【薬剤師】漢方薬について
こんにちは。やまぶきです。
今回もnoteをご覧いただきありがとうございます。
漢方薬は作用機序が明確で、特定の疾患や症状に対する治療効果が期待できる西洋薬とは異なり、体質改善による治療を得意とする薬です。
西洋薬で効果が得られなかったときに漢方に切り替えるケースもあり、薬剤師としては「漢方薬はどう効くの?」と患者さまから質問を受けることもあるのではないでしょうか。
今回は漢方薬についてまとめたいと思います。
1.西洋医学と東洋医学とは
西洋医学は投薬や手術といった方法で、客観的なデータをもとに体の悪い部分に直接アプローチして治療します。
これに対して、東洋医学は主観的な経験則をもとに、体の不調を内側から根本的に治す治療法です。具体的には鍼灸やあん摩、漢方薬といった方法で治療を進めていきます。
2.西洋医学と東洋医学の特徴
(1)西洋医学の特徴
<メリット>
外科手術による根治的治療(腫瘍や骨折など)、感染症、検査、救急など、病気の原因が分かるものに向く
体系的に学習する環境が整っている
客観的視点により治療をするため、一定の結果を出すことができる
西洋薬は剤形が多様なため、さまざまな患者が使用しやすい
西洋薬は添加剤によりにおいや味をカバーできるため、アドヒアランスを得られやすい
<デメリット>
慢性疾患(高血圧、糖尿病、疼痛、花粉症など)など、病気の原因がはっきりしないものに向かない(対症療法が基本であり、飲み続けても根本的な改善に至ることは少ない)
患者の身体所見や体質はあまり考慮されず、同じ病気や症状に対して同じ治療を行う
人体を区切って診るため、病気の原因がわかりにくい場合がある
診療科が分かれているため、受診が大変で連携しづらい
歴史が浅く、エビデンスに乏しい
(2)東洋医学の特徴
<メリット>
慢性疾患(高血圧、糖尿病、疼痛、花粉症など)など、病気の原因がはっきりしないものに向く(原因療法が基本であり、飲み続けても根本的な改善に至ることが多い)
患者の身体全体を見て施術や治療を行う(心身一如)
身体所見や体質を考慮して、同じ病気や症状に対しても一人ひとりに異なった施術や治療を行う(同病異治)
身体所見や体質に合わせて、異なる病気や症状に対して同じ施術や治療を行う(異病同治)
人体を区切らずに診断するため、病気の原因が分かりやすい場合がある
病気になりにくいように体力や免疫をつけ、自然治癒力を強めるような治療ができる
長い歴史があり、エビデンスが豊富である(臨床試験は長年の歴史の中で終了しているため不変的である)
<デメリット>
抽象的な概念が多く、用語が定義されていないので、初学者にとって理解しにくい
体系的に学習する環境が整っていない
外科手術による根治的治療(腫瘍や骨折など)、感染症、検査、救急など、病気の原因が分かるものに向かない
主観的視点により施術や治療をするため、施術者によって結果に差を生じやすい
漢方薬は剤形が限られているため、嚥下困難な患者には使用しにくい
漢方薬は独特のにおいや味があるため、アドヒアランスが得られにくい
(3)西洋医学と東洋医学の使い分け方
西洋医学と東洋医学にはそれぞれメリットとデメリットがあり、それぞれの特性を踏まえて使い分けていく必要があります。西洋薬で急性症状を緩和しつつ、漢方薬で体質改善を図ることで、総合的な治療効果が期待できるというのが、よく用いられる使い分け方です。
また西洋薬と漢方薬の併用において相互作用を及ぼす薬も存在するため、基本的には処方元の医師や購入元の薬局の薬剤師に確認をした上で併用をしてもらう必要があります。
西洋薬と漢方薬の違いが難しく感じている患者さまもいるため、患者さまへ服薬指導をする際には、それぞれの内服している薬はあるか確認したり詳しく説明する必要があるでしょう。
3.東洋医学における「気血水」とは?
