤師が、病気と薬に対する豊富な知識と経験をもって、病状の変化や服薬状況、副作用の兆候などを観察、確認し、医師にフィードバックする必要があります。

これまで以上に薬学的、医学的な判断が求められ、服薬指導などの対人業務に時間がかかるようになると考えられます。薬剤師には、患者への対応をはじめとする様々な変化への柔軟な対応が求められるでしょう。

4.分割調剤

リフィル処方箋と似たものに、分割調剤があります。

これまでに分割調剤の処方箋を受け取ったことはありますか?めったに見ることがないので、まだ分割調剤を経験したことのない方も多いのではないでしょうか。

しかし、分割調剤の基本的な知識を身につけておかないと、必要なときにそのメリットを活かした服薬指導ができません。そこで、この記事では分割調剤という制度ができた理由、そしてそのメリットやデメリットまで詳しく解説します。

(1)分割調剤とは?

分割調剤とは「医師の指示により最大3回に分けて調剤を行うこと」で、2016年度の診療報酬改定により実施が可能になりました。おもに「患者がお薬を服用するうえで、薬剤師のサポートが必要」だと医師が判断した場合に分割調剤として処方されます。

なかには「2016年よりも以前から分割調剤はできたのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、これまでの分割調剤は、以下のようなパターンのときに行っていました。

  • お薬が長期間にわたって処方されているが、患者の管理が難しいと判断された場合

  • 初めて使用するジェネリック医薬品に不安があるので、少量だけお試しをしたいと患者から要望があった場合

長期処方やジェネリック医薬品のお試しで行う分割調剤は、医師への連絡は必要になるものの「医師の指示」は必要ありません。そのため基本的には薬剤師の判断で行えました。一方で、2016年から導入された分割調剤は、医師の指示が必要となります。

(2)リフィル処方箋との違い

分割調剤とは、主に医師からの指示を受けて本来1回で処方する薬剤を最大3回分に分けて処方する方法です。

この方法は、主に長期的な保存に向いていない薬剤を処方する際や患者自身による薬剤の保存が難しいと判断された際などに用いられます。薬剤師は指示を受けて分割調剤を行いますが、医師がなぜそう判断したのかを把握しておかなければなりません。

その一方で、リフィル処方箋とは、一定期間内であれば1枚の処方箋で最大3回まで同じ薬剤を処方する方法です。

この処方箋は、一般的に慢性疾患などを抱えている患者に対して、病状が安定していて同じ薬剤を長期的に処方できると医師が判断した場合に発行されます。リフィル処方箋を利用することで、病院で診療を受けずとも薬剤がもらえます。それにより、薬を受け取るためだけの通院を減らすことが可能となり、患者への身体的・経済的負担を抑えられます。

このように分割調剤は、本来1回で処方する薬剤を最大3回分に分けて処方する方法なのに対し、リフィル処方箋は1枚で最大3回まで薬剤を受け取れる処方箋であるという違いがあります。

(3)「医師の指示による分割調剤」を取り入れた目的

では、ここからは2016年の診療報酬改定で新しくできた「医師の指示による分割調剤」について詳しく解説します。なぜこのような分割調剤の制度ができたのでしょうか。

分割調剤の制度を導入する目的について、実は明確な理由は発表されていません。しかし、分割調剤を行うメリットを考えると、次のようなことが目的だと考えられます。

  • 残薬を防ぎ、医療費を削減する

国の医療費が年々増え続けていることは、多くの方がご存知でしょう。2019年の医療費は43.6兆円を記録しており、約20年前と比べると実に10兆円近くも増えています。この医療費の増大に大きな影響を与えていると考えられているのが、残薬です。実は75歳以上の患者だけを見ても処方されたお薬のうち、475億円分のお薬が飲まれることなく眠ったままになっていると言われています。

分割調剤を行えば、長期間にわたるお薬を一度に患者へ渡すことがなくなり、途中で残薬の確認ができるので必要のないお薬を渡す頻度を減らせるのです。

  • 適切な服薬管理でポリファーマシーを予防する

いくら飲み慣れたお薬であっても、医師や薬剤師の介入なく何か月にもわたって飲み続けるのは、副作用や効果不足などのリスクが考えられます。場合によっては途中で併用薬が増え、飲み合わせに注意が必要になることもあるでしょう。分割調剤では患者と対面する機会が増えるため、このようなリスクを減らすことができます。

なお、ポリファーマシーについては、詳しくは以下の記事をご参照ください。

  • 患者の健康状態をより観察できるようにする

患者にお薬を渡した後、ほとんどの場合は次の来局まで患者に関わることはありません。しかし、「患者に薬を渡してそれで終わりでいいのか?」と言われればそうではないもの。分割調剤だと、患者が実際に服薬をはじめてからどのような変化があったのかまでしっかりと観察できるため、より踏み込んだ服薬管理が可能になります。

まだ広く普及しているとは言いがたい分割調剤ですが、うまく活用することで、服薬アドヒアランスを改善したり、副作用を発見できたりといった報告がされています。たとえば、関節リウマチやホルモン剤などで分割調剤を行った例では、服薬による容体の変化や副作用の早期発見につながりました。薬剤師が細かく介入することで、患者の変化をいち早くキャッチし、用量や薬剤の変更によって治療を進めやすい状態にできたのです。