東洋医学では、生命を維持するための栄養成分として「気」「血」「水」の3つの要素で捉えます。「気」とは体内のエネルギー、「血」とは血液、「水」とは(血液以外の)体液を指しているものであり、そのバランスが健康に大きく影響すると考えられています。
漢方薬の基本的な性質を理解するためにも、「気」「血」「水」の各要素がどのような役割を果たしているのか確認していきましょう。
(1)気(き)
東洋医学における「気」は、体や脳の活動を支える目に見えないエネルギーのことです。
呼吸や毎日の食事から得られる「気」が体内を巡ることで、体の各機能を調整するとされています。
また気の流れが滞ることを「気滞(きたい)」といい、精神的なストレスやうつ状態を引き起こす原因となると考えられています。そして、気が逆行することを「気逆(きぎゃく)」といい、咳、不安感、動悸、頭痛などの症状があらわれると言われており、とくに発作性の症状がみられると考えられているのも気逆の特徴の1つです。気が不足する「気虚(ききょ)」では、疲れやすく、体がだるくなるなどの症状が見られるとされています。漢方ではこれらの気に関する症状を改善するために、気の巡りを整える処方を用いていきます。
(2)血(けつ)
「血」とは字の通り、血液のことを指します。血は全身に酸素や栄養を運び、体を潤す役割を果たしているものです。
血の流れに障害をきたす状態を「瘀血(おけつ)」といい、月経異常や肩こり、冷えなどの症状を引き起こすとされています。また、血の量が不足した状態を「血虚(けっきょ)」といい、眼の疲れや皮膚の乾燥、顔色の悪さ、こむら返りなどの症状があらわれるとされています。漢方薬では、血を補ったり血流を改善する効果が期待できる漢方を用いて、これらの症状を緩和する治療を行っていくのが血に関する基本の治療法です。
(3)水(すい)
「水」とは血液以外の体液のことを指す言葉です。そもそも体内の水分は、消化液やリンパ液など重要な役割を担っています。水分代謝の不調は、むくみや乾燥、消化不良などの症状を引き起こすとされており、水分代謝を整えることは漢方医学だけでなく西洋医学でも重視されている考えです。
水が偏在した状態を「水毒(すいどく)」または「水滞(すいたい)」といい、めまい、頭痛、動悸、浮腫、下痢、尿量の変動などがあらわれると考えられています。漢方では、水分のバランスを整える処方を用いて、これらの症状を改善する効果が期待されていますが、水の不足や流れの滞りは乱れた食生活や冷たいものの取りすぎが要因とも考えられることもあります。そのため漢方の処方だけでなく、食生活の指導も漢方による治療と合わせて行われていくケースも考えられるでしょう。
4.東洋医学における「証」とは?
東洋医学では「気・血・水」の状態に加えて「証(しょう)」と呼ばれるものを用いて、患者の体質や症状を総合的に判断します。
次に「証」について確認していきましょう。
(1)証の種類
そもそも漢方薬はその人の体の状態や体質に合わせて処方を行っていくものです。「証」はそれぞれの患者さまの体質のようなものを指しており、証によって処方を変えたり検討したりします。
「証」には虚(きょ)・実(じつ)の2つの分け方があります。虚と実は、体力や抵抗力によって判断されるもので、それぞれの特徴は下記の通りです。
虚:体力がない、下痢をしやすい、細くて小さな声、寒がり、華奢で細い
実:体力がある、便秘になりやすい、太くて大きな声、暑がり、筋肉質(必ずではない)
上記のような特徴から虚と実のどちらの証か判断していき、それぞれに当てはまる人を虚証・実証と呼びます。実の人に効果が期待しやすい漢方薬や、一方で虚の人に効果が期待しやすい漢方薬があるため、証を判断して処方を検討するのは東洋医学において重要なポイントです。
(2)証の診断方法
証の診断は、望診、聞診、問診、切診という四診を用いて行っていきます。
望診は患者の外見や姿勢を観察します。聞診は患者の声や呼吸音、匂いなどをを確認します。問診では患者の症状や生活習慣について詳しく聞きます。切診では脈拍や腹部の触診を行います。これにより、患者の状態を総合的に把握し、最適な治療法を決定していき漢方を処方します。
5.東洋医学における「気血水」と「証」の関係性は?
「気血水」のバランスと「証」の関係性を知ることは、東洋医学における体質改善を理解するのに重要なポイントです。
東洋医学において、「気血水」と「証」は体質改善のための重要な指標です。「気血水」は生命を構成するのに欠かせない成分を示し、気、血、水それぞれのバランスが健康に直結しています。一方、「証」は患者の現在の体質を評価する方法であり、これに基づいて最適な治療法や漢方薬を選択します。
「証」に基づく治療法は、個々の患者の具体的な体質や生活習慣を考慮した治療法となるため、より効果的な体質改善が期待できるといえるでしょう。
「証」を把握して治療をしていく東洋医学では、単に症状を治すだけでなく根本的な体質改善を目指すために、「気血水」と「証」の両方を重視します。このように、薬剤師の方々による「気血水」と「証」への理解が深まることで、患者さまへの服薬指導において、漢方薬は根本的な体質改善を目的とした治療であることを理解していただけるようになるのではないでしょうか。
6.まとめ
本記事では、漢方の気血水や証とは何かという漢方医学の基本や、漢方の気血水や証の関係性から漢方が体質改善に用いられる理由、漢方薬と西洋薬との違いや使用における注意点などを紹介しました。
患者さまの中には、西洋薬と漢方薬の間にはどんな違いがあり、どのように効いているのか不安という方もいるかもしれません。患者さまが漢方薬の性質を理解して、症状改善や体質改善のために内服し続けられるように、薬剤師として漢方についての知識を身につけておくと良いでしょう。
西洋医学と東洋医学は、どちらが良い悪いというものではありません。西洋医学には短い時間で病気を治療できるという良さがあり、東洋医学の治療は体に負担がかかりにくいという良さがあります。
重要なことは、どちらが優れているかではなく、双方の手を結ばせた上で、その中から人々の健康に最も役立つ活用法を選ぶことです。
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