なお、ポリファーマシーについては、詳しくは以下の記事をご参照ください。

(4)分割調剤を取り入れる際のメリット・デメリット

分割調剤を行うことで、患者に何かしらのメリットがあることは分かりました。では、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。また、分割調剤を行ううえでのデメリットはないのでしょうか。それぞれどのようなものがあるのかを紹介します。

<メリット>

分割調剤を行うメリットとしては、主に以下のものが挙げられます。

  • 服薬アドヒアランスを向上できる

  • 副作用に早く気づける

  • 長期間にわたる処方でも服薬管理がしやすい

  • 薬剤変更による効果の出方を観察しやすい

  • 服薬管理能力に不安がある患者に細やかな指導ができる

薬剤師が患者の服薬状況を細かく観察できるようになることで、体調や副作用の変化に早く気づき、結果として服薬アドヒアランスを向上できます。最大3回まで分割できる=服薬指導の回数も最大3倍にまで増やせるので、90日分など長期にわたる処方でも効果や副作用などを観察しながらの管理が可能です。患者への介入回数が増える分、薬剤の変更があった場合も変化に気づきやすくなります。

また、飲み忘れや飲み間違いが多い方へのケアがしやすいこともメリットのひとつです。「余っている薬はありませんか?」「飲みにくいお薬はありませんか?」とこまめに服薬状況を確認し、残薬の調整や薬剤変更の提案が可能です。

<デメリット>

分割調剤をすることは良いことばかりにも思えますが、次のようなデメリットもあります。

  • 薬剤師の業務負担が増える割には算定があまり取れない

  • 「2回目以降は近隣薬局で受け取りたい」といった要望が患者からあがることも

  • 長期間にわたる処方を促すことにつながる

医師の指示による分割調剤を行った場合、2回目以降の調剤からは必ず医師へ患者の服薬状況や体調の変化などを報告しなければいけません。次回から薬局を変えたいと患者が言えば、持参予定の薬局に現在の服薬状況などを伝える必要もあります。そろそろ薬がなくなる頃なのに来局されない場合には、状況確認のため来局を促すこともあるでしょう。

このように分割調剤を行うと、様々な業務負担が加わります。しかし、現状では1回の調剤につき、調剤基本料や調剤料、薬学管理料は所定の点数を分割回数で割ったものしか算定できません。服薬情報等提供料に関しては分割回数で割ることなく1回につき30点を算定できますが、それでも労力の割に合わないと考える方は多いでしょう。

「手間がかかるのにむしろ算定点数が低くなるのはどうなのか」「分割回数で割らずに1回の調剤につき通常通りの点数を算定すべきだ」との声が多くあがっており、現在でも点数については議論が続いています。また、分割調剤を推進することで無闇な長期処方を促し、適切な治療が行われにくくなるのではといった懸念の声も少なくありません。

(5)分割調剤を行ううえで薬剤師が注意すべきこと

せっかくの分割調剤も、ただ処方箋通りに調剤してお渡しするだけではまったく意味がありません。なぜ医師が分割調剤の指示を出したのかを把握し、うまく患者の服薬管理に介入していく必要があります。

そもそも分割調剤になる処方箋は、長期処方が前提です。つまり薬剤師による服薬管理がスムーズにいかないまま分割調剤を推進すると、必然的に長期処方を促すことになってしまうのです。

適切な服薬指導を行い、患者をしっかりとサポートしていきましょう。

(6)分割調剤となる意味を理解し、患者のよりよい服薬管理を支えよう

医師の指示による分割調剤は、医療費の削減や手厚い服薬管理などにつながります。患者への服薬状況や容体を確認する機会が増え、これまではなかなか難しかった細やかなケアが可能になります。また、体調の変化や副作用の有無にも気づきやすくなるため、患者の治療をスムーズに進めることにもつながります。

しかし分割調剤は、このようなメリットがある一方で長期処方を促すと危惧されていることも事実です。患者の服薬にうまく踏み込めなければ、分割調剤のメリットをまったく活かすことができません。

算定できる点数が低いなど分割調剤を推進するには環境が整っていない状況ではありますが、なぜ医師があえて分割調剤にしたのかといった、意図をくみ取り積極的に治療へ介入してくことが大切です。

5.まとめ

リフィル処方箋制度が導入され、薬局薬剤師はさらに重要な役割を担うようになると考えられます。

これまで以上に、豊富な経験はもちろんのこと、薬学的知識や医学的知識が必要になります。医師との連携に加えて、患者とのコミュニケーションなども重要になります。それらに伴って責任も大きくなるでしょう。

今後、中医協によって制度設計が議論されますが、患者の対象範囲などを巡って、健康保険組合連合会、日本医師会、さらには日本薬剤師会も加わり、最終的にどのような制度となるのか今後の動向に注目しましょう。

リフィル処方箋制度の導入は医療業界に様々な変化をもたらす可能性があります。今のうちに、その概要とメリット、デメリットを把握しておき、どうのような立ち振る舞いが望ましいか考えておく必要があります。

